第十二幕 29 『謎のプリンセス』
ガエル君が双転珠を起動し私達は光に包まれ……その光が晴れたとき、その景色は一変していた。
先程まで居た学園の校舎内から……どこかの貴族の邸の中だろうか?
転移してきた部屋は調度品の類は何もなく、唯の空き部屋なのだが、内装や広さ、窓や扉などが、それらしい様式だったのだ。
何もないと言ったが、部屋の中央には台座のようなものと、その上に乗った宝珠。
おそらくガエル君が持っていたものと対になってるのだろう。
「ここは……?」
「……王都内にある、かつての貴族邸だ。今は住む主もなく売りに出ている。……表向きはな」
なるほど……そう言う旧貴族邸は幾つかあるみたい。
エーデルワイスの邸もそう言ったものの一つだった。
だけど、それはつまり空き家だ。
それに、普通の民家とは違ってしっかり管理されてもいるはずだ。
まぁ、偽装してるんだろうけど。
部屋の外に出ると長い廊下があり、ガエル君に案内されてそこを進んでいく。
廊下の長さから見て中堅クラスだろうか?
階段を登って上階に、更に廊下を進んで最奥にある扉の前へとやって来た。
中から複数の人の気配を感じたので、念のため警戒はしておく。
ガエル君が扉をノックして入室許可を求める。
コンコン。
「ガエルです。カティア様をお連れしました」
「どうぞ」
返ってきたのは若い女の人の声。
扉越しでくぐもっているが、どことなく聞き覚えがあるような……
そして、扉を開いて部屋の中に入る。
果たして、そこに待ち受けていたのは……
「ようこそお越しくださいました。また、お呼び立てするようなことをして、大変申し訳ありませんでした」
私を迎えてくれたのは、黒髪黒目の凛とした雰囲気で、どこか中性的な美貌を持つ少女。
歳は私と同じ位か、もう少し上かも?
しかし、それよりも……私は彼女の容姿に見覚えがあった。
「リシィ……さん?」
そう、これまで夢の中で何度か見たリシィにそっくりだったのだ。
年齢は少し下に見えるが、顔の造作や雰囲気がとても似ている。
もちろん、当人では無いとは思うけど、思わず呟きが漏れるくらいには……
「えっ!?………いえ、私はエフィメラと申します。エフィメラ=リゼラ=フロル=
「殿下っ!?それは……!」
お付きの人が慌てた様子で声を上げた。
だが、もう遅いね。
エフィメラ……『グラナ』ね。
「良いのです。こちらからお呼び立てしてしまったのですから……素性を隠したままなのは誠意に欠けると言うものです」
素性……家名が『グラナ』で『殿下』と聞けば、つまりはそう言うことなのだろう。
それより、こっちもちゃんと名乗るのが礼儀だね。
「お初にお目にかかります。私はカティア=カリーネ=イスパルと申します。……まさか、ここでグラナの方にお目にかかれるとは思っても見ませんでした」
「ガエルからは、まだ何も?」
「ええ。会って頂きたい人がいる……とだけ」
「俺は一学生に過ぎませんので。そのような重大な事は自分からは口に出来ません」
「一学生ね……」
ここにこうしているだけでも、それは有り得ないと思うのだけど。
まぁ、彼のことはまた後で聞かせてもらおう。
それよりも、今は彼女と話をするのが先決だ。
「カティア様は私の姿を見て、『リシィ』と仰いましたね?……それは、もしかして300年前のリシェラネイア様の事でしょうか?」
「……生憎と本名は知らないのですが、
ちょっと嘘をついた。
流石に夢の中で見た、なんて胡散臭いからね……
「そうですか……実は、グラナにも姿絵が伝わっておりまして。私は見たことがないのですが、見たことがある者からは、やはり似ていると言われました。それで、その……私のこの姿は偽りなのです」
そう言って、彼女は指に嵌めた指輪を外した。
またもやお付きの人が慌てる素振りを見せるが……
ほんの一瞬だけ彼女は光に包まれて……それが晴れた後、彼女の姿は劇的に変化した。
黒髪は光り輝く青銀へ。
瞳は透き通るような青へ。
顔の造作は変わらないが、その印象はガラリと変わる。
そして、その姿は……【俺】の記憶にあったゲームの設定ラフスケッチに似ていた。
だが、それ以上に……
「シェラさん……?」
またしても、私は呟きを漏らすことになるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます