第十二幕 31 『意外な再会』
「私がこのイスパルへやってきたのは3年前。そして、この地に手引してくれたのは……」
そう言ってエフィメラさんは、ちら……と部屋の片隅を見やる。
そこには彼女の配下らしき人達が並んでいたのだが、そのうちの一人が進み出た。
その人は……
私はその人物の顔を見て思わず驚きの声を上げた。
「!?あ、あなたは……まさか、生きていたの!?」
雰囲気は以前感じたものとかなり異なるが、それは私が知る人物だった。
かつて、私の暗殺未遂事件やミーティア誘拐事件に関わっていたとされた、彼は……
「アグレアス侯爵……なぜ、あなたが?」
私が問いかけると、彼はそれには答えずに私の前へとやって来る。
その足取りはしっかりして、目は真っ直ぐに私を見ている。
そこには、かつてのどこか掴みどころのない雰囲気ではなく、毅然とした態度であった。
そして、私の前までやって来ると……跪いて臣下の礼を取るではないか。
「お久し振りで御座います、カティア様。再びこうしてお会いできたこと……誠に嬉しく存じます」
「え……あ、はい……?」
私はどう反応して良いのか分からず、何とも間抜けな声が出てしまう。
つまり……どういうこと?
「エフィメラ様の亡命の手引をしたのがアグレアス侯爵で?……でも、グラナの間者の疑いがあって……?」
混乱している私を見て、苦笑しながら彼は教えてくれた。
「混乱されるのも無理はありません。私は……いわゆる、二重スパイなのです。その事が黒神教側に発覚しそうだったので、死を偽装して身を隠しておりました」
「……つまり、表向きはイスパル王国の貴族で国の要職に付いて、その実グラナの間者……いえ、この場合は黒神教の、か。だけど本当は、グラナの皇族派……と言うこと?」
「経緯は概ねその通りですが、私が主と仰ぐのはあくまでもイスパル王家……いえ、それも少し違うのですが……カティア様は、アグレアス侯爵家の由来はご存知でしょうか?」
「……いえ、ごめんなさい。不勉強で……」
「ああ、いえ。殆どの者は知らぬこと故、仕方ありません。我がアグレアス家の歴史は古く、盟約の十二王家の成立の頃、遥か神代まで遡ることが出来るのですが……もともとイスパルの出自ではないのです」
ここまででは話の意図が分からず、私は目で続きを促す。
「アグレアス家は……かつてのアルマ王国に仕えていた一族なのです」
「アルマの……?では、現在イスパルを主とするのは、もしかして?」
「はい。ご想像の通りかと。……300年前のアルマ王国の滅亡の時、我が一族も運命を共にするはずでした。使えるべき主を失った臣下など……おめおめと生き残れない。当時の当主はそう考えていたようです」
「……だけど、アルマ王家の血筋がイスパル王家に受け継がれた事をどこかで知った?」
「ええ、その通りです。実は……魔王打倒を成し遂げたアルマ王家最後の王子、テオフィール様の仲間に我が一族の者がいたのです」
「え!?……因みに、その人の名は?」
私が以前夢で見たテオフィールのパーティメンバーは、リディアとリシィ……そしてもう一人。
「その者の名は、ローランド=アグレアスと言いました」
ローランド……愛称はロランか。
まさか、彼がアグレアス侯爵家の先祖だったとは。
だとすると、今現在のアグレアス侯爵家とグラナ皇家に繋がりがあるのは……
「テオフィールの仲間にあなたのご先祖様が居た。そして、グラナの皇族であったリシィも。それで……」
「……当時、どのような経緯があってそうなったのか……そこまでは分かりませんが、結果として我がグラナ皇家とアグレアス家は親交を得たのです」
私の推論を肯定するように。エフィメラさんが答えてくれた。
やはりそう言う事なのか……
でもそれを言うのなら、リディアとリシィ……イスパルとグラナにも何らかの繋がりがあっても良さそうなものだけど。
夢の中で見た彼女たちは、とても仲良さげに見えた。
あるいは、個人的にはそうであっても、恋人の祖国を滅ぼした国と繋がりを持つことには蟠りがあったのか?
まぁ、ここで考えても分かるものではないのだけど。
「話は分かりました。……つまり、あなたは味方と言うことで良いのですよね」
「もちろんで御座います。貴方様はアルマの血筋を受け継ぐイスパル王家の王女……そして、エメリール様の眷族であらせられる。それに、貴方様自身も、その才覚、人望、カリスマ……どれをとっても、忠誠を捧げるのにこれ以上相応しい御方はおりませぬ」
う……ちょっと持ち上げ過ぎでは?
でも、そう言う彼の態度は真摯で信頼が置けるように感じた。
「……不思議ですね。以前、私はあなたのことがよく分からなかった。ですが、今では信頼できる人物だと感じている……」
人を見る目はあると普段から自負してるのだけど……それは人には説明できない感覚によるものだ。
その私から見て、以前と今とで感じ方が違うのが不思議だった。
「……エメリール様の
確かに、リル姉さんの
心を読む程ではないけど、以前ミーティアを捜索するときにも、その力の一端を感じられた。
こうして私は、アグレアス侯爵と思いもよらなかった再会を果たし、驚くべき事実を知るのであった。
そして、いよいよこの会合の本題へと話は移る。
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