第十一幕 60 『天空の地』
全員が揃ったところで、改めて周囲を見渡して見る。
まるで楽園と言った雰囲気で、魔物が現れるようなところには見えない。
「ねぇ、ミロン?ここはどう言うところなの?」
相変わらずミーティアの頭の上に陣取っているミロンに聞いてみる。
これまで、どの階層も一筋縄ではいかなかった。
見た目は穏やかな雰囲気だが、この階層も厄介な試練が待ち受けているに違いない。
そう、思ったのだが……ミロンの答えは意外なものだった。
「この階層はボス戦だけです。長いダンジョン攻略で疲れた身体と心を、この美しい世界で存分に癒やしてから挑むと良いでしょう」
「へ?そうなの?」
思ってもみなかった答えに、思わず間の抜けた声で聞き返してしまう。
「なんだか拍子抜けですわね」
「いやいやいや。良いじゃないですか、余計な手間が省けるのなら」
「だが、ボス戦はあるんだろう?それ自体が厄介な試練だと言うことだろう」
「まぁ、そうだろうね」
むしろ下手な小細工が無い分、今までで一番厄介なのかもしれない。
「でも、何処に向かえばいいんスか?」
「確かに……一面の草原だから、目的地が分からないですね」
う〜ん……確かに。
周りを見渡しても、何か変わったものがあるわけでもない。
「まぁここに居たってしょうがないから、取り敢えず探索を始めてみましょうか」
何も目印がない場所を闇雲に探索するのは危険ではあるが、そこはロウエンさんやケイトリンの感覚が頼りになる。
そして私達は第79階層の探索をはじめるのだが……
30分ほど歩いていくと変化が現れた。
「うわ〜……」
「おぉ……」
あまりの光景に、ただただ感嘆の声が漏れ出る。
私達の目の前には、何もなかった。
文字通りの意味で。
いま私達が立っている地面は、その数メートル先でバッサリ切り取ったかのように途切れており、その先にはただ何もない空間が広がるのみ。
端から眼下を見下ろしても、何も見えない。
地面も海面も確認できないのだ。
最初は、ここは高地で断崖になってるのかとも思ったのだが、どうもこれは……
「空に浮かんでいる……?」
そう、見える。
「これまでも特異ではあったけど、これは更に不思議度合いが増してますね〜」
「……取りあえずは陸地の縁に沿って周ってみるか?」
「うん、そうだね。ボス戦だけだってことだし、どこかにその舞台があるんでしょう」
と言う事で探索を再開する。
陸地の縁を確認しながら……でも、あまり端っこを歩くと怖いので、十分陸地の内側を歩いていく。
最初のうちこそ、ミロンが言った通り美しい草原の光景を楽しんでいたが、代わり映えしない景色でもあるので早々に飽きてしまった。
ここが本当に空に浮かぶ島なのだとしたら何れは元の場所に戻ってくる事になるが…
途中、何もなければ内陸部を探索しなければならない。
だが、その懸念は杞憂に終わる。
陸の縁に沿って探索を始めてから小一時間程度経っただろうか。
それは唐突に現れた。
「これは……塔、か?」
天に向かって伸びる建造物、その外観は確かに塔と呼ぶべきものだ。
しかし、天を見上げてみれば……その行き着く先には、空に浮かぶ別の大地があった。
「……こんなのがあったのに、何で遠くから見えなかったんスかねぇ?」
「今更ダンジョンの不可解さを議論してもしょうがないけど、確かにそうだよね」
「認識阻害の結界でも張られてるんですかね?」
「とにかく行ってみましょう。きっと、あそこが戦いの舞台なのですわ」
ボス戦だけだという話だから、多分そうだろうね。
近付いてみると、塔の太さは……そうだね、丁度あの賢者の塔くらいだろうか。
だが、高さは比べものにならないくらいに高い。
それこそ前世の地球の高層ビルくらいはあろうか。
高さに対して凄く細く見えるので、ポッキリ折れてしまいそうだ。
塔には扉があり、そこから内部に入れるみたい。
さっそく扉を開けて中に入ると、そこには広々とした空間が広がるだけだった。
見上げてみれば天井は遥か遠く……というか見えない。
ようするに、この塔は中空の筒のようなものだ。
「あ、魔法陣があるよ!」
ミーティアが指差したところ、丁度へやの中央の床には彼女の言う通り複雑な魔法陣が描かれていた。
「うぇ……またコピーが現れるの?」
「いえ、かなり構成が異なるので違うと思います」
心底嫌そうに言うケイトリンの言葉を、リーゼさんが否定する。
確かに私の目から見ても、あの時の物とは雰囲気が違うように見えた
近付いて更に詳しく見てみることに。
こう言うのはリーゼさんの出番だね。
「何か分かりましたか?」
「そうですね……コピーの魔法陣の時もそうでしたが、現代の術式体系とはかなり異なるのでハッキリとした事は流石に分からないのですけど…」
そう前置きした上で彼女が語ったところによると……
・使用者が魔力を流すことで任意に発動させるタイプ。
・魔法陣は比較的単純な構成で、おそらくは単なるスイッチのようなもの。
・多分、塔そのものに組み込まれている魔法装置と連動してるのでは?
との事だった。
まぁ、シチュエーション的にはアレだよね。
賢者の塔にもあった仕掛けだ。
私がその事を伝えると、早速起動してみる事に。
私が代表して魔法陣の中心に立って、魔力の流れを意識して足元に流し込むようにイメージする。
すると、魔法陣は薄っすらとした輝きを放ち始めて……
ブォン……と、作動音らしきものが聞こえたと思えば、足元の床から淡く光る透明の床がせり上がってきた。
「わわっ!?」
「昇っていきますわ!」
うん。
やっぱりエレベーターだったか。
そうして私達は、塔の内部を上へ上へと昇っていく。
そして、その先には決戦の舞台が用意されていることだろう。
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