第十一幕 50 『克己の試練』


ーーーー カイト ーーーー



 第78階層……想定外の単独攻略となったが、幸いにも出現する魔物のランクはやや低いらしく、数の多さに多少難儀することはあったが順調に進んで来たと思う。


 出会ったのは何れもBランク程度だろうか?

 リビングアーマーやウッドゴーレム、クレイゴーレムなど。

 地上で遭遇することは稀だが、ダンジョンでは比較的メジャーな部類だったはずだ。



 順調に来ていると言っても、やはり単独だと消耗が激しい。

 体力的にも精神的にも。

 如何にパーティの力が大きかったのかと、改めて感じる。




 マッピングしながら探索を進めているが……何度か行き止まりに当たって引き返したりはしているが、おかしなトラップも特になく、至って普通(?)のダンジョンだ。




 変化があったのは、探索を開始してから数時間程度経った頃。

 行く手に大きな扉が現れた。

 鉄製らしき重厚な両開きのそれは、上層階のボス部屋の入口と似た雰囲気だ。


 おそらくは、ここでボス戦闘となるのだろう。


 これまで記録してきたマップを改めて確認してみると、まだ探索していない場所は幾つかあるのだが……多分行き止まりになってるだけだと思う。

 

 きっと、これをクリアしなければ皆と合流することは出来ない。



 多少の疲れはあるが、休憩を取るほどでもない。

 俺は覚悟を決めて扉を押し開く。














 部屋の中は広大な空間となっていた。

 予想に違わずボス部屋であることを窺わせる。


 だが、肝心の相手はどこに……?


 そう疑問に思うのも束の間の事だった。



 入ってきた扉が軋んだ音を立てて勝手に閉まった。


 そして、部屋の中央付近に巨大な魔法陣が現れ、そこから光が吹き出す。





 やがて光が消えた時、そこに立っていたのは……!




「……なっ!?そ、その姿は!?」


 思わず驚愕の声を上げてしまう。


 だが、それも仕方がないだろう。

 なぜならば、今、俺の目の前に立っているのは……



「『俺』だと!?」



 そうだ。

 その姿はどこからどう見ても俺自身だったのだ。

 顔貌かおかたちだけでなく、来ている服も、腰に下げた聖剣すらも、全くの瓜二つ。




「……なるほどな。自分自身を乗り越えてみせろ。そういう試練という事か」


『その通りだ。己を超えるというのは、言うは易いが……そうそう容易く為せるものではない。これこそまさに試練と呼ぶのに相応しいだろう?』


「確かにな。だが、望むところだ。こんな機会は中々無いだろうからな」


『ふむ、我ながら見上げた心意気。それでこそ勇者の器よ!』


 ふっ……かつて、さんざん脅威から逃げてきた俺が勇者などと片腹痛いが……


 例え相手が自分自身だろうと、負けるつもりはない!!



「押し通らせてもらう!!」


『ああ、来い!!』



 そして、お互いに聖剣を抜き放ち、シギルを発動する!!


 やはり、姿形を真似ただけの紛い物ではないようだ。

 だが、それは予想の範囲内。



 力は互角。

 ならば、相手に飲まれないように心を強く持て!

 攻め気で行くんだ!


 そう、自分を奮い立たせ、俺は果敢に踏み込んで剣を振るう!



「ハァーーーーッッ!!」


 ガキィンッ!!


 裂帛の気合とともに振り下ろされた聖剣の一撃を、『俺』は真正面から受け止めた!


 刃がぶつかる激しい金属音と火花が散る!



 ぎりぎりと力と力がせめぎ合う。



 だが、『俺』は不意に力を抜いて、俺の剣の軌道を横合いへと逸らそうとする。


 それを予想していた俺は敢えてそれに乗っかり、更に一歩を踏み込んで体ごとぶつかっていく!


 俺の体当たりを受けた『俺』は、今度は無理に拮抗しようとはせずに、後方へと跳び退る。


 俺はそれを追いかけるように掬い上げの斬撃を見舞うが、それは僅かに『俺』の顎先を掠めるだけだった。



『やるな!!』


 俺の攻撃を躱した『俺』は、即座に体勢を立て直して反撃の突きを放ってきた!


 キィンッ!!


 横合いから弾いて懐に入っ……ちっ!!


 どうやら突きの攻撃は誘いだったらしく、懐に飛び込もうとした俺の顔面めがけて左の拳打が襲いかかる!


 これを身体を捻ってギリギリで回避!


 逆に脇腹に膝蹴りを叩き込もうとするが、これは膝でブロックされる。











 その後も真正面からの近接戦闘が繰り広げられるが、お互いに致命打は与えられず。


 やはり、力は全くの互角のようだ。

 記憶や経験も含めてコピーされているらしく、戦い方も同じ。



 つまり、この試練を乗り越えるためには……今までの力の限界を超えるか、これまで見せたことのない戦い方で意表を突くしかないだろう。


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