第十一幕 51 『秘策』


ーーーー カイト ーーーー



「はっ!!」


 キィンッ!!


『せやぁっ!!』


 キキンッ!!ギィンッ!!



 激しい剣戟の音が鳴り響き、青白い火花が幾度となく散る。


 技も、力も、能力も……そして、戦いの経験すらもまるで同じもの同士の戦いは全くの互角。


 まるで鏡に映った自分自身と戦っているようなものだ。



 だが、決着が付けられないわけではない。


 今は丁々発止と息が合っていても、ほんの少しのズレ・・があれば、それが綻びとなって大きく戦局を変えることになるだろう。




 頭の中にプランはある。


 いや、それは賭けと言うべきものだ。

 相応のリスクを負わなければ、この状況は打破することはできない。


 後はいつそれを実行するかだけなのだが……タイミングを伺うだけでなく、決死の覚悟を決める必要がある。



 だが、いつまでもこうしていられない。

 シギルを解放していられる時間にも限りがある。

 それは相手も同じかもしれないが、だとしてもその先の展開はやはり膠着状態が続くだけだ。



 よし……!



 俺はついに覚悟を決める。


 先ずは相手との距離を引き剥がすべく、切り結んだ瞬間に渾身の力を込めて体当たりをかました後、後方に跳び退った。



『無駄だっ!!』


 『俺』は即座に間合いを詰めながら、上段からの振り下ろしの斬撃を放ってきた!!



 よしっ!今だ!!



 俺はその瞬間、シギルのもう一つの力を開放する!!


 ひときわ輝きを増したシギルから光の波動が放たれて、それは至近まで迫っていた『俺』にも浴びせられた!



『なっ!?』


 もう半ばまで振り下ろされていた剣の軌道が僅かにブレる。

 そして、『俺』の身体も一瞬の強張りを見せた。


 俺はそこにハッキリと道を見た。



 刹那の瞬間に見出した隙を逃さず、俺はもう一つの切り札を切った。



 予備動作を極力排し、一息で踏み込む!!



 ザンッ!!



 そして、『俺』の脇を通り抜けざまに繰り出された流れるような斬撃が胴を薙ぎ払った!!




『がはっ!?』




 完全に決まった。


 血は噴き出ないが、初めてまともに入った攻撃は致命的なものだったに違いない。

 その証拠に、『俺』は膝をついて起き上がってこれない。


 ここに、克己の試練は決着を見るのだった。

















『ふっ……まさか、あんな手を使ってくるとはな』



 あんな手……と言うのは、シギルの力のことだろう。


 俺のシギルの力は『解放』だ。

 そして、以前リヴェティアラ様に教えてもらったことで、自分のみならず他人の力をも解放することが出来るようになった。


 レーヴェラントの魔軍襲来の時は、相手と密着しなければ使えなかったその力も、修練を重ねたことで多少は離れた相手にも効果を及ぼす事が出来るようになっている。

 まだまだ至近距離ではあるので、更なる精進が必要ではあるが。



 俺はあの瞬間、『俺』に対してその力を使ったのだ。

 本来であれば味方に使うべきそれを敵に使った理由は……



『例え能力が向上するものであっても、意図しないタイミングで使われれば身体の変化に頭が追いつかない。ましてや攻撃の最中であれば尚更だ。だが、普通はそんなこと考えつかないだろう。下手すれば相手をパワーアップさせてしまうだけの結果に終わるかもしれないのだから』


「そうだな。正に一か八かの掛けではあった。だが、上手くやれる自信はあったさ」


『そうか。我ながら大したものだ』


 ……こう言うのも、自画自賛になるのだろうか?



『それに、最後の一撃。あれは……』


「ああ、カティアの技だ。見様見真似だったが、中々だったろう?」


『そうだな…』


 確か『閃疾歩』だったか。

 千載一遇のチャンスを確実にモノにするために、回避が著しく困難なこの技を使わせてもらった。


 彼女のように洗練されたものではなかっただろうが……何とか決まってくれた。




『とにかく、この勝負……お前の勝ちだ。見事だったぞ。さぁ、先に進むと良い』



 その言葉を最後に、『俺』は光の粒となって消えていった。


 そして試練の間の奥、入ってきた扉とは反対側の壁に新たな扉が現れた。




 これで、皆と合流できるか?


 俺は後ろを振り返ることもなく、扉を開けて先に進むのだった。



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