第十一幕 48 『ALONEs』

 第77階層のボス部屋で十分な休息を取ってから、私達は光の渦へと飛び込んだ。


 そして、あの不快な浮遊感がして……私は思わず目を閉じてそれをやり過ごすが、その感覚は直ぐに消えた。



 第78階層。

 樹海、海と来て、今度はどんな世界が広がっているのか。


 少しワクワクしながら目を開いた私の視界に飛び込んできたのは……

 


「……あれ?」



 これまでの流れから考えると予想外の光景だった。


 私が今立っているのは、四方を石造りの壁に囲まれた小部屋……要するに、上層階と同じような普通のダンジョン(?)そのものだった。




 ふと、違和感を覚えて辺りを見回す。


 すると、隣にはミーティア(と、ミロン)がいるのだけど、他の皆が居ないことに気が付いた。



「うにゃ……みんなはどこ〜?」


「一緒に飛び込んだはずだよね……」



 戸惑いを隠せない私達に、ミロンが告げる。


「この階層は個々の力を試す試練となります。なので、皆さんはバラバラ分かれてスタートする事になります」


「ええっ!?」


 なんとまた……これまで以上に厄介な……


 私はまだオールラウンダーなので、ソロも比較的慣れてる方だけど……


「みんな、大丈夫かな……」


「一応、個人の力量やタイプを読み取って、『無理ゲー』にはならないはずです」


「そうなんだ……」


 だったら今は皆を信じるしかないか。


 ……あれ?



「個々の力を試すと言うのなら……何で私とミーティアは一緒なの?」


「うにゅ?」


「ん〜、それが不思議なんですよねぇ……何らかのイレギュラーがあったとしか…」



 ふむ……おそらく、だけど。

 私とミーティアの魂の一部が同じだから…なのかもしれないね。


 まぁとにかく、ミーティアと別れずに済んだのは僥倖だった。

 一人でいると思ったら気が気でなくなるところだったよ。


 ……他のみんなはこちらの状況分からないだろうから心配してると思うけど。

 早く合流して安心させてやらないとね。


 

「それじゃあ、取り敢えず攻略開始しますか」


「がんばるっ!」



 小部屋には一箇所だけ扉があり、私達はそこから部屋の外に出て、ダンジョン攻略に乗り出すのであった。




















ーーーー カイト ーーーー




 まさか……ここに来て仲間たちと逸れてしまうとは思わなかった。




 他の皆の状況は非常に心配だが、ここで焦ってもどうにもならない。

 ……とは思うものの、カティアやミーティアが一人で不安な思いをしているかと思うと気が気でなくなりそうだ。


 だが、今はとにかく自分自身がこの状況を突破しなければならない。


 皆の無事を祈りつつ、俺は覚悟を決めて部屋の扉を開け、ダンジョン攻略への一歩を踏み出した。






 扉の外は、転移してきた小部屋と同じような石造りの通路が伸びていた。

 これまでの2階層と異なり、どうやら構造的には通常のダンジョンのようだ。


 ……この先も同じだとは限らないが。




 少し進むと道が二手に分かれる。

 一本道だったらまだ良かったのだが、それを嘆いても仕方がない。


 どちらに行くべきか、明確な判断根拠は無いので、取りあえずは左の通路に進む。

 念のため、ロウエンさんに倣って壁に印を付けておくことにした。


 そして鞄から筆記具を取り出して、不慣れながらマッピングも行う。











 そうやってダンジョン内を暫し彷徨っていると、前方から何者かが近付いてくる気配を感じた。

 ロウエンさんがいれば、もっと細かな情報が分かるのだが……改めて有り難さを感じる。


 仲間の誰かなら良いが、それはあまり期待せずに俺は抜剣して臨戦態勢を取った。













ーーーー ルシェーラ ーーーー



「ミーティアちゃん、大丈夫かしら……」


 他の皆さんは……まぁ、何とかするとは思いますけど。

 もちろん、私も。


 ここからは自分自身の力だけが頼り。

 ですが、それは望むところですわ。



 ここ最近、自分の実力が急速に伸びているのを感じています。

 それは慢心などではなく、実感としてそう思うのです。

 カティアさんと並び立ちたい一心で頑張って来た甲斐がありますわ。



 そして、この試練も乗り越えて、糧にしてみせますわ!




 そう決意して、私は一歩を踏み出します。

 前へ前へと、真っ直ぐに。















ーーーー ケイトリン ーーーー



「はぁ〜……」


 思わずため息をつく。


 護衛が護衛対象と逸れるだなんて……


 まぁ、多分この階層のルールみたいなものだろうし、自分の失態というわけでは無い。

 そう気を取り直すしかない。



 だが、そうは言っても心配ではある。


 もともとカティア様は護衛など必要としないくらいの実力者だ。

 きっと一人で何とかしてくれる。

 そう思うけど、まったく状況が分からないのは精神的にキツい。


 ミーティアちゃんも……

 能力はもしかしたらメンバー最強かもしれないけど、本来の彼女はまだ幼子だ。

 いつも一緒にいるカティア様ママテオフィルス様パパが居なければ……不安で泣いているもしれない。


 そう思うといたたまれない気持ちになる。



 とにかく、早く合流しなければ。




 最近は機会がないけど、もともと単独任務は慣れたものだ。


 リュシアン様の人使いが荒かったからね!




 そうして、私は焦る気持ちを圧し殺して、一歩を踏み出すのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る