第十一幕 47 『海蛇竜撃破』

 第77階層のボス、海蛇竜シー・サーペントとの戦いは、その激しさを増している。


 だが、私達は全力で挑んでいるものの決定的なダメージが与えられていない。

 太く長い胴体に攻撃を加えても、何ら痛痒を与えていないようにみえるのだ。

 それどころか、傷口から噴き出る水は激しい水流となって襲いかかってくるのみならず、戦いの場に溜まってその水位を上昇させてしまう。


 もうかなり足場が狭くなってきており、このままではまともに攻撃することも難しくなってしまうだろう。



「胴体が駄目なら頭を狙うか…」


「さっきからそうしようとしてるのですが、動きが変則的でスピードも速くて捉えきれませんわ」


「要所要所で水流のブレスも来るからね……どうにかして動きを封じたいのだけど」



 胴体への攻撃はダメージを与えるどころか、こちらが不利になるので、すでに頭部をターゲットにしようとしてるのだが、猛スピードで縦横無尽に動き回って中々捉えきる事が出来ていない。

 捉えた、と思っても的確に水流のブレスを放ってくる。




「(ピコンッ!)じゃあ、私が動きを止める!!」


 そう宣言したのはミーティア。

 一体どうするつもりなのか……と思っていると、敵の攻撃を躱しながら魔力を集中し始めたのが分かった。


 魔法か……何か閃いた様子だったが?

 彼女は詠唱を必要としないので、何を使おうとしているのか分からないが……いや、魔力の流れからすると、これは……なるほど!


 程なくしてミーティアの魔法が完成する!



「[絶凍禍炎]!!」


 青白い炎のような強烈な凍気が渦巻き、闘技場に吹き荒れる!!


 そして、極低温の冷気に晒された水は、見る見るうちに凍り始めた。


 そして、すり鉢に溜まっていた水面はすっかり凍りつき……体内にかなりの水を内包しているであろう海蛇竜の動きも目に見えて鈍る!




「ミーティア、ナイスだよ!これなら…!」


「頭を狙うぞ!!」



 ここがチャンスとばかりに総攻撃を仕掛ける!


 海蛇竜はブレスで迎え撃とうとするが、動きが鈍ったことで、もはや私達の攻撃の妨げにはならない。


 私を含めた前衛3人とミーティアの攻撃は次々と敵の頭部にクリーンヒットする!



『グガァッッ!!』



 胴体への攻撃ではついぞ上げることのなかった悲鳴が上がった!



 よし!効いてる!


 だが、まだ撃破には至らない。

 チャンスがあるうちにもう一度……!



 敵は起死回生の一撃を放とうと、大きな口を開けてブレスを……と、そのタイミングでリーゼさんが魔法を放った!



「[滅雷]!!」


 狙いすましたレーザー光の如き雷撃が、今にもブレスを放とうとしていた顎の中に吸い込まれる!

 一点に威力が集中したその一撃は、容易く海蛇竜の頭部を貫いた!



『グギャアッッ!!!』


 魂消るような絶叫が空間に響き渡ったかと思えば、雷撃に貫かれた頭部は胴体とともに爆散して霧となって消えてしまった。








「たお…した…?」


「多分……」


「まだ油断できないッスね」



 これまで何度となく復活していたから、油断せずに警戒する。



 だが、暫くしても復活してこないところを見ると、今度こそ撃破できたらしい。

 いつの間にか周囲からの海水の流入も止まっていた。



 そうして、ようやく警戒を解こうとしたとき、開戦を告げた重々しい声が再び響き渡った。



『勇者たちよ、見事だ。さぁ、先へと進むが良い』



 すると、すり鉢に溜まっていた水……ミーティアの魔法によって凍りついていたそれも溶け出し、渦を巻きながら中央の柱の根元に吸い込まれていく。


 そして、全ての水が抜けたあとには……樹海の時と同じように、光の渦が残された。




「よし、第77階層クリアだね!」


「直ぐに次に行きますか?ここが安全なら少し休憩した方が良いと想いますけど」


「そうだね……多分、ボス部屋はボスさえ斃せば暫く安全だとは思うけど」


「お母さん、私そろそろ限界……」


 あ、そう言えば少女モードのミーティアもタイムリミットがあったね。


「じゃあ、暫くここで休んでおきましょうか。あ、ほらミーティア、そんなところで横にならないで……今敷布を出すから…」


「うん……むにゃ……」


 以前、奇術師と戦った時みたいに神代魔法連発していたわけではないから大分マシだけど、それでも大きな力を使った反動で急激な眠気に襲われてるみたい。



 今回もミーティアにかなり助けられたし、ゆっくり休んでもらいますか。


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