第十一幕 43 『海底神殿』
海の底から姿を現した神殿……のような建物。
私達は岩門をくぐり、その先の長い長い階段を降りてその前までやって来た。
上から見たときはその規模の大きさは掴みにくかったが、こうして目の前から見るとその威容に圧倒される。
…ふと気になって、振り向いて上を見上げる。
「あ……」
私達が降りてきた階段……割れていたはずの海は再び閉ざされていた。
だが、この神殿の周囲はちゃんと空気がある。
更に外側は海水の天井、壁となっていた。
「どうやら、後戻りは出来ないということらしいな」
「ですわね。まぁ、どちらにせよ……前に進むしかない事には違いはありませんわ」
…だね。
もともと退路は無いわけだし、今更だ。
今は前進あるのみ。
海底神殿は、前世のパルテノン神殿のように大きな石柱で大屋根を支えており、更にその内部に本屋と思しき石造りの四角い建物が建っている二重構造となっていた。
私達が降りてきた階段から神殿に向かって参道のような道が続き、基礎部分を階段で登って石柱の間を通り抜け、内部の本屋の前に立つ。
そこには建物の巨大さに見合った大きな両開きの扉。
そっと手を触れると、殆ど力を入れていないのに、音も立てずに内側へと開いていく。
その扉の先、[光明]の光に照らされた通路が奥に向かって続いているのが見えた。
通路の幅も天井の高さも十分な広さがあるように見えるが、建物の規模からすれば狭く感じる。
内部は神殿というよりもどちらかというと迷宮と言う方が相応しそうだ。
「さて…ここからが本番だと思うから、警戒レベルを引き上げて行きましょう」
「ここからオイラの出番ッスね。どうやら中には魔物もいるみたいッスよ」
荘厳で神聖な見た目とは裏腹に、扉を開いた途端不穏な空気が漂ってきたのは私も感じられた。
トラップの類にも十分な警戒が必要になる。
皆気を引き締め直し、緊張感で空気が張り詰めた雰囲気となる。
そして、私達は神殿の内部へと足を踏み入れるのだった。
「海底神殿と言っても……内部は普通の迷宮って感じですね?」
「そうだね……ただ、海中というだけあって少しジメジメして肌寒いね」
「おばけ出そう……」
ああ、そう言う雰囲気は確かにする。
フォーメーションG+の発動があるかもねぇ……
慎重に通路を進んでいく。
そして、入口から10分ほど歩いた頃に、ロウエンさんが警告を発した。
「この先、まっすぐ向こう側から何か来るッスね」
「魔物だね。戦闘準備を……」
「…!こっちに気付いたみたいッス!もの凄いスピードで近付いてくるッス!!」
「迎撃体制っ!!」
私にも何かが急接近してくるのが分かった。
それは皆も同様で、私が声を張り上げるまでもなく、それぞれが即座に迎撃体制に入る。
カイトとルシェーラが前に出て、私とロウエンさん、ケイトリンは中衛に、ミーティアとリーゼさんが後衛で詠唱の準備を取る。
そして……!
「さ、魚っ!?」
何と、まるで海中を泳ぐかのように通路の向こうからやってきたのは体長2〜3メートル程の魚だった。
普通の魚と異なり、頭部から鋭い槍のような角が生えている。
猛烈な弾丸の如き勢いで真っ直ぐこちらに襲いかかってくるが、あれをまともに受けたらただではすまないだろう。
「回避!!」
流石にアレは真正面から受け止められないと判断したらしく、カイトが鋭く叫んだ。
スピードはかなりのものだが、その分小回りは効かないみたいで、私達は難なくそれを避けることが出来た。
そして、魚はそのままの勢いで後方へと飛び去ってしまった……
「な、何だったの?」
「お魚さんだったの」
「ランサーフィッシュ……ッスね、多分。空中を泳ぐと言うのは聞いたこと無いッスけど」
そりゃそうだ…
多分、このダンジョン特有だと思う。
ランサーフィッシュは外洋に現れる魚の魔物で……トビウオのようにジャンプしてきて船上まで攻撃してくると言うのは聞いたことあるけど。
今のやつらは普通に空中を泳いでいたね。
「攻撃が直線的だったから、避けるのはそれほど難しくなかったが……」
「スピード自体は物凄いね。あれを捕捉して攻撃を当てるのは難しそう」
「さっきのはやり過ごしましたけど、戻ってきませんかね?」
小回りも急ブレーキも効かなかったみたいで、もう見えないところまで行ってしまったけど、反転してまた襲いかかってくるかも知れない。
「その可能性はあるッスけど、幸い気配は事前に察知できるから、まだマシッスね。魔物と言うよりは、何だか一種のトラップみたいッス」
確かに。
流石は海底神殿だね……初っ端から普通とは違うところを見せられた感じだよ。
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