第十一幕 42 『海へ』
異界の太陽は地平の彼方に沈みつつあり、世界の何もかもを赤く染上げていた。
私達はしばしその美しい光景に魅入る。
「はぁ…綺麗な夕日だね…」
思わずそんな呟きが漏れた。
岩門を確認してもらったあと、私達は潮が引くのを待つことにした。
かなり長い時間をかけてゆっくりと潮が引いていってるのだが、まだ干潮には至ってないらしく、今も海岸線は遠ざかっているところだ。
既に岩門との距離の半分くらいは潮が引いただろうか。
あともう少しすれば、『道』に見えた部分が姿を表すかもしれない。
沈み行く夕日を眺めながら、その時を待っていた。
異界の昼空を支配していた太陽は海へと沈んだ。
夕日の茜も彼方へ追いやられ、昼と夜の境界が紫紺に染まる。
それもやがては夜の帳が降ろされて、世界は闇に包まれる。
いや、完全な闇ではない。
太陽に代わって世界を照らすのは、星々の光。
陽の光で隠されていたそれらは、少しずつ輝きを取り戻し、やがては満点の星空となった。
またもや空の美しさに目を奪われそうになるが……
肝心の海の道は、ついにその全貌を見せようとしていた。
「本当に……海の中に道が現れましたわ」
「もう岩門までは繋がったな」
「行ってみよう!」
もうすっかり夜になったのだが、星々の光に照らされて思いの外明るい。
だが、それでもやはり足元が見えにくいので、代行の魔符に[光明]の光を灯して進む。
暫くは湿った砂地が続いたが、件の『道』までやってくると、硬い岩肌へと変わった。
『道』はまさしく道だった。
見た目は自然な岩肌なのだが、殆ど起伏がなくて、歩く感触はまるでコンクリートで舗装された道路のようであった。
「道……だね。これは」
「そうッスね……やはり、これが先へと進む道に違いなさそうッス」
「そうすると、あの門の先は?」
日中にロウエンさんとミーティアが確認したときは、海底に向かう階段のようなものが続いていたと言っていた。
そして、底の方には建物らしきモノも見えた…とも。
だが、いくら潮が引いたとしても、普通はそんなところまで行けるとは思えないが…
まあそれも、あの岩門まで行ってみれば分かることだ。
気持ち早足になりながら進んでいく。
そして、岩門までやって来て…それをくぐった先で見た光景に私達は思わず絶句するのだった。
「こいつは……凄いな」
「ふわぁ〜……」
「やっぱりここはダンジョンって事ですね……こんな光景、地上じゃ拝めませんから」
まさに、その通りだ。
圧倒的な光景がそこには広がっていた。
巨大な岩門をくぐった先…私達が歩いてきた道は、話に聞いていた通り階段へと続いていた。
それは良いのだが……私達が驚愕したのは、本来そこにあるはずの海水が左右に割れて、滝のようになっていたからだ。
モーセの伝説のごときその光景は、到底自然現象などではありえない。
階段は左右に海水の滝を見ながら海底へと続き、その終わりには確かに建物があった。
そう、海が割れてついに姿を現したそれは、はっきりと人工的な建造物だと言う事が分かったのだ。
海底神殿……そう呼ぶべき荘厳で神秘的な佇まい。
あれこそがこの階層のメインステージに他ならないだろう。
「さて、いよいよ私達はスタートラインに立てたって事だね。皆、準備は良い?」
「もちろんですわ!」
「ここまで来て引くと言う選択肢は無いな」
「わくわくするの!」
「私も…こんな神秘に触れられるとは。やはりカティアさんについてきて正解でしたね」
「腕が鳴るッスね!」
「カティア様の行かれるところには、どこまでもお供しますとも!」
みんなから頼もしい答が返ってきた。
良いパーティーだと、改めてそう思う。
どっちにしても先に進むしかないけど…怖いと言う気持ちは微塵も無い。
ミーティアと一緒で、私も凄くわくわくするよ。
きっと、あの神殿には更なる神秘が待ち受けていることだろう。
「さあ、行こう!」
そして、私達は真の第77階層の攻略に挑むのだった。
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