第九幕 42 『野営地の夜明け』
「ふわぁ〜……モッフモフだねぇ…」
「わふっ!」
「カティア〜、私にも触らせて〜!」
只今ポチを絶賛モフり中。
この子はステラが呼び出した銀狼。
さっきまで私と一緒に共闘して魔物退治を行っていたが、それも片付いたのでこうして堪能させてもらってるのだ。
「わあ〜、柔らかくて温かいね〜」
「そうでしょうそうでしょう!ポチの毛並みは素敵だよね〜」
「おんっ!」
メリエルちゃんも、モフリストの素質があるんだね。
これは癖になるよね!
それに、この子って獣臭くない…どころか何だか良い匂いがするんだよね。
清涼な森の香りのような…
「あの〜、二人とも……もうそろそろ…それに、その子はポチじゃなくて……駄目だわ、聞いてない……そろそろ
名残は惜しいが、ステラの
また会える日を楽しみにしてるよ!
「ゴメンねステラ。夢中になっちゃって」
「い、いえ、良いのよ。あの子も嬉しそうだったし」
「あの子って
以前王城で戦った時は、銀狼だけじゃなくて私の剣や彼女自身が使う弓なんかも呼び出していたが、どう言う力なのかは聞いてなかったよ。
「月の女神パティエット様のお力は、幻想世界への扉を開きその世界の存在を現実世界に具現化させると言うもの。あの子は
「へえ〜……何だか凄いね。いいなぁ…」
「可愛かったよね、ポチ!」
「(…もうポチでいいか)術者の相性によって呼び出すことができるものは変わってくるのだけど…初めてあの子を呼び出したときは、それはもう嬉しかったわね…それ以来、私の大切なパートナーなのよ」
さて、野営地は突然の襲撃を受けてすっかり目覚めていた。
目の前で初めて見る魔物との戦いに恐怖していた者も、今は魔物を撃退した事で安堵の表情を浮かべている。
今は少し落ち着いたが、先程までは私やステラなどの学生の身で戦いに参加した者たちは取り囲まれ大騒ぎされて大変だった。
先生が一喝してくれたから良かったけど……今も興奮冷めやらぬ様子で、先の戦いについて語り合う声でざわめいていた。
これは皆、明日は寝不足になるね…
「えへへ〜、ステラ凄い人気だったね!」
「そ、そうかしら…」
確かにメリエルちゃんの言う通り、ステラを称える声が大きかったね。
「…カティア、ありがとう」
「へ?何が?」
本気で何に対するお礼なのか分からずに聞き返す。
むしろお礼を言うのはこちらなんだけど。
「ほら、私ってアダレットの人間だから…同級生同士でも、どこか腫れ物に触るような雰囲気を感じていたの」
クラスメイトとは普通に話をしていたし、そんな雰囲気は私では感じられなかったのだけど…当人にしか分からない事もあるか。
「カティアがいつも一緒にいてくれるから…そう言うのも随分和らいでいたと思うのよ」
「う〜ん…そうかなぁ?ステラが良い娘なのは話せばすぐに分かる事だし…さっきだって、あなた自身が前に出て皆を護ったからこそじゃない?」
「そうだよ!過去の
「…そうね。でも、それでも、お礼を言いたかったの」
「ふふ…じゃあ、素直に受け取っておくよ」
「ええ、是非そうして」
翌朝。
地平の彼方には太陽が顔をのぞかせ始め、その光が空に美しいグラデーションを描き出す。
夜と朝の境界はぼんやりと曖昧で、何とも言えない不思議な感覚が沸き起こる。
「ふぁ〜………」
「凄い欠伸だね、フリード」
私達は予定通りの時刻に起床すると、最後の見張りを行っていたフリードが物凄く眠たそうに大あくびをしていた。
私はあの後すぐに見張りを交代したので、快眠とはいかないもののそれなりに休むことができた。
休めるときに休めるのも、冒険者に必要な適性だ。
「いやぁ……あのあと結局盛り上がっちまって、一睡も出来なかったぜ」
「だから交代のときにもう寝なさいって言ったのに。ステラは大丈夫?中途半端に起こされて大変だったでしょう?」
ステラもフリードと一緒に最後の見張り番をやっていた。
結局昨夜の戦闘では、皆起きてしまったので、その後見張り番になる人は皆大変だったと思うけど。
「ええ、私はあの後すぐに寝たから…そこまで眠くはないわ。贅沢を言うならば、シャワーでも浴びてスッキリしたいところではあるけど。やっぱり[清浄]だけだとね…」
女子としてその気持ちは分かるけど、それはしょうがないね。
前世の記憶がある身としては、そんな便利魔法あると言うだけでもありがたいよ。
「さて、色々とトラブル続きだけど…朝食を取ったら直ぐに出発だからね。みんなしっかり準備してね」
「「「は〜い」」」
今日は山頂のゴールまで一気に進み、再び引き返してこことは別の野営地で一泊。
王都に帰還するのは明日の予定だ。
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