第九幕 41 『撃退』


「ステラ、援護をお願いね!…いくよ!相棒ポチっ!」


「任せてください!」


「アオンッ!」



 ステラの銀矢が炎狼を牽制してその動きを制限したところに、私とポチが飛び込んでいく。



「せぃやあーっ!!」


 先に炎狼のもとに到達した私が先ず斬り上げの一撃を放つ!

 先程とは違って、仲間のフォローがあるので思い切って攻撃することができる。


 ビュオンッ!


 炎狼はそれを後方に跳んで躱し、私の攻撃は空を切ったが…


「オオンッ!」


 躱した先にはポチが回り込んでおり、その鋭い爪を振るった!


 ザシュッ!!



 その一撃は首筋を掠めてダメージを与えるが、それはまだ致命傷には程遠い。

 既の所で回避行動をとられたね。



 だが、間髪入れずに私が追撃を行う!


 初撃を躱された瞬間に、ポチがフォローしてくれるのを見越して次の攻撃動作に入っていたのだ。


「ハァッ!!」


 ザンッ!!


 初撃の斬り上げから繋がる、一歩踏み込んでの斬りおろしの二撃目が、炎狼の前肢を斬り裂いた!


『ギャウッ!!』



 よし!

 これで機動力を削ぐことが出来ただろう!


 あとはこのまま畳み掛けて……



 ゾクッ…!


 !?

 何っ!?


 首筋に悪寒を感じ、直感に従ってその場から退避する!


 バシュッ!!


 すると、直前まで私の居た場所に突如として灼熱の火球が現れた!



「ま、魔法!?」


 原初魔法か!!


 人間が使う理論的に体系化された詠唱魔法(根本的な発動プロセスが同じ無詠唱魔法も含む)とは異なる、先天的な能力による魔法行使。

 魔物の一部はこの原初魔法を使う事があるが、その使い手はそれほど多くはない。


 ここで切り札を切ってくるとは…



 それにしても、炎系統の魔法か。

 見た目もそれっぽいし、正しく『炎狼』だったと言う訳か。

 やはり、もうルビーウルフとは別種の魔物と言えるだろう。



 このままヤツに魔法を使わせたら、森林に延焼しかねない。

 山火事なんかになったら目も当てられないよ…


 そんな私の思いとは裏腹に、炎狼が生み出した火球はどんどん大きくなって、そこから炎の弾を無差別に撃ち出し始めた!



「ちょっ!?ホントにマズイって!!森の中で炎の魔法なんか使わないでよっ!!」


 そんなことを言っても理解してくれるはずもなく。

 炎弾が乱れ飛ぶ中、炎狼は形勢逆転とばかりに反撃を開始する!


 前肢に傷を負ったため、そのスピードはかなり落ちてはいるものの、魔法を組み合わせた攻撃は侮れない。


 私とポチは、炎をかいくぐりながらも炎狼の攻撃を躱す事に専念せざるを得なかった。


 だけど…こっちにはもう一人いるんだからね!


 何度目かの攻撃を躱したタイミングで、私は密かに準備していた攻撃魔法を放つ!


「[雷槍]!!」


 バリバリバリッ!!


『ギャウンッッ!?』


 [雷矢]では効果が薄かったので、もう一段階上位の雷撃魔法だ。

 流石に上級を詠唱する余裕がなかったのでこの程度の魔法しか使えなかったが、多少は足止めになるはず!


 あとは…



「ステラ!お願いっ!!」



「ええっ!!『閃矢穿牙』!!」


 私の合図に応え、ステラが白銀の光を纏う矢を放つ。

 何本もの銀矢が束ねられたそれは、まるでレーザーのように光の軌跡を残しながら炎狼を貫く!



『ギャウッッッ!!!』


 光の矢は炎狼の巨体を貫いて大きな穴を穿った!


 直前で回避行動を取ったので、やや中心を外したが、大ダメージは必至だ。



「これで止め!!」


「ゥオンッ!!」


 そして、動きが完全に止まったところを狙って、間髪入れずに私の剣とポチの爪が炎狼の首に吸い込まれる!


 ザンッ!!

 ザシュッ!!


 交差する斬撃が炎狼の首を斬り落した!




 そして、首を失った巨体はゆっくりと傾いていき……



 ズズーン……!



 ついには地に倒れ伏すのであった。












「ふぅ……ようやく倒せたね。疲れた〜……って、休んでる場合じゃないね」


 こっちは倒せたが、他のルビーウルフたちはどうなったか…


「カティア様、ご無事ですか!?」


 ちょうどタイミングよくケイトリンとオズマがやって来た。


「大丈夫だよ。ステラのおかげで助かったよ」


「カティアの力になれて良かったわ」


 ステラとポチがいなかったら…私一人では食い止めきれず、結界を破られて学生に被害が出ていたかも知れない。

 ちょっと慢心していたのかも…そこは反省しなきゃね。



「二人がこっちに来たってことは、ルビーウルフたちは倒せたの?」


「大体は倒しましたが、リーダーがやられたのを察知した何匹かは逃げられてしまいました」


「そっか…まあ、深追いは出来ないしね。それに、痛い目にあったから暫く人を襲う可能性も低い…かな」


「そう思います」


 獲物として割に合わないと言う事を覚えただろうし、群れの数も相当減ったし、リスクは殆ど無くなったとは思うのだけど。


「あ、それよりも!怪我人は出ていない?」


「多少、前衛を張ってた冒険者に軽傷者がいるくらいですね。学生さんたちは無傷です」


「そう。それなら良かった。あ、負傷者は私が魔法で治療を…」


「それなら既にメリエル様が治療に当たっておられます。それほど負傷者の人数も居ないので、すぐに終わると思いますよ」


 ああ、流石はウィラー…リナ姉さんのシギルを受け継ぐ王家出身だから治癒の魔法は得意なのかもね。



 これで一先ずは安心かな。

 引き続き警戒は必要だけど、あとは予定通り見張りを交代しながら夜を過ごせば良いだろう。




 だけど、寝る前に…


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