第九幕 40 『炎狼』

 私は魔物たちのボスと対峙する。

 本来は精々が1〜1.5メートル程度であるところ、それに倍する威風堂々たる巨体。

 焔を纏ったかのような真紅の毛並みは神々しくすらある。


 『炎狼』…そう呼ぶに相応しい威容だった。






「こいつは私が抑えます!!みんなは雑魚の数を減らす事に専念して!!」


 私は、ディザール様のシギルを発動させながら指示を出す。

 コイツと真正面からまともに戦えるのは、今のメンバーの中では恐らくシギルを発動した私だけだろう。




「カティア様!一人では危険です!私も…!」


「カティア様、俺も!」


 ケイトリンとオズマはそう言うが…

 こっちに人数を割くと、結界を破られて…学生たちにも危険が及ぶかもしれない。


「大丈夫!それよりも、コイツと連携を取られる方が厄介だから!先に雑魚の数を減らしてから支援お願い!」


「…分かりました、すぐに片付けて支援に加わります!」


「頼んだよ!!」









『グルルル……』


 炎狼は慎重にこちらの様子をうかがっているが、もう今すぐにでも飛びかかって来そうだ。

 ヤツの注意を引き付けるため、私は一歩前に踏み出す。



「あなたの相手は私だよ。さぁ、かかってきなさい!!」


 挑発しながら更に踏み出した…その瞬間、残像を残してヤツの姿が掻き消えた!!


 速いっ!!



 ガキィンッ!!!



 刹那の間に私に肉薄した炎狼が振るった鋭い爪による一撃を、私は剣で受け止める。


 これは…スピードはティダ兄にも匹敵するか!?


 やはり他の人達をこっちに回さなかったのは正解だった。

 このスピードにはとても対処できないだろう。


 パワーも巨体に見合うくらいの相当なもので、受け止めた剣が少しずつ押し込まれる。

 それに…爪も鋼のように硬く剣で切断することが出来ない。



 ぎりぎりと力で切結んでいたところで、ふっ…といきなり力を抜いて横合いに受け流しながら、がら空きの腹部に斬撃を叩き込む!!


「せやぁーーっ!!!」


 びゅおんっ!!


 しかし、それはギリギリのところで躱されてしまい、剣が風を切る音が虚しく響く。


 ちっ!頭も良い…

 ただの獣と侮ってはならないね、これは。



 今度は大きく跳躍して私の頭上を跳び超えて背後に着地、私はその瞬間を狙ってバックハンドで剣を振るうが…


 ガキィッ!!


 炎狼は私の剣をガッチリと口で咥えて受け止め、その状態から爪で攻撃してくる!


 甘いよ!


「[雷矢]!!」


『ぎゃうっ!?』


 流石にこれは避けることが出来ずに直撃し、咥えていた剣を放してしまう。

 発動速度最優先なので大したダメージではないと思うが、これで多少なりとも痺れて動きが鈍ったはず!


 私は一瞬の硬直を狙って、剣を放して大きく開いた口に向かって刺突を繰り出す!


「ハァーーッ!!」


 

 だが、炎狼は即座に後ろに向かって跳躍してそれを躱してしまった。


 ありゃ、大して効いてないどころか、全く効いてないね…

 動きも鈍っていない。

 電光で驚いただけか…


 魔法耐性も相当なものだな…




 そして、私の一撃を躱した炎狼は今度はその巨体を活かして体当たりをするためなのか、頭から突進して来た!


 流石に重量差が大きいので、真正面から受け止めたら吹き飛ばされてしまう。

 そう思い私は体当たりを避けようとするが…


 しかし、私の後ろには結界があり、この勢いで激突されると破られてしまうかもしれない。


 …まさか、それを見越してなの!?



 どうする…?

 カウンターで『天地一閃』を放てば倒せるかもしれないけど、躱されたら後が続かない…!


 判断に迷い逡巡する。


 もう一か八か…そう思った瞬間!



「『銀矢連弾』!!」


 凛とした声と共に、炎狼に向かって銀色に輝くいくつもの矢が襲いかかった!


 流石の炎狼もこれにはたまらずに突進を止めて回避を優先する。


 この攻撃は…



 そして更に…!


「ワオンッ!!」


 銀色の毛並みの狼が、さながら先の銀矢の如く走り抜けて、炎狼に向かって体当たりする!


 ドゴォッ!!


『ぐおーーんっ!!』


 回避した直後を狙われた炎狼は体当たりの直撃を受けて、大きく吹き飛ばされた!



「カティア!私も加勢するわ!」


 振り返ると、そこにはシギルを発動して弓を構えたステラが居た。


「ステラ!!助かったよ!それに…ポチ!久し振り〜!会いたかったよ!」


「ワオンッ!」


 尻尾を振って応えてくれるポチ。

 うんうん、可愛いやつよ。

 今度こそモフらせて!



 ふと視界の片隅に、フリードやガエル君、ユーグ、メリエルちゃんまでもがルビーウルフの撃退に加勢しているのが見えた。

 他にも何人かの学生が参戦しているようだ。



「もう…みんな無茶して…」


「この状況で黙って見てるわけには行かないわ。他の皆はこっちに加勢してもらうには流石に荷が重すぎるけど…配下の方には、ある程度実力がある人で加勢してもらってる」


 …以前王城での戦いのときも思ったけど、こういう時のステラは頼もしくてカッコいいわ〜。

 よし、これならなんとかなりそうだ!



「ポチ!前みたいに連携でいくよ!」


「あ、カティア、その子の名前はポチじゃなくて……って聞いてないわね」



 激戦は続く!

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