第九幕 39 『夜戦2』
敵方第1陣が待ち構えていた私達に襲いかかってきた。
ロウエンさんの予告通りルビーウルフが5匹唸り声を上げてやって来る。
私が代行の魔符を介して[光明]を使っているのに加えて、他にも照明の魔法が使われているので視認性に問題は無い。
本当だったら奇襲になったんだろうけど、こっちには優秀な斥候が二人もいるからしっかり迎撃体勢を取ることができたね。
「先陣と合わせて他は散開して回り込んでくるよ!正面だけじゃなく連携にも注意して!」
先ずはこの5匹を返り討ちにする!
「[石弾・散]!!」
攻撃範囲に入って正に飛びかかってこようとしたタイミングで、リーゼさんの魔法が発動し、広範囲に石の
ぎゃわんっ!!
きゃうんっ!!
うち2匹に直撃し、攻撃の勢いが大きく削がれた。
1匹はちょうど私の目の前だったので、その隙を逃さずに即座に攻撃する!
ザシュッ!!
一撃で斬り伏せて、返す刀で横手から回り込んで迫っていたもう一匹に斬りかかるが、これは躱される。
深追いはしないで元の位置に戻りがてら、石弾の直撃を免れて冒険者と交戦していた1匹を背後から仕留める。
「サンキュー、助かった!」
「いえ、まだまだ来ますよ!」
他の人達も初撃を凌いで再び体勢を整える。
しかし一息つく間は無い。
「皆!ここが正念場だよ!深追い厳禁!相互にフォロー!結界はそこまで厳重に警戒しないでいいけど、リーゼ先生のところには抜かせないように!」
「「「応!!」」」
皆を鼓舞しながら、連続して襲いかかる狼たちを迎撃する。
ヤツらの波状攻撃は統率も取れており、初撃の時より致命的な一撃を与えるのが難しい。
だが、皆に指示した通り私自身も決して深追いはせずに我慢して迎撃に専念する。
そこかしこでそのような戦いが繰り広げられ、暫くは膠着状態が続くことになる。
結界の中…学生たちがいる野営地では、既にこの襲撃が知れ渡ったらしく、多くが起き出してテントの外に出て、不安そうに、心配そうに眺めている。
時おり狼がそちらに向かって学生たちをビビらせるが、結界がそれ以上侵攻するのを阻む。
そうすると、安全性が確保されてるということが分かって安心するとともに、今度は初めて見る魔物との戦いに興奮しだす。
う〜ん…すっかりギャラリーと化しているねぇ…
まあ、結界を破れるくらいの力を持った個体はいないみたいだし…応援してくれるみたいだから良いか。
暫くは続いた膠着状態だったが、それでも少しずつ敵の数を減らしていく。
そして、狼たちが一箇所に集まった一瞬の隙を突いて…
「[土隆牙]!!」
リーゼ先生の攻撃魔法が炸裂!
地面から突如として隆起した土が槍となって狼たちに襲いかかり、何匹もの敵を屠る。
これによって、一気にその数を減じた狼たちは私達が強敵だとようやく判断したのか、逃走体勢に入った。
……いや、違う。
私達を襲っていた狼たちが引いていくのとは逆に、一匹の巨大な狼が魔法の明かりが届かない闇の中から前に進み出てきた。
先程から、闇の中に息を潜めていても隠しきれない程の、他の狼たちとは一線を画す強烈なプレッシャーを感じていたのだが…
「どうやらボス自らご登場ッスかね」
ロウエンさんの言う通り、おそらくコイツがリーダーだろう。
子分たちを下がらせて自らが戦うということか。
その体躯は他と比べて一回りも二回りも大きく、体長は3メートル程もある。
その毛皮も子分たちよりも鮮やかな赤。
照明に照らされて、まるで燃え盛る火炎を纏っているかのようだ。
牙を剥き出しにして唸り声を上げるのは、多くの仲間を殺された事に…あるいは獲物だと思っていた相手から思わぬ手痛い反撃を食らった事に、怒りを表しているのか。
「…ロウエンさん、何かコイツ単体でAに届きそうなんですけど」
「う〜ん、そうっすね…ルビーウルフにこんなヤツがいるなんて、オイラも聞いたことなかったッスね」
強力な個体がリーダーになると言っても、能力的にそれ程大きな隔たりがある訳では無かったはず。
だが、明らかにコイツ単体で他の狼たち全てよりも大きな力があるのをヒシヒシと感じる。
もう別の魔物と考えた方が良いだろう。
「これは…ちょっとキツイかな?」
単体Aランク相当の相手だと、こちらのメンバーではちょっと心許ない。
更には、まだ他の狼たちも残っているからリーダーだけに注力できる状況でもない。
これは…
夜戦は新たな局面を迎えようとしていた。
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