第九幕 22 『ガールズトーク 再び』

 アズール商会を出た私達は、近くのレストランで昼食を取ることにした。


 西大広場から主要通りの一つに入っていくと、飲食店が軒を連ねる一画がある。

 テラス席を備えたお洒落なお店が多く、どこにしようかと目移りしてしまう。


 ちょうどお昼時ということもあって、大勢の人で賑わっているが、行列が出来ると言うほどでも無いので特に焦ることもなく吟味する。



「ん〜…どこにしようか?」


「私はまだこの辺には詳しくないので…おまかせいたしますわ」


「それは私達もよ。まだ王都には来たばかりだからね」


 私もまだそれ程詳しいわけではないので…

 ここは、このメンバーの中では一番王都に詳しいであろうレティに聞いてみることに。


「レティ、どこかオススメのお店はある?」


「まかせて!この辺はモーリス商会も近いから、良くリディーと食べに来てたからね!」


 あら、ごちそうさま…

 ルシェーラがいい笑顔だね。

 もうこの二人はほっといても大丈夫なんじゃないの?



「え〜とね、あそこの『四季の風』ってお店が雰囲気もオシャレだし、凄く美味しかったよ!」


 あそこか。

 街路樹が木陰を作るテラス席が設けられた、瀟洒な雰囲気のお店。

 混雑して席の多くは埋まっているが、まだ幾つか空席は見られた。



「じゃあ、そこにしようか。皆もいいかな?」


 一応皆にも確認して特に反対意見は無いので、そのお店に決定する。


 お店の中に入ると、外から見た様子よりも一層賑わっているように感じる。

 流石はレティがオススメするだけあって、なかなかの人気店のようだ。


 天気も良いし、折角だからとテラス席に案内してもらう。

 店内の何人かのお客さんが私の事に気が付いたみたいだけど、客層的には品が良い感じの人が多く騒ぎになるようなことはなかった。



 そうそう、少し離れてついて来ていたケイトリン&オズマの護衛コンビも近くの席を取ろうとしていたので、どうせなら…と同席してもらった。

 レティとルシェーラは面識あるが、寮生組は初対面なので紹介しておく。

 …オズマは女性だらけの所に男一人で放り込まれて居心地が悪そうだったけど。


 そう言えば、ステラはシフィルが護衛を兼ねてるけど、メリエルちゃんは?と聞いたら、特に護衛とか身の回りの世話をする者は連れてきてないらしい。

 ウィラーは割と放任主義みたいだ……




 さて、何を頼もうかな…


「ねぇ、レティ?何かオススメ料理はあるの?」


「ん〜、そうだねぇ…割と何でも美味しいんだけど…私が好きなのはドリアかな?いろいろ種類があって、ここの名物料理らしいよ」


 確かに、店の中に入ってからチーズの焦げる美味しそうな匂いがしてるんだよね。


「じゃあ、それにしようかな……って、ほんとに種類が多いね。ドリアだけでも悩んじゃうな…」


「わたしはねぇ〜、ハンバーグにする!」


 あ〜、それも美味しそうだ。

 お子様に人気のメニューだね。

 ……ピッタリだなんて思ってないよ?



「私はパスタにしようかしら…これも凄い種類があるわ」


 ステラとシフィルはパスタにするみたい。

 如何にも女子っぽいと思うのは偏見かな?


「私はこのピザにしますわ」


「私はまだ食べたことないやつに……ん〜…よし、このリゾットにしよ!」


 ルシェーラとレティも暫くメニューを眺めて悩んだあとに決めたようだ。


 ケイトリン&オズマは早々にボリュームたっぷりの肉料理に決めてたみたい。

 体が資本の騎士らしいね。






 これで皆決まったので、注文して料理が来るまで暫くお喋りに花を咲かせる。



「いや〜、結構買い込んじゃったね」


「流石はアズール商会だよ。品揃えが凄いよねぇ…魔道具ならウチのモーリス商会も負けてないけどね」


「メリエルさんは随分服を買い込んでらしたけど……ふふふ、誰かオシャレ姿を見せたい人でもいらっしゃるのかしら?」


 何でも恋バナに繋げるのがルシェーラ・クオリティ。


「へ?ただ単に洗い替えが少なくて心許なかったからだよ」


 そして当然の如くそんな色っぽい理由じゃなくて、もっと切実なものだった。



「ねえ、メリエルって王女…なんだよね?」


「む、疑ってるな〜?」


「いや、だってねぇ…もう少し、こう…いろいろ用意してくれるものじゃないの?」


「これを機に自分の事は自分でやりなさいって。お金もある程度はもらってるんだけど、それだけじゃ3年間過ごせないから何かバイトとかするつもりだよ!」


 おお…見た目幼女なのにしっかりしてるなぁ。

 でもバイトって…大丈夫なのかな?


「へえ〜、えらいわねメリエル。私もバイトとかしてみようかしら?…冒険者とかもいいかも」


「冒険者!!私も登録したい!」


「あら、良いですわね。皆でパーティ組むのも悪くなさそうですわ。バランスも結構良さそうですし…」


 何だかおかしな方向に話が進んでるね。

 でも、このメンバーでパーティ組んだら確かにバランスは良さそうだけど。


「学園の選択科目で冒険者の活動をするものもあるらしいよ?」


「なにそれ面白そう」


「私とルシェーラはギルドに登録してるけど、みんなは登録してないよね?」


 まあ、普通に考えれば王女様と貴族令嬢なんだから登録してないと思うけど。

 私とルシェーラが特殊だろう。


「まあ、皆がホントに登録するなら、色々とアドバイスはできると思うよ」




 と、そこで料理が運ばれてきた。

 テーブルを埋め尽くした料理の数々は出来立ての熱々で、湯気とともに美味しそうな香りが漂う。


「うわ〜、美味しそう!」


「「「いただきま〜す!」」」


 食前の挨拶は、学食で昼食を取るときに流行らせた。





 そうして食べ始めは会話を止めて料理に舌鼓を打つが、暫くすると再び会話が再開される。



「ねえねえ、カイトさんはいつ戻ってくるの?」


「ん?カイト?…え〜と、出発したのがもう二週間前で…向こうには一月ほどいるって事だから…まだ暫くは先だね」


「それは寂しいですわね、カティアさん?」


「う、うん…そうだね」


「でも、これで晴れて正式に婚約者になるんだよね?」


「そうだね。カイトのお父さん…レーヴェラントの国王陛下の許しが得られれば」


「そこは別にすんなり認められるんでしょ?」


「アルノルト様はそう仰ってたね。……どこかでご挨拶に伺う必要はあると思うけど。多分、学園の長期休暇…次の冬休みとかで」


「お〜、いよいよだね〜」


「良かったですわね、カティアさん」


「う、うん…ありがと…」


 ちょっと恥ずかしくて顔が赤くなるのが分かった。


「ルシェーラちゃんは学園卒業したら兄さんと結婚するんだよね」


「ええ、そうなりますわね」


 ふ〜ん、すぐに結婚しちゃうんだ…

 ルシェーラの事だから騎士団に入ったりするかと思った。


「公私ともに支えるために、騎士団に入るつもりですわ!」


 …いや、思った通りだった。

 やはりルシェーラはブレないよ。


「そういうレティシアさんはどうなんですの?誰か良い人は…」


「私?う〜ん…あまりそういう事は考えたことないな〜」


「ほら、リディーさんとか…」


 おお、ここでそれを振りますか。


 だが…


「あははは!ないない、無いって!私のことなんて妹くらいにしか思ってないよ」


 ん〜、リディーさんが隠すのが上手いのか、この娘が鈍感なのか…

 いや、後者だな…多分。


「そんな事ないと思うけど…」


「あははは…でも、もし行き遅れたらリディーに貰ってもらおうかな」



(…無自覚ですわね)


(…そだね。まあ、このままでいいんじゃない?リディーさんが動けばくっつくでしょ、これは)


(ですわね)




「で、そちらの御三方はどうなんですの?」


 と、今度は留学組に矛先を向けるルシェーラ。



「私もこれと言ってそのような話は…」


「同じく。せめて私より強い男じゃないとね!」


 ステラも婚約者とかいないのか…

 でも、男子に人気ありそうだし、引く手数多だと思うけどね。


 そしてシフィルは…何というハードルの高さであろうか。

 同級生は絶望的じゃないかな…

 ワンチャン、ガエル君あたりが何とか…ってところか。

 彼が女性にうつつを抜かす姿は想像できないけど。



「わたしはねぇ〜、お母さんに『学園でイイ男を捕まえてきなさい!』って言われたよ」


 そこも自力で何とかしろって事なのか…

 凄いぞ、ウィラー王家!










 そんなふうに、ガールズトークに花を咲かせ楽しいひと時が過ぎて行くのだった。

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