第九幕 14 『授業風景〜武術』

 今日は武術の初回授業が行なわれる。

 担当は、うちのクラスの担任でもあるスレイン先生。



 初めて教室外での授業で、訓練場で行なわれる。

 併設の更衣室で制服から運動着に着替える。


 【俺】の記憶があろうとも、他の女子の着替えを見て思うところは何もない。

 そもそも以前温泉入った時だって特に何もなかった。

 レティもその辺は同じらしい。

 …良かったね、お互いに。




 着替えが終わって訓練場に出た。


 因みにこの授業は2組と合同で行なわれる。

 なので、メリエルちゃんやガエル君の姿も見える。



「集合!」


 訓練場の端の方にいたスレイン先生が号令をかけて皆を集める。



「よし、集まったな。さて、これから武術の授業をやるんだが……皆一緒のことをやるのは無駄だろう。初めて剣を握る者もいれば、この国で一番の使い手もいたりするからな」


 先生のその言葉に、一斉に視線が私に集まる。

 …いや、確かに武神杯で優勝はしたけど、大会に出ていない強者なんていくらでもいるだろう。

 この国一番の使い手は言い過ぎだよ。



「そんなだからな。レベルに応じて組分けをしようかと思う。初心者と経験者…それと、腕に自信のある上級者だな。ああ、その辺の判断は自己申告で頼むわ。経験者でも不安なら初心者の方に回っても良いぞ。あと、武器種は…まあ何でもいい。剣でも槍でも弓でも拳でも、自分の得意なもの技量で判断して構わん」



 と、先生が指示を出して3つのグループに分かれる。


 私やルシェーラ、シフィル、ガエル君は上級者へ。


 ステラは経験者か…

 以前見た弓術は見事なものだったけど…?


 レティ、メリエルちゃん…あと、ユーグ君は初心者に。



「よし。分かれたな。組手なんかする時はこのグループでやる事になるから覚えておけ。それじゃあ授業を始めるが、先ずは軽く準備運動からだ」


 訓練場を数周、軽く走り柔軟体操で身体をほぐす。



「じゃあ次は武器を選ばんとな…初心者は自分に合った武器が何なのかはまだ分からんだろうが……取り敢えず今日は好きなのを選んどけ。色々試せばそのうち分かるだろ。まあ、体格とか筋力とか無理のない範囲で何となく判断するといい」


 てきとーっぽく聞こえるけど、アドバイスはちゃんとしてるね。

 やってみないと分からないと思うし、最初はそんなとこだろう。



「一応、ここにある武器なら俺は一通りは教えられるから、その点は安心してくれ」






「流石はスレイン先生ですわ。『武芸百般』の異名は伊達ではないと言うことですわね」


「あれ?ルシェーラって先生のこと知ってるの?」


「ええ、有名な方ですから。とは言え、かなり前の話らしいので、カティアさんが知らないのは当然かと。何でも冒険者時代は、あらゆる武器を使いこなす百戦錬磨の強者として名を馳せていたとのことですわ」


「へえ〜、あらゆる武器を使いこなす…じゃあ教師にはうってつけだったんだろうね」


 と、ルシェーラと話をしていると、それが聞こえたのか当の本人が話に加わる。


「随分懐かしい呼び名だ。よく知ってるな…ああ、ブレーゼン侯爵の娘さんか。それで俺の話を聞いたことがあるのか」


「あ、はい。父から聞きました。何度か依頼をされたことがあるとか…」


「ああ、そうだ。侯爵閣下にはかなり世話になったな」


 …閣下って、冒険者と交流するの好きだもんね。

 うちの連中とも友人みたいに接してるしさ。



「おっと、話が逸れてしまったな。…よし、皆武器は選んだな。…まあ、剣がやっぱり一番多いわな。あとは槍……ああ、メリエルは槍戦斧ハルバードはやめろ。持つのもやっとじゃねーか。レイピアとか、せめて片手剣にしとけ」


「うう…カッコいいのにぃ…」


 …よっぽどルシェーラの戦い方が気に入ったんだろうね。

 そして先生のアドバイスは私と同じだった。



「ん?何だ?女子はやたらとグレイブが多いな?……ああいや、そう言う事か」


 と、私の方をチラッと見る。

 女子は初心者が多いのだが、その多くは先生が言う通りグレイブを選んでる。

 私もグレイブ女子だ。


 …まあ、私が武神杯で使ってたからブームになってるのかも知れない。

 照れるぜ。



「じゃあ、折角だからグレイブ女子はカティアが面倒みてくれ」


「え?…またですか?」


 試験のときも補佐させられたんですけど。


「今更学園の武術の授業で教わることもないだろう?お前ほどの達人なら、人に教える方がむしろ勉強になると思うし…まあ、頼むわ」


「むむむ……分かりました」


 確かに先生の言うことにも一理ある。

 もう少し授業が進んで組手とかやるまでは、教師役の方が得るものはありそうだ。




「今日は初日だし、難しい技術とか組手なんかやってもしょうがないだろ。取り敢えず広がって…好きなように構えて素振りを繰り返すんだ。俺が回って行って、気になる部分があれば指導する」



 そうして、各人訓練場いっぱいに広がって、思い思いに武器を振るう。


 私はグレイブ女子を見回りながら、構え方や基本的な型を指導していった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る