第九幕 15 『カティア先生』

 引き続き武術の授業である。


 どう言う訳か私は、同級生の武術指導を行うことになった。

 ん〜…人に教えるのは初めてなんだけどなぁ…

 それに、私のは本当はグレイブじゃなくて薙刀なんだけど…まぁ、いっか。



 因みに、ルシェーラは当然ながら槍戦斧ハルバード、シフィルとステラは弓を選んでる。


 槍戦斧ハルバードを却下されていたメリエルちゃんは…どう言う心境の変化なのか、戦杖バトルスタッフを選んでいた。

 中々に良い選択だと思う。

 誰かにアドバイスされたのかな?



 そして、レティはグレイブを選んだ。

 最初は槍を選んでたんだけど、私が教えるという話を聞いて変えたみたい。

 他にも何人かそういう娘がいる。



「えへへ…カティアに武術を教わるのは、前に約束してたからね」


「…約束?」


「あれ?忘れちゃったの?うう、親友なのに…ひどいわ、くすん…」


「はいはい、嘘泣きはやめなさい。でも、約束って……ああ、モーリス家で手合わせしたとき…」


「そうそう!」


 確かにそんな話をしてたね。

 あの時は学園に入るなんて思ってなかったけど…不思議なものだね。



「じゃあ、これから教えるんだけど…正直人に教えた経験なんてないからね。あんまり期待しないでね」


「だいじょ〜ぶだよ!カティアはチートキャラだからね!」


 別にずるはしてないと思うけど。

 …多分。


「「「よろしくお願いします!カティア先生!」」」


「あ〜…カティアでいいよ。同級生なんだしさ…」



 ということで…取り敢えず武器としてグレイブを選んだ女子達を集めて、基本の構えから教えることにした。







「では、もっとも基本的な…これが中段の構えね」


 先ずは私が見本を見せる。

 左前の半身で、グレイブの穂先は相手の鳩尾を狙うような位置に置く。


「これが基本と言われるのは、攻撃、防御どちらの動作にも繋げやすいからだよ。まずはこの構えを覚えましょう。やってみて?」


 と、皆にも構えをとってもらうように促す。



「カティアさん、こんな感じかな?」


「うんうん、なかなか良いと思うよ。もう少し、こう、脇を締める感じで…うん、いいね」



「カティア〜、こ〜お〜?」


「姿勢はいい感じだね。あとは持手の位置をもう少し、こう…そうそう、そんな感じで」


「…何か窮屈な感じ」


「力を入れ過ぎかな?あとは慣れもあるけど、これが自然に出来れば、次の動作に繋げやすくなるんだよ」



 一人ひとり構えをチェックして、気になるところを修正していく。

 かなりの人数がいるから結構大変だ。


 …て言うか、先生はかなり楽してるんじゃなかろうか?





 一通り構えをチェックして、次の段階に進む。


「じゃあ次は…どうしようかな?…基本の歩法から行こうか」


 薙刀…じゃない、グレイブを構えながら移動する方法だ。

 地味だけど、間合いが特に重要な武器だから足運びはとっても大事。



「基本はこう…『摺り足』って言って、地面を軽く擦るように歩くの。私のマネしてやってみましょう」



 と、しばらくは皆で足運びの練習をやってみる。

 

「なるべく上体は動かさないように意識してね」


 時折注意点を伝えたり、個別に指摘したりする。

 うん、結構先生っぽく出来てるんじゃないだろうか?



「…ねえ、カティア。これ、地味だね」


「何言ってるの、基礎なんて大体は地味なものでしょう」


「そりゃそうなんだけどさ。もっと、こう…折角武器を持ってるんだから振り回したいよ」


 こらこら、基礎を疎かにしちゃ駄目だよ。

 気持ちは分かるけど。


「それは次ね。でも、こんな地味な歩法でも、極めれば……」


 そこで、[閃疾歩]で一瞬のうちにレティの懐に飛び込む!


「うわっ!?」


「こんなことも出来るんだよ?」


「えっ!?今、一瞬で現れたよ!?転移魔法!?」


 お〜、驚いてる驚いてる。


「違うよ、レティなら『縮地』って知ってるでしょ?」


「あ、知ってる!漫画とかで見たことあるよ!」


 まあね。

 縮地はロマン(?)だよね。


「まあ、マンガみたいに超スピードで動いてる訳じゃなくて、どちらかと言えば、意表を突くとか錯覚とか…そう言う技なんだけど」


「へえ〜…私にもできるようになるかな?」


「地道に練習すればね」


「…は〜い」



 周りで聞いていた娘たちも、基礎の大事さは分かってくれたかな?

 地味でつまらないけど、それを実直にこなせる者が強くなれるんだよ。





 とは言え…これだけじゃ、やる気が削がれちゃうから、そろそろ武器も使いますか。



「じゃあ、摺り足の練習はそれくらいにして、次は武器も使ってみようか」


 私のその言葉に、あからさまに皆の表情が明るくなる。


「手本を見せるから、よく見ててね」


 そう言って、私は殊更ゆっくりと、動作をよく見てもらう事を意識しながら袈裟斬りの型をなぞる。



「こんな感じね。身体の各部分を連動させて、滑らかに、流れるようにって意識すると良いかな。ゆっくりで、まだ力はそんなに入れなくていいから」



 見本を見せてからポイントを説明して、実際にやらせてみる。


 先程の歩法の練習と同じように一人ひとりの動きをチェックして、おかしなところがあれば指導する。





「うん、良いね。みんな中々サマになってるよ!」


「本当?私も?」


「うん、レティもスジは悪くないね」


「えへへ〜…よ〜し、頑張ってカティアみたいに強くなるぞ〜」


 うんうん、やる気が出て何よりだよ。


 他の娘たちも思いのほか楽しそうに練習してくれている。


 他の人に教えるのは初めてだったけど、後進を育てる人の気持ちが少しだけわかって、こう言うのも悪くないな…と思うのだった。


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