第二幕 2 『嫉妬』

 ドナドナされて行った先でいろいろな人を紹介され、入れ代わり立ち代わり挨拶したりされたり。


 奥様が一緒に付いてきてくれて、色々とフォローしてくださったので大変助かった。


 中には遠回しに私を口説いてくるような人もいて辟易したが、奥様がやんわりと牽制してくれた。

 …いや、もと傭兵なんてウソでしょ?なんて思ったよ。


 そんなこんなで一通り挨拶も終えたので、皆がいるところまで戻ることにした。


 ああ、やっと料理が食べられるよ…





 皆がいた辺りに戻って来ると…



 父さんは閣下と、他数人の招待客と話し込んでいる。

 ちょっと父さんは退屈そうだ。

 あくびなんかしないでよね。



 ティダ兄とアネッサ姉さんは二人きりの世界になってる。

 あ、何か『あ〜ん』とかやってる。

 桃色結界に阻まれて誰も近づけないだろう。

 …程々にね。



 ロウエンさんは料理に夢中だ。

 ふむ、私もそっちに加わろうかな。



 『鳶』の面々は料理を片手に集まって談笑してる。



 …あれ?カイトさんがいないな。

 どこに…

 あ、いた。

 一緒にいるのは…ルシェーラ様?




 カイトさんは優しげな笑顔で、時おり頷きながらお嬢様の話を聞いているようだ。

 お嬢様も凄く楽しそうで、それに何だか随分と親しげだ。

 美男美女が楽しく話をしている様子はとてもお似合いで、まるて恋人が語らうかのように見えた。


 (ズキン…)

 何だろう…

 胸が苦しい…

 楽しそうに談笑してる二人を見ると無性に悲しくなってしまった。


 その時、ルシェーラ様がこちらに気づいて、笑顔を向けてきた。

 何だろう、その微笑みは…

 私は何だかいたたまれなくなってしまい、気付かないふりをしてその場をあとにしてしまった。

 




ーー カイトとルシェーラの会話 ーー


「カイトさま、お久しぶりですわね」


「ああ、そうだな。元気だったか?」


「ええ、カイトさまもお変わり無いようで。お国にはまだ戻られないのですか?」


「…それは何とも言えない。積極的に戻るつもりもないしな」


「そうですか…ふふ、積極的に戻りたくない理由ができたのでしょう?」


「?何の事だ?」


「カティアさんの事ですよ。好きなんでしょう?彼女の事が」


「…はぁ、閣下か。困ったものだ」


「あら、お父様に聞くまでもなく、少し見ただけで分かりますわよ」


「…」


「どうなんですの?実際のところは?」


「…そうだな、惹かれている…とは思う。だが…」


「その気持ちだけで十分だと思いますわよ。あとは自分の気持ちに素直に、ですわ」


「…ふ、お前には敵わんな。全く、そう言うところ閣下にそっくりだぞ。いや、奥方様の方かな?」


「それは、二人の娘ですもの。あ…噂をすれば、カティアさんが戻って来られましたわね」


「ああ、やっと開放されたのか。奥方さまがついて行かれたから問題なかったと思うが」


「…あら、いやですわ」


「?どうした」


「なんだか誤解されたようで…ちょっと行ってきますわね」


「お、おい!」


ーーーーーーーーーーーーーーー




「はぁ、何で逃げて来ちゃったんだろ…」


 自分でも訳がわからず自問する。


 あの二人お似合いだよね。

 カイトさんと閣下って前からの知り合いみたいだし。

 お嬢様ともお付き合いがあっても不思議じゃないか…


 あ、そうか…

 嫉妬してるんだ、私。


 変なの。

 別に付き合ってる訳でもないのに。

 自分の中で、【俺】の意識の折り合いだって付いてないのに。

 馬鹿みたいだ。




「カティアさん、お待ちになって」


「へ?あ、お嬢様…」


 ちょっと一人になりたいと思ってたところに、お嬢様が話しかけてきた。

 カイトさん放っておいていいのかな?


「どうしたのですか?元気がありませんよ?」


「あ、いえ。何でもないんです」


「ふふ、私とカイトさまの事が気になってらしたのでしょう?」


「!い、いえ、あの、とっても素敵なお二人だなって…邪魔しちゃ悪いかと思いまして…」


「あら?どういう関係に見えたのかしら?」


「!…えと、お二人は恋人…とか?」


「…ぷっ!うふふふっ!あはははっ!」


 …笑われた。

 と言うか、正に深窓の令嬢って感じのお嬢様がお腹を抱えて笑ってるのがシュールだよ…


「ご、ごめんなさい…ふふ、カ、カティアさんが、あまりにも可愛らしくて…つい…ふふふ」


 まだ笑ってる。

 何なのさ、もう…


「はぁ…ふぅ、本当にごめんなさいね?あまりにも可愛らしい勘違いをされてるので、ついついからかってしまいましたわ」


「勘違い、ですか」


 ていうか、息が切れるほど笑わなくても。

 何かイメージが閣下に近づいてきたぞ?



「ええ、カイトさまは…そうですわね、私にとっては幼馴染のようなものですわ」


「幼馴染…」


「そう、それに私には婚約者がいるんですのよ?他の殿方に懸想してるなどと思われるのは些か問題ですわ」


「えっ?あ、あの、すみません…」


「ふふ、謝るのはこちらの方ですわ。からかってしまってごめんなさいね?」


「そ、そんな。勝手に勘違いしたのは私ですし…」


 ほんと、どうしてそんな勘違いしたのか…

 ちょっと冷静さを失ってたみたいだ。


「カイトさまの事、好きなのね」


「!…その、自分でもよく分からないんです。多分、好きという気持ちもあると思うんですけど…それを素直に認められない自分も居て…」


「そう…複雑な乙女心ですわね」


 いや、どっちかというと男心が問題なんです。

 最近めっきり萎んできてる気もするけど…


「まあ、これ以上他人がとやかく言うものでは無いですわね。でも、二人のことは応援してますわ」


「えと、ありがとうございます?」


 何か、お嬢様ってもっとこう、物静かで大人しいイメージだったんだけど、すっかり印象が変わったな。

 やっぱりあの閣下の娘さんなんだし、ただの大人しいだけのお嬢様じゃないって事だよね。


 …まさか、この人も大剣を片手で振り回したりしないよね?




「カティア、大丈夫だったか?」


「あ、カイトさん。うん、奥様も一緒だったし、皆さん親切だったし問題なかったですよ」


「そうか、良かった」


 現金なもので、先程の沈んだ気持ちはすっかりどこかに行ってしまった。


「うふふ、お邪魔虫は退散いたしますわ。ご機嫌よう〜(お母様に報告ですわ〜)」


「あ、ルシェーラ様…行っちゃった…」


「何を話してたんだ?」


「え?いや、大した事は…あの、今日の公演について、とか」


「そうか。何だか深刻そうな雰囲気だったから、何かあったのかと心配したぞ」


「ふふ、大丈夫ですよ」


 そっか〜、心配してくれたんだ、えへへ。


「あ、そうだ。カイトさん、閣下だけじゃなくてお嬢様ともお知り合いだったんですね。幼馴染って聞きましたよ」


「ん?幼馴染…まあ、そうだな。俺の父と閣下が親しくてな。それで昔から付き合いがあったんだ」


 おや?少し自分のこと教えてくれたね。

 そうやって、少しずつでも教えてくれたら嬉しいな…




「ふぅ、それにしてもお喋りしすぎて喉が渇いちゃいました。あ、すみません、飲み物頂けます?」


 結構知らない人と話すのに緊張してたのか、喉がからからだよ。

 ちょうと通りがかった給仕の人から飲み物を受け取る。


「ありがとうございます。…ゴクゴク。うん!美味しい、この!」


 喉を潤すため、一息でグラスを空けてしまった。

 ちょっとはしたなかったかな?

 …ん?ワイン?

 あっ!?


「お、おい!?カティア、それは…!」


 ま、まずい!

 意識が!?

 ああ…薄れて…い、く…





ーーただいま暴走中のためしばらくお待ちくださいーー




「はっ!?」


「…正気に戻ったか?」


 えと?


 あ〜、そうだ、確か思わずワインを飲んでしまって…



 …やっちゃったかな?


 …やっちゃったね。


 今回は何故かカイトさんにお姫様だっこされてるわ…


 とりあえず床に立たせてもらって…


「またご迷惑をおかけしてしまったようで…申し訳ございません」


「…いや、俺も不注意だった。すまない」


「今回は〜何をしてたのか聞く〜?」


「いやっ!?聞きたくない!!」


 今回も[解毒]してくれたらしい姉さんが面白そうに聞いてきたが、断固拒否だ!

 黒歴史は封印するのだ!


「でも〜カティアちゃんが覚えてなくても〜私達はバッチリ覚えてるわ〜」


「いや〜っっ!!忘れてぇっっ!!」


 ああっ!?

 何か知らない人たちからも生暖かい目を向けられてるっ!




 くぅ〜、もう絶対にお酒は飲まないぞっっ!


 その日、またしても黒歴史を積み重ねたのであった…















 …ん?

 あぁ、例の夢だな、これは。


「お兄ちゃん、こんにちは」


 やっぱり。


 声に振り向くと、予想に違わず小さなカティアがそこにいた。


 前回あった時は5歳くらいだっただろうか?

 今回も少しだけ大きくなってるみたいだ。



「こんにちは、カティアちゃん」


「あれ?お兄ちゃん…?ん〜?…お姉ちゃん?」


 ん?

 お姉ちゃん?


 カティアちゃんの言葉に違和感を覚えて自分の手を見る…


「あ、あれ?なんだこれ?ダブって見える…?」


「うん。お兄ちゃんと、お姉ちゃんが重なって見えるよ?」


「…う〜ん?どういう事だろ?」


「わかんな〜い」


 まぁ、そうだよね。


 でも、これはどういう状態なんだろ?



 …もしかして、【俺】自体がカティアの体と魂に影響を受けてきている…とか。


 …何となくそういう事のような気がする。

 今日だって変な誤解して嫉妬したりなんかしてるし……


 それは、良いことなのか悪いことなのか…


 いや、悪いことじゃないと思うけど、複雑ではあるな…



「お兄ちゃんでもお姉ちゃんでもいいや。今日もお話ししよ?」



「うん、そうだね。そうだ、いま公演をやっててね…」



 そうして、いつものように私が起きるまで話をするのだった。







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