第14話 りつ子さんとるみさんとの奇蹟の再会
りつ子さんは、彰人の母親、俺の隣にいるるみさんは、りつ子さんのおさななじみでもあり、まさに一石二鳥ならぬ一石三鳥である。
俺は彰人に念を押した。
「いいか。俺たちはプロなんだ。そしてここは、職場だということを忘れるな。
りつ子さんは、あくまで俺の客だ。お前にとっては、うざい母親かもしれないが、俺の大切な固定客だということを忘れるな。
りつ子さんに対し、失礼があったら承知しないぞ」
彰人は、苦虫を噛み潰したような顔で、うなづいた。
「ようこそ。りつ子さん。紹介します。
こちら、後輩の彰人、そして、りつ子さんが探していた待望のるみちゃんですよ」
りつ子さんは絶句し、バッグからるみさんの小学校六年の頃の写真を取り出して見せた。
るみさんは歓声をあげた。
「ひょっとして、十年前、隣に住んでたお姉ちゃん。ほら、パソコンを貸してくれたの覚えてるわ」
りつ子さんは、嬉しそうに言った。
「覚えててくれたのね。私は、るみちゃんを忘れたことは、一度もなかったわ」
「私もふとおねえちゃんはどうしてるのかななんて、思うことがあったよ」
「私は今度、小さなもんじゃ焼きの店を開店するの。ぜひ来て下さい」
「えっ、私ももんじゃ焼き大好き。そうだ。私、高校は中退しちゃったけど、調理師の免状を持ってるんだよ」
りつ子さんの顔が輝いた。
「本当? ぜひ、食べに来て。もしできたら、バイトとして勤めてもらうことになるかもしれないな」
これで、るみさんの第二の人生が開けた。
りつ子さんのるみさんを思う愛が、るみさんを救い、未来をつくったのだ。
人と人との出会いを大切にしていけば、きっといいことがあると思った。
「りつ子さん、ようこそ。彰人です」
彰人は、りつ子さんにおしぼりを差し出した。
「あらっ、彰人。いつの間にか従順になったわね」
「はい、今はこうして女性を癒すホストをしております。どうか、和希先輩の売上に貢献してやって下さい。今、僕が言えるのはそれだけです」
「思えば私は弱い女だったわ。でも、二人の息子のことを忘れたことはなかったわ。
私がお腹を痛めて産んだ子供、いわゆる私の分身のようなものだもの」
「分身ですか? 母と子は命でつながっているので、愛するのは当然ですが、子供はいつか親から巣立っていく。いつまでも、親に依存してるわけにはいきませんよ。
これからは、俺一人で生きていきます。あなたは、あなたの人生を歩んで下さい。ただし、コンプライアンスに反することはダメですよ。
あっ、法律は常に移り変わるので、勉強しなきゃ。知らなかったでは済まされませんよ」
「そうね。親の許可もなしに他人の子を住まわせたら、略取誘拐ということにもなりかねないし、外国で結婚した母親が父親の許可もなしに、我が子を帰国させても、略取誘拐ということになりかねないというわね」
りつ子さんはため息をつきながら言った。
「はいはい、それはお互い様でしょう。私みたちな欠陥母親でも、反面教師になったわね」
「確かにおれは、おかんを憎んだよ。しかし、ホストをしてみてわかったんだ。
人間って弱いものだってことを。人は人によって励まされ、学ぶこともできるが、同時に傷つけることも、傷つけられることもあるのよ」
和希は彰人の講釈を半ば、感心して聞いていた。
おかんと呼ばれた途端、りつ子さんの顔がパーッと輝いた。
「ようやく、おかんと言ってくれたね。
私はダメな欠陥母親だけど、久しぶりにおかんと呼ばれて嬉しいよ」
りつ子の頬には、一筋の涙が浮かんでいた。
「そう、私は弱虫だったわ。家庭のことで頭を悩ませ、それを紛らわすために、パートに出て、そこで知り合った客に身も心も赦してしまったんだから。
男に溺れた挙句の果て、家庭を崩壊させてしまったダメな母親よ。
しかし、私みたいな欠陥母親でも、反面教師になることだってあるとは、皮肉な話ね」
「確かに俺は、おかんを憎んだよ。しかし、ホストをしてみてわかったんだ。
人間って弱いものだって。人は人によって励まされ、学ぶこともできるが、同時に傷つけることも、傷つけられることもある」
和希は、彰人の講釈を半ば感心して聞いていた。
おかんと呼ばれた瞬間、りつ子さんの顔がパアッと輝いた。
「ようやく、おかんと言ったくれたね。かあさん、ダメな欠陥母親だけど、ひさしぶりにおかんと呼ばれて嬉しいよ」
りつ子の頬には、一筋の涙が浮かんできた。
「そう、私は弱虫だったわ。家庭のことで頭を悩ませ、それを紛らわすために、パートにでて、そこで知り合った客に身も心も許してしまったんだから。
男におぼれた挙句の果て、家庭を崩壊させてしまった」
「もういいよ。昔話は、時代劇のように終わった時代の歴史上のことでしかないんだ。
それより、これから先のことを考えて生きていかなくちゃ。昔を懐古してたら、今の職場を解雇され、蚕のように悔恨の情にかられるぞ。
さあ、問題です。かいこという言葉が何回出て来たでしょうか?」
るみが、笑顔で口を開いた。
「四回ですね。もう回顧録はやめます」
俺とるみとは、顔を見合わせて吹き出した。
るみが、笑顔で口を開いた。
「そうね。私も過去にとらわれるの、やめるわ。
それより、りつ子さんのもんじゃ焼きの店で、お世話になることに決めたの。
こう見えても私、料理は得意なんだから。
あっ、和希と彰人の為に、もんじゃ焼を差し入れしようかな」
ここはいちばん、俺が笑いをとらなきゃな。
「もし、もんじゃ焼きの小麦粉の生焼けで、腹をこわすことになると、ペナルティーーとしてりつ子さんとるみさんに、プラチナドンペリ二本入れてもらうぞ。
高級ドンペリだからな、二本で百四十万円だ。その分、利益がでなかったら、赤字経営になっちゃうぞ」
りつ子さんとるみさんは、声を合わせて言った。
「やだあ、そんなドジ話済まないわよ」
四人は、声を合わせて笑った。
「そうよ。私の目標はもんじゃ焼きのチェーン店を経営すること、目標百店舗」
りつ子さんは、ずいぶん強気だ。
彰人が、呆れ顔で言った。
「おいおい、おかん、夢は大きい方がいいっていうけどさ、誇大広告ならぬ誇大宣伝だぜ。最初は地道に一店舗の売上を上げることを考えなきゃな」
最後に俺が締めくくった。
「まあ、いいじゃん。それぐらいの強気の夢をもたなきゃ、商売は始められないぜ」
これで、一件落着に終わった。
俺は、なんともいえない安堵感と安らぎ、そして未来への希望と力強さを感じた。
人を救うということは、自分の心を救うことになる。
なかには、過去に犯した罪滅ぼしのために人助けをしている人も存在している。
彰人は、りつ子さんの経営するもんじゃ焼きの店のDMを作成して、ホストを含めた店全員に宣伝するという。
なかなかの、親孝行息子である。
まあ、俺も見えないところも含め、陰になり日向になり、いろんな人に助けられてきた。
ひょっとしてそれは将来、俺が人を救うために、神様が力を与えて下さったに違いない。
神はその一人子、イエスキリストを人類の罪ーエゴイズムのあがないとして、十字架にかけられた。
しかし、イエスキリストは三日目に復活し、天へと帰っていった。
最初にこの事実を広めたのは、マグダラのマリアという売春婦であったという。
売春婦により、この荒唐無稽な、にわかには信じがたい事実がなんと全世界に広まっていった。
「きっと誰でも一人は味方がいるわ いつも私がそれになれればいいのに」
(「セシル」歌 浅香唯)
昔、流行ったアイドルの歌詞を思い出した。
そう、人間誰しも自分を必要としてくれる人は、きっとどこかに存在している筈だ。
俺が今までの人生でいろんな人に助けられてきたのは、今、目の前にいる君を救助するためだったということに、ようやく気付き始めていた。
END
君を助け出すために 僕は世間から救助された すどう零 @kisamatuma
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