旧都への立ち入り許可
サキとヨゾラが宿の一階にある食堂に行くと、見覚えのある二人が酒盛りをしていた。
「あら、待っててくれたの? 今から呼びに行く予定だったのに」
「勝手に飲んでるだけだから気にすんな。それに、アタシらがどこに住んでるのか知らねーだろ?」
「それもそうね」
サキとヨゾラはマーガレットとジークが座っている隣の席へと座った。
「改めて自己紹介からするか。クレイズの皇妃候補のマーガレット・ノルド・クレイズだ」
ヨゾラはマーガレットが皇妃候補だと知り、ナディアが影を倒した時に嬉しそうにしていたことに合点がいったようだった。
「その兄のジーク・デクロセスだ。短い間かもしれんがよろしくな。旅人の嬢ちゃん達」
兄妹で苗字が違うことに違和感を覚えたヨゾラだったが、皇妃候補になると苗字が変わることを思い出し自分で納得したようだ。
「サキよ。旅をしながら音楽家のようなことをしているわ。こっちは仲間のヨゾラね」
「よろしくー」
マーガレットもジークも、ヨゾラの容姿からナイレンシンの出身だと分かったが、特に詮索はしないようだ。
「それで、頼みって何だ? 久しぶりの決闘な上に楽しかったからある程度なら聞いてやるがよ」
どうやら、ヨゾラが知らない内にサキはマーガレットに約束事を取り付けていたようだ。
「頼みというのは、旧都とその付近への立ち入りの許可が欲しいのよ」
旧都と聞いた途端に二人の雰囲気が変わったとヨゾラは感じた。とはいえ、剣呑なものというよりは真面目な感じになったのだとも思った。
「どうする兄貴? 何となく、アニエスみたいな気持ち悪さを感じるんだが」
「お前、あの白い嬢ちゃん苦手だもんな。とりあえず、その辺は俺の領分だ兄貴に任せとけ」
「ありがとな、アタシの約束なのに」
「いいってことよ。それより、何でサキの嬢ちゃんはあんな所に行きてぇんだ?」
「観光よ。ちょっと龍が見たくてね」
「そうか、……そうか」
サキの返答にジークは言葉を失っていた。ヨゾラはあまり関係ない話だな、と思い料理を頼み始めていた。
「一応、言っておくが旧都まで行っても龍は見れないぞ?」
「知ってるわ。でも、クレイズといえば龍が有名でしょ? 旧都の目の前に行くだけでも思い出になるわ」
「ん? 旧都って入れないの?」
「色々あって今は入れねぇんだ。昔から龍に不敬なことをさせないために俺みたいに立ち入りを規制する奴がいるにはいるんだがな。それでも入りてえのか?」
「もちろん、それでも行くつもりよ。それに、そんなことは最初から分かっていたことだもの」
「そこまで言うなら通行許可を出さなくもないが……、そうだな、二つ条件がある」
そこで区切るとジークは指を二本立ててサキ達に向けた。
「一つは嬢ちゃん達はまだ来たばかりで信用が足りない。だから、俺も着いて行く。これがまずは絶対条件だ」
「もちろん、構わないわよ。元々断られると思っていたもの。それくらいなら全然いいわ。二つ目は何かしら?」
「そっちの連れも行くんだろ? 一応、龍のお膝元に行くんだ。何があるか分からん。ある程度の強さが知りたい」
ヨゾラは何となく嫌な予感がしたので、とりあえずどうにか戦闘を回避しようか頭を回し始めた。
「決闘くらいならいいわよ。もちろん、ヨゾラもいいわよね?」
「いやー、僕はちょっと遠慮しておくかな。留守番しておくから二人で行って来なよ」
「それでもいいけど。待ってる間はマーガレットに預けるわよ?」
「あ? 子守りなんて苦手だからしねーぞ?」
「子守りって言っても少し戦闘訓練するくらいでいいわ」
「そりゃあ、アタシの得意分野だな。よし、任せろ。アタシがみっちり鍛えてやるよ」
「やっぱ、ジークさんと決闘する方でお願いします」
「あら、マーガレットったら可哀想に。振られちゃったわね」
「何でアタシが誘ったことになってんだよ」
ヨゾラに遠回しに断られたマーガレットはどこか悲しそうだった。
「まあ、元気出せ。子供に好かれなくても皇妃は務まる」
「慰めになってねーよ! 馬鹿兄貴!」
そんな言い合いをしている内に頼んでいた料理がサキ達の席へ運ばれて来た。
「なら、決闘は食後にしましょうか。そういえば、どっちが戦うのかしら?」
「実力を見るだけだからな。どっちでもいいんだが……。マーガレット、戦えるか?」
「全然いけるぜ」
「そうか。なら、戦いたい方を選ばせるか」
「えー、そもそも戦う事自体あまり好きじゃないんだけど」
もう決闘からは逃れられないのでヨゾラは仕方なく二人から戦う方を選ぶ事にした。
「うーん? 質問とかしていいの?」
「俺は構わないぞ」
「アタシも構わないぜ」
「けど、一つだけよ。いくつもしては成長に繋がらないわ」
「えー」
サキに文句を言いたいヨゾラだったが、戦うことには変わらないので大人しく従い、何を質問するか慎重に考え始めた。
「二人の寵愛って何の寵愛?」
「どっちも炎神の寵愛だな」
「もしかして、質問すること間違えた?」
「結果的に意味がないと思うようなものだったけど、質問自体は悪くなかったと思うわよ」
「そう?」
「ほら、早くどっちと戦うのか選んでくれよ」
マーガレットが急かす中、ヨゾラは戦う相手の名前を口にした。
「じゃあ、ジークさんで」
またしても振られたマーガレットを尻目にサキは熱々の鍋料理をゆっくりと食べていた。
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