武装能力
ヨゾラが目を覚ますとそこは畳の匂いが仄かに香る木造の宿屋の一室のようだった。外はもう暗くなっており、随分と長い時間眠っていたようだ。
「あら、やっと起きたのね。なら、今から夕食を食べに行くから準備をするといいわ」
サキは暑かったのか、かなりの薄着をしていたようで外出のために着替えを始めた。
「サキちゃんって羞恥心とかないの?」
「今さら私の姿を見て恥ずかしくなったのかしら?」
「いや、そんなことは全然ないけど」
「それはそれで、少し残念ね。それと、外ではしないわよ? 変な印象持たれても面倒なだけだもの」
ヨゾラも旅用の服から少し薄手の格好に着替えたが、その間にサキにさえ自分の肌をあまり見せようとはせずに着替えていた。
「ヨゾラはまだ恥ずかしいかしら?」
「まあね。だから、あまりこっち見ないでね」
「もちろん、分かってるわよ」
ヨゾラが着替え始めた辺りでサキは既に後ろを向いていた。
「そういえば、夢の中で戦ってみてどうだったかしら?」
「見てたんじゃないの?」
「色々あって途中から見てないわ。まあ、大体は想像が付くけどね」
「それ、僕の口から言わせるのは中々性格が悪くない?」
「ふふっ、そうね。でも、どんなことがあったか詳しく聞かないと、どれくらい成長しているか分からないもの」
「はあ、仕方ないか。女の人の方が五回とも負けで、男の人の方は一回だけ勝てたけど十回以上の負けだったよ」
「なるほどね。それで二人と戦ってみた感想は?」
「女の人の方には普通のも透明なのも、ナイフが一本も当たらなくて話にならなかったよ。男の人の方は、途中までは良かったけど後半は割と一方的だったよ」
「気づいたことは?」
「男の人は強い人だったくらいかな。見えないはずなのにナイフを避けて来たからかなり経験豊富な人っぽい。それと女の人は本当に能力使ってないの? ありえないくらい《
「なら、ヨゾラは能力を使っているか、いないか。どっちだと思う?」
「え、夢の中で能力は使ってないって言ってなかった?」
「言ったわよ。じゃあ、使ってないって言う解答でいいかしら?」
「うーん?」
サキがこう言う時は大体間違っている時だと思うヨゾラだったが、寵愛能力に関して何かを教える時に嘘は吐いた記憶がなかったため、どちらとも言えなかった。
「同じような能力を使うような人に会った事がある?」
しかし、ヨゾラの問い掛けに対して、サキはヨゾラの考えの続きを待っているのか何も返事はしなかった。
「サキちゃんは何もなかったと思うし、ナディアちゃんはあまり戦わないから分からないなあ。カタリナちゃんも特にはない感じ?」
カタリナと言ったところでヨゾラは、一度は皇妃候補の座を奪い取った人物が頭に浮かんだ。
「でも、ヴィオラちゃんにもなかったような? いや、呪いの方かな」
ヴィオラは以前、カタリナの封印能力を無効化しておりその能力を使ってカタリナに勝利していたはずだ。
「サキちゃん、呪いの能力って寵愛能力と変わらないの?」
「副作用が色々とあるだけで他はあまり変わらないわよ」
「ということは、カタリナちゃんの封印能力を無効化したみたいに武装自体にも能力が付与できる? それが、あの女の人にナイフが当たらなかった能力の正体?」
「なるほどね。それがヨゾラの答えという訳ね。ところでヨゾラ着替えは終わったかしら」
「えっ、一応終わったけど、それがどうかした?」
そうヨゾラが言い終わると同時にサキは振り向いてからヨゾラの事を抱きしめた。
「うわっ、ってちょっと何!?」
「よくできたわね。とても偉いわ」
サキはヨゾラの頭を撫で始めた。
「んー、悪い気はしないんだけど。何でするの?」
「昔、先生にされて嬉しかったからよ。後は私がしたいからするのよ」
「ふーん」
サキの腕の中で大人しく撫でられるヨゾラは、反応に困るような表情をしていた。
「それで、武装に能力って付けられるの?」
「付けられるとは言っても自由には付けられないわ。寵愛能力と同じで神の気まぐれだもの」
「んー? でも、誰でも持ってるわけじゃないよね。それは何で?」
「寵愛能力の熟練度と理解力が足りないわね。とはいえ、それは人によって違うから手に入るまで時間がかかる人もいれば、早めに手に入る人もいるわね」
「それで、あの女の人が持ってる能力って何なの?」
「そうね、端的に言えば飛び道具の飛んで来る方向が分かるわ」
「未来が見えるということ?」
「カタリナに言った嘘を掘り返すのは良い気はしないわよ? けど、それに近いわね」
「というと?」
「超直感。って言うのが近い表現かしら。あの武装能力は本人の直感を少しだけ昇華するってだけだもの」
「あれ、思ったより地味だね」
「武装能力に派手なものはないわよ。とはいえ、有用なものが少なくないのも事実ね」
「サキちゃんの武装にも何か付いてたりするの?」
「私のには演奏強化って言って、能力を使う時に演奏をするとその能力を強化できるわ」
「あー、だから演奏してる時としてない時で寵愛能力の強さが違ったのか。ということは、思ったより強いのが手に入る可能性もあるってことかな?」
「強いのが手に入るといいわね。さて、準備が出来たのならそろそろ行くわよ」
「はーい」
そう言うと二人は一緒に部屋から出て、少し遅めの夕食を食べに行った。
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