本気の勝負

 銀色の長剣と紅色の二刀が力強く打ち合い交差する。時折、二刀から炎が噴き上がるがサキは危なげなく避けて斬り結ぶ。


「炎が漏れてるわよ」


「熱くなると抑えが利かねーんだ。頑張って避けてくれ」


 マーガレットが右手の刀で斬りつけるが、サキの長剣に弾かれ反撃の一筋を左手の刀で受けると共に刀から炎が噴き上がり、お互いの身を焼こうとする。サキは巻き込まれないように一度下がるが、マーガレットは追撃しようと炎に飛び込むが、飛び込んだ先で何が見えたのか咄嗟に身を捩るが何も飛んで来なかった。


「《紅業龍爪こうごうりゅうそう》」


 そして、マーガレットが向かって来たサキにへ炎の剣撃を四つ飛ばすが、サキはそれを全て斬り伏せながら迫るが、マーガレットは落ち着いて右手の刀で受け、左手の刀で薙ぎ払うと共に刀から炎が噴き上がる。が、サキは体勢を思いっきり低くしそれ避けマーガレットの足に向かって剣を振り右手の刀で受けられるが、すぐに跳びながら斬りつけ左手の刀で受けられると同時に炎が噴き上がるが、刀と打ち合った反動で後ろに距離を取り避ける。だが、完全に避けられたわけではなく、武装が焼かれて寵愛の光が武装体内で燃える。


「炎の攻撃は観客に分かりにくいのが難点ね。見せ物としては少し物足りないわね」


「だから、こうして斬り合いを主にやってるんじゃねーか。力も見せ付けやすいしな」


「貴女はちゃんと視えてるじゃない」


「ああ、だからお前の武装がもうすぐ壊れることもわかってるよ」


 マーガレットが紅色の二刀を構え直し、サキも同じように銀色の長剣を構え直すが、突然長剣が光に包まれフルートへと戻ってしまった。


「維持する力も残ってないのかよ」


「これで充分だから心配しなくていいわよ」


「締まらねーが、まあいいか」


 サキがフルートを構えると共に、マーガレットも気を引き締める。互いにこれで最後にするつもりのようだ。

 そして、何の示し合わせも無く互いに地面を蹴った。二人の距離がどんどん近づき間合いに入った瞬間、マーガレットが左手の刀でサキを斬るが、フルートで防ぐが右手の刀から来ると思っていたらしくかなりギリギリの防御で体勢が崩れ、右手の追撃もフルートで無理矢理抑えたためか思いっきり上に弾かれる。


「終わりだ」


 マーガレットが無防備になったサキに対し左手の刀で斬り裂こう深く踏み込んだ。


「《安眠誘う鱗粉ファラーシャ・リーフ》」


「っ、《龍血噴火りゅうけつふんか》!!」


 その瞬間、ナディアの声で強制昏倒能力が紡がれ、それを聞いたマーガレットは条件反射の如く自身とサキとの間に炎の壁を作るが、その隙にサキは上へと跳んだ。

 

「《自然と精霊の交声曲ナチュラル・カンタータ》!」


 そして、マーガレットが炎の壁でサキを包むが、何かしたのか対した痛手とはなっておらず、サキは再びフルートを手にした。


「《万物に変形す円舞曲ヴァリエーション・ワルツ》!」


 そのままフルートが再び長剣に変形しマーガレットに向かって斬り下ろす。


「終幕だけど、楽しかったわよ」


 そして、残ったのは右肩から腕を斬られたマーガレットと左手の刀が左胸に突き刺さったサキだった。


「ああ、アタシも久しぶりに楽しかったぜ」


 そう言うと共にサキの武装が完全に破壊され、光の粒子へと還った。



―――――――――――――――



 ジークの影の大太刀の剣撃が避けられず、両手の手斧で受けたヨゾラだったが、抑えきれずに思いっきり飛ばされて地面を転がるが体勢をすぐに立て直す。しかし、すぐに追撃に来たジークの影に大太刀を振り下ろされ、ギリギリで避けることとなりすぐに来た蹴りをお腹に食らい再び吹き飛ぶ。


「まるでボールみたいだねー」


「ちっ、《刺す風サリーレ》」


 ナディアの煽りが聞こえていたらしくヨゾラが舌打ちするが、再び向かってくるジークに透明な投げナイフを投げるが、視えなくともヨゾラの手癖を読んで回避され大した牽制にはならなかった。


「《飛ぶ風スカンデレ》」


 とりあえず、大太刀を避けるためにヨゾラは上空へと飛ぶが、それが不味かったらしくジークは大太刀をヨゾラに向かって投げた。


「っ、《回す風アクシス》!!」


 その大太刀の軌道を曲げようと小さな竜巻を発生させてどうにかしようとしたが、大太刀の勢いは止まらずにヨゾラの左胸を貫いた。そのまま地面に落ちて武装が破壊される。


「はあー」


 ヨゾラが溜め息を吐いているとナディアが蝶の翅を使って飛んで来て、近くに座り心地の良さそうな椅子を出現させそこに座った。


「お疲れー。何か飲む?」


「……じゃあ、何か冷たくて美味しいもの頂戴」


「はいよー」


 すると、ナディアは虚空から水筒を取り出しヨゾラへ投げた。


「中身何?」


「飲んでからのお楽しみ」


 ヨゾラは栓を開けて匂いを嗅いでみるとレモンの匂いか広がり、何の飲み物か分かったので大人しく飲み始めた。


「これってどんな原理?」


「ナディの記憶から再現した飲み物を適当な容器に入れるって事をしたんだよ。あと、何をしても現実の身体には影響がないから、気にせずに飲めばいいのに」


「一応だよ。あと、身体には影響ないけど精神と寵愛能力には影響あるでしょ」


「まあね」


 そう言うとナディアは再び虚空から水筒を取り出すと、自身も飲み始め、辺りには桃の香りが広がった。


「んー、やっぱ、レモンの方が好きかなー。それ」


 水筒に栓をするとナディアは自身が飲んでいた物をヨゾラに投げた。


「えっ?」


「交換」

 

「ああ」


 ヨゾラも自身が飲んでいた水筒に栓をしてナディアへと投げる。そして、渡された水筒の栓を開けまた飲み始め、ナディアも同じように飲み始めた。


「間接キスだね」


「桃の味しかしないけどね。そっちこそいいの?」


「カタリナみたいな反応を期待した? ナディはあの子ほど初心ウブじゃないから、こんなんじゃ動じないよー」


「カタリナちゃんって割と甘やかされてる?」


「仲間の皆がカタリナに対して甘いよ? 先輩、先輩って言って来て可愛いからね。同い年なのに面白い子だよね」


「んー? 学園って一年生分しかいないの?」


「五年生まであるよ。あー、カタリナが先輩って呼ぶのはエレナが後輩と勘違したからだからだよ」


「サキちゃんって割と抜けてる所あるよね」

 

「いやー、カタリナって二年生からの編入生だから割と仕方ないところもあると思うけどね。学力成績はかなり良かったし」


「ナディアちゃんも良かったの?」


「ナディは普通くらい。実戦成績の方が良かったからね」


「実戦って何するの?」


「個人戦、団体戦、多数戦、攻城戦、特殊戦の五つだね。そういえば、カタリナは寵愛能力量が多くないから個人戦以外は苦手だったね」


「ナディアちゃんはどれが得意なの?」


「うーん? 強いて言うなら攻城戦かな。攻城側も防衛側も割と勝てたから、得意って言うなら攻城戦だと思うよ。まあ、どれも同年生で上位十位以内だったし大して差はないよ」


「んー。もしかして、その眠らせる鱗粉って罠みたいに設置したりできるの?」


「罠にするなら、どんな風に罠にすると思う?」


「何かに鱗粉を包んで近づいたら爆発する的な?」


「おー、大体合ってるよ。面倒だからここでは見せないけどね」


「ふーん。サキちゃんの成績はどうだったの?」


「エレナは学力成績含めてかなり良かったよ。どの実戦も勝率がかなり安定してたし、どれも五位以内には入ってたよ」

 

「そうなると一位って誰だったの?」


「んー、秘密。でも、このまま旅をしていけば、いつか会えると思うよ」


「その人も皇妃候補なの?」


「そだよ。あー、でも、皇妃候補で暇な人の方が少ないから、やっぱ会えないかも」


「んー? となると、ナディアちゃんってかなりの暇人?」


「カタリナに怒られるくらいには怠惰な生活だね」


「たまには会いに行ってあげればいいのに」


「えー、めんどくさ」


 ふと、ナディアは空を見上げ懐かしむように目を細める。


「けどま、たまにはいいかもね」


 そして、すぐに立ち上がり座っていた椅子を虚空へと放り込んだ。


「どこか行くの?」


「んー、カタリナに会うための準備をするからね。そろそろ、起き戻ることにするよ」


「じゃあ、ここでお別れか。結局一回も勝てなかったな」


「そのうち勝てるようになるよ」


 そう言うとナディアはステッキをヨゾラへと向けた。


「またね、ナディアちゃん」


「また次の眠りでね。《安眠誘う鱗粉ファラーシャ・リーフ》」


 ナディアのステッキから光の粒子が出てヨゾラのことを眠らせる。そして、ヨゾラの夢の身体が虚空へと消えていく。


「サキのことよろしくね」


 ナディアは誰もいなくなった空間に一人呟くのであった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る