二つの寵愛
カタリナがサキ達に襲われる一ヶ月程前。
艶陽の都アデリアの大広場に群衆が集まりお祭り騒ぎを起こしていた。
この日はカタリナが申し込まれた決闘を受けていて、今も緑色の髪を肩まで伸ばし杖を持った女性と相対していた。
「《
「《
しかし、ありとあらゆる能力効果を打ち消すカタリナの前には能力による絡め手は通用せず、無防備になった相手にカタリナは銃口を向けた。
「《
カタリナは引き金を引き、武装を強制的に解除し鎖で拘束する弾丸を放ち、着弾した相手はなすすべもなく倒れ込む。
この二つだけの能力で決闘の相手を次々と倒していった。試合自体は盛り上がりに欠けたものだったが、祭りとしてはそれなり繁盛していた。
そして最後の挑戦者が決闘の場に現れた。
「ごきげんよう、皇妃候補者様。私の名前はヴィオラ・レアーツと申しますわ」
その相手は長い金髪を上で二つに結んだ少女だった。しかし、カタリナはそんなことには興味も無さげに腰に下げた拳銃に手を掛けた。
「迅速に武装を開始してください。本官の寵愛の力も少なくなって来ましたので、力が尽きる前に決着を付けましょう」
カタリナの歯牙にも掛けないような言い草に、ヴィオラは口を歪ませた。
「そうですわね。ならば、早速始めることにしますわ。《陽射す舞姫》」
ヴィオラは右手に受けた寵愛の証を強く光らせ自身を包み、白いドレス姿にレイピアを持った姿になった。
両者が武装をしたことで決闘の合図となり、始まった瞬間カタリナは拳銃を抜きヴィオラの左手胸を狙い弾丸を放った。
「《
それを今までの決闘で予測していたのかヴィオラは透明な円形状の盾を空中に出し銃弾を防ぐ。が、盾は着弾と同時に消滅してしまった。
「少し厄介ですね」
ヴィオラは前面に盾を五枚ほど重ね武装した身体を守りながらカタリナに突っ込んできた。
「《
光のベールがヴィオラの盾を消滅させ、カタリナが銃弾を撃つより早くヴィオラは再び盾を五枚だけ展開する。それを見越していたカタリナは盾で守られていない足を撃った。しかし、足にも小さな盾がありそれによって弾丸は防がれてしまう。
その間もヴィオラは止まらずカタリナに接近し続け、ヴィオラの間合いにカタリナが入る。
「ちっ」
カタリナが舌打ちをし、ヴィオラの剣撃を拳銃で弾き返すが、それでも限界がありカタリナの体には小さくだが傷が積み上がっていく。
それでも、ついに限界が来てカタリナの手から拳銃が遠くに弾き飛ばされてしまう。
「ふふ」
ヴィオラは勝ちを確信し笑みを浮かべ、カタリナに斬りかかる。
「《
「《
カタリナの最後の足掻きに対してもヴィオラは慎重になり盾を張り直す。そして、ヴィオラの剣が自身を守ったカタリナの右手を貫く。
そのまま、ヴィオラは今度こそトドメの一撃を与えようと剣を引き抜いたが、剣が先の方から霧散していた。
「本当に厄介なだけで、時間ばかりかかってしまいます」
ヴィオラが状況を飲み込めないうちに、カタリナの左手が五つに重なった盾に突っ掛かりながらもヴィオラの首元を掴む。
「《
そのままヴィオラの武装を強制的に解除させ鎖で拘束した。
「本官にここまで近づいたのは貴女で六人目です。学園の人達を除けば初めてのことなので誇っていいですよ。ヴィオラ・レアーツ」
鎖に巻かれて倒れたヴィオラにしゃがみ込みながらカタリナは勝ち誇った顔でそう告げた。
一方、戦いに負けたヴィオラの顔は暗いものだった。
「本当に……」
「はい?」
「本当にこんな力に頼ることになるなんて」
不穏な気配を覚えたカタリナは一気に飛び退いた。
瞬間、再びヴィオラの左手が光り始め身体を包み込んだ。
「寵愛武装!?」
今度はカタリナが驚いた顔をした。
「《日食の祈手》」
そして鎖を砕き、立ち上がったヴィオラ。その姿は、先程のドレスを赤黒くし、手には同じように剣が握られていた。
「二回戦とか聞いてませんが」
打てる手がほとんどなくなっていたカタリナは、急いで飛ばされた拳銃の元に向かって走った。
「《
そして、ヴィオラが剣を振るい飛ばしてきた剣先をギリギリで避け、転がりながらも拳銃を拾い上げ銃口をヴィオラに向ける。
カタリナにとってこれは賭けだった。一人の人間が二つの寵愛を持つことなんて聞いたことはなかったが、実際に起きていることから推察するに一番可能性が高かった。そして、先程放たれた能力は一つ目の寵愛能力とは違うものだとカタリナの勘が告げていた。このことから、ヴィオラにカタリナの弾丸を防ぐような能力がないことに賭けるしかなかった。
「《
そして、カタリナの銃口から最後の寵愛の力を振り絞った弾丸が放たれた。その弾丸はカタリナの狙い通りにヴィオラの左胸に着弾した。
「えっ」
「この程度は食らって差し上げますわ」
しかし、武装は解除されずに鎖も再び壊されてしまった。カタリナは賭けに負けたのだ。
「《
そのお返しにとヴィオラは再び剣先を飛ばし、もう拘束する弾丸を撃つほどの寵愛の力が残っていなかったカタリナはその攻撃を避けずに受け入れた。
こうして、カタリナ・ノルド・アデリアは敗北したのだ。
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