アデリアの皇妃
廃墟での戦いに決着が付き安堵するヨゾラ。
そんなヨゾラを尻目にカタリナは拘束が解かれたサキに力任せに組み伏せられていた。
「痛いです! 痛いですって! 何考えていやがるんですかこの脳筋女!」
「あら、負けたのだから勝者に服従するのは当たり前のことじゃない。それに離したら逃げる気なんでしょう?」
「当たり前じゃないですか! 武装も壊された状態で戦うなんて、馬鹿かお前みたいな脳筋くらいしかいないですよ!」
「あら、もう少し力を強めていいらしいわね」
「無理! もう無理ですから!」
初対面なのに仲が良さげな二人を疑問に思いながらもヨゾラはサキに本来の目的を聞いた。
「サキちゃん、カタリナさんに質問はしなくていいの?」
「そうですよ! こんなことしたら本官の口がもっと固くなりますよ!」
「なら、緩めたら正直に質問に答えてくれるのね」
カタリナはサキを睨みつけた後、少し悩んでからし口を開いた。
「質問にもよりますが。とりあえず、正直に答えるので命の保証はしてください」
「まあ、今回はそれでいいわ」
「次はないですよ!」
サキはカタリナの拘束を少しだけ緩めてから質問を投げた。
「そうね。まず、貴女の好きな人について答えてもらうわ」
「それ、今関係あります!?」
サキの突拍子のない質問にカタリナは赤面した。
「貴女の命運を大きく分けるくらいにはあるかも知れないし、ないかもしれないわ」
「ただの気まぐれの質問で本官が想い人を言うわけないじゃないですか!」
「あら、好きな人がいるなんて、意外と貴女も乙女なのね」
「あー! また嵌めやがりましたね」
「罠なんて嵌まる方が悪いのよ」
「調子に乗ってくれやがりますね」
カタリナで遊ぶのに満足したのかサキは次の質問をした。
「そろそろ、真面目に質問をしましょうか」
「最初からそうしてください」
「貴女は何故アデリアの皇妃じゃないのかしら」
「質問の意図がよくわかりません」
「じゃあ、今のアデリアの皇妃は誰かしら」
「ヴィオラ・ノルド・アデリア様です」
「昔の名前は?」
「ヴィオラ・レアーツです」
「知らない名前ね」
「最近になってから有名になった人ですから。それまでは普通に一般人として暮らしていたはずです」
気になったことがあったのかヨゾラが口を挟んできた。
「ねえ、サキちゃん。一つ質問していい?」
「いいわよ、なんでも聞いて頂戴」
「この国の皇妃ってそんなに簡単になれるの?」
「なれるわよ」
「なれませんよ!?」
「え、どっちの言うことがホントなの?」
真逆のことを言う二人の言うことに混乱するヨゾラ。そんな様子を見たサキが説明をした。
「この国の皇妃って十大都市で一番強い人が一人ずつ選ばれるのよ。でも、皇妃には皇妃としての仕事があるから肌に合わない人は辞退するわ」
「なるほど? でも、どうやって一番強い人を決めるの?」
「まずは学園の中から各都市一人ずつ皇妃候補として選ばれて、卒業後に選ばれた人より強いと思った人が決闘を申し込んで勝てば新しい皇妃候補になることができるわ」
「候補ってことはいつちゃんとした皇妃になれるの?」
「今代の皇妃は後半年程で決まるわよ。それ以降は決闘を申し込んで勝つことができても皇妃になることはないわ。皇妃にはなりたくないけど強さだけを競いたいって人は結婚後に決闘を申し込むわね」
「え、ということはカタリナさんって決闘で負けてたりするの?」
思わぬところから言葉による攻撃を受けたカタリナは地面に顔をうずめてしまった
「そうですよ、本官は学園でこそ皇妃に選ばれることができましたが、卒業後の決闘で田舎娘なんかに負けてしまった挙句、こんな奴らにも負けてしまうどうしようもなくダメな人間ですよ」
うめきながら端正な顔を地面に擦り付けるカタリナをヨゾラは哀れみに満ちた目で見ていた。
「それで貴女はそのヴィオラと再び決闘はするのかしら? それとも、負けを認めて皇妃の座を諦めるのかしら?」
「諦めませんし、再戦はする予定だったんですよ、明日! それなのに、イタズラみたいな通報を上官に押し付けられて、こんなボロ屋敷に来てみたらこれですよ!」
そんな文句は知らないと言わんばかりにサキは話を続ける。
「あの拘束する弾丸はちゃんと当てたのかしら」
「そこまで言う必要ありますか」
「ええ、あるわよ」
サキは少しだけ口角を上げてカタリナに断言した。
「カタリナ、貴女を明日の決闘に勝たせてあげる」
「はい?」
カタリナはこの日一番のアホ面を晒した。
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