第2話 訪ねた理由

 俺、阿久根柚樹あくねゆずきを端的に表現するなら、パッとしないタイプの男子生徒だと思う。

 クラスの中心人物では断じてないし、バイトがあるから部活の類もやっていない。だから学校での交友関係もそこまで広くない。

 スペックも普通寄り。運動神経は並みで、学力は学年では上の下ぐらい。

 ルックスは……悪くないと信じたいなぁ。いや、身長は平均だし、身嗜みをちゃんとすれば雰囲気イケメンにはなれるはず。

 性格は……なんだろ? 陰キャと呼ばれるほどではないけど、割と内向的でノンアクティブ。数少ない友人たちの前でだけはっちゃけるタイプかなと。

 後は異能か。と言っても、異能専門校に通っていない時点で、大した代物ではない。便利で食いっぱぐれない類の能力だが、それだけの代物だ。

 総評するなら『The普通』。物語の主人公にありがちな、普通という名の特別でもない。本当に可もなく不可もなくな人物であるという自負がある。


「……あの、柊先輩? 何故いきなり、俺は会話拒否をされたんです?」


 ──少なくとも、初対面の女性から『話すことはねぇ。けぇんな』と追い返されるような、そんな扱いを受けられる人間ではない。……そうであってほしい。切に。

 そんなわけで、柊先輩に訊ねてみた。用事とか抜きに理由が聞きたい。


「だってキミ、私に相談しにきたのでしょう? 悪いけど、初対面の相手の相談は受けないようにしているの。際限なく人が訪ねてくるようになると、私としても困るから」


 返ってきたのは意外な理由だった。俺の印象がどうこうというわけでなく、単純に一見さんNGなタイプの人ってだけだった。

 これなら安心だ。色んな意味で安心だ。


「私の噂を聞いて、運命の人を探しに来たんでしょうけど……。ちゃんと正規の手順で、抽選に当たってから訊ねてくるように。じゃないと、色んな人からキミが責められちゃうわよ?」


 そう言って柊先輩が、教室の窓の方に視線を……うわ怖っ。先輩のクラスメートらしき数人が、すっげぇ鋭い目で俺のこと見張ってる。

 下手なこと言ったら、速攻で摘み出されるなコレ。最悪学校中に女子ネットワークで晒されるか?


「……てか、抽選なんてものやってるんですか?」

「ええ。一年生の時に、結構面倒なことになってね。見かねた親友が、そういうアプリをわざわざ作ってくれたのよ」

「まさかのアプリ」


 思ってた以上に本格的なシステムでビックリ。いや、柊先輩の能力的に、それぐらいガチでやらなきゃ大変だったんだろうけども。

 柊先輩がそれだけ人気なのは理由がある。もちろん、その容姿と性格だけでも人気になるポテンシャルは十分あるが、それだけじゃないんだ。

 なにせ柊先輩を慕う人間の大半が女子だという。容姿と性格だけじゃ、男子人気を超える理由にはならない。


「流石は最強恋占い師、ですか」

「その呼び名は勘弁してほしいのだけど……」


 柊先輩が人気の理由。それは先輩の身に宿る異能の力が大きい。

 俺も詳細は知らないが、先輩は『運命の赤い糸』を一時的に具現化できるのだとか。

 この力を使うことで、相性最高の恋人を見つけることができる。だから女子から、それどころか女性教師からも絶大な支持を得ているのだ。


「ともかく。そんなわけだから、悪いけど帰ってくれない? というか、私ももう帰るから」


 予約必須の超絶人気占い師であるからこそ、予約無しで突然やってきた客を相手にするわけにはいかない。

 柊先輩の主張はそういうもので、極めてまっとうな話である。

 ……ただまあ、残念なことに俺には当てはまらないと言いますか。


「ここまで訊いておいてアレなんですが、俺は別に柊先輩に占ってもらいにきたわけじゃなくてですね」

「……そうなの? なら他に何か用があるってこと?」

「はい。ということでコレを」


 そう言ってポケットから取り出した物を、ポカンとした表情を浮かべる柊先輩に渡す。


「生徒手帳……もしかして私の?」

「そうですね。六限の教室移動の時に拾ったんですよ。で、申し訳ないですがチョロっと中身拝見しまして、柊先輩の物だってことが分かったんです」

「落としてたんだ。それをわざわざ届けに……」


 そう。俺が柊先輩を訪ねた理由は恋占いなどではなく、単純な失せ物配達なのだ。

 別に職員室の方に届けて終わりにしても良かったのだけど、柊先輩のクラスって職員室に行く途中で通るんだわ。

 だからこうして直接顔を出した。まだ帰ってなければ、そのまま手渡しすれば済むからってことで。


「えーと、その、ゴメンなさいね。私、変な勘違いしてしまったようね」


 割とちゃんとした用事、それも俺の親切の類だと判明したことで、柊先輩が深々と頭を下げて謝罪してきた。

 遠回しにマナー違反者みたいな扱いをしてしまったからな。そら気まずいよなと。……なんだったら、こっちを見張っていたクラスメートらしき先輩方も揃って目を逸らしているし。


「本当にありがとう。わざわざ届けに来てくれるなんて、キミは親切なのね」

「あー、いや。本当についでというか。俺、クラスが二の三なんで。職員室に行こうとすると通るんですよ」

「それでもよ。人によっては見て見ぬふりとかするだろうし。……そうだ。キミ、名前は?」

「え、阿久根です。阿久根柚樹と申します」


 ここで名前を訊く……え、何で? 普通にありがとうって言ってサヨナラじゃないの?


「阿久根君ね。キミが構わないならだけど、特別に占ってあげましょうか? 変な言い掛かりをつけちゃったし、そのお詫びということで」

「……へ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る