四限目

 四限目は社会の授業です。

 今日はアジアの地理について学ぶようです。


 授業が始まってすぐ、ふくよかな女子生徒が先生よりも先に声をあげました。


「授業始まった」


 猫背君が笑顔で親指を立てました。

 女子生徒はそれに気分をよくしたのか、連続でひとり言をブツブツと声に出していきます。


「今日は地理らしい」

「アジアについてだって」

「あ、教科書忘れた」

「おなかいたなぁ」

「背中かゆい」


 猫背君がその都度つどサムズアップしていますが、先生や複数の生徒たちがその女子生徒に対して手の平を向けました。


 それ以降も女子生徒はひとり言を吐き出し続けましたが、授業はとどこおりなく進みました。



「日本は歴史的戦犯国家!」


 誰かが叫びました。短髪でり目の男子生徒です。

 皆の視線が一気に集まりましたが、皆それを聞かなかったことにして意識を授業に戻しました。


「日本は相撲すもうの起源を主張するな!」


 先ほどのり目男子が再び叫びました。

 複数の反論の声があがります。


「いや、相撲すもうは日本のスポーツだろ」

「おまえどこの国の人? 勝手に日本の国技の起源を主張するつもり?」

「国に帰れ!」


 教室中から反感を買っても、そのり目男子は止まりません。

 連続で叫びます。


「日本は世界一のエネルギー浪費ろうひ国家だ!」

「日本は戦争を推奨すいしょうする侵略国家だ!」

「政権交代しろ!」


 ちらほらと彼に手の平を向ける者が現れました。

 一方で、スマートフォンを取り出してどこかに電話をかける人が何人か現れました。


 数分後、おごそかに扉が開くと、教室に校長先生が入ってきました。

 校長先生はり目男子の前に行き、彼に告げます。


「あなたは退学です」


 校長先生が連れてきた警備員が彼を強制的に教室から連れ出し、学校の敷地外しきちがいへと放り出しました。


 授業は何事もなかったかのように、静かに再開されました。


 あのり目男子は校門前で人目もはばからず、駄々だだっ子のように地団駄じだんだを踏んでいます。

 しかし彼のことはもう誰も見ていません。

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