三限目

 三限目は理科の授業です。


 場所は理科室。

 今日は水の電気分解の実験をおこなうようです。


 背の低い気弱そうな男子生徒が準備に手間取っていると、同じ班の男子生徒から大きな声が飛びました。


「どんくさいなぁ! さっさとしろよ、ノロマがぁ!」


 ふっくら顔の男子生徒が、歯並びの悪い口で罵声ばせいを浴びせたのでした。

 さすがの猫背君もサムズアップをためらっています。


 その大声は教室中の生徒の注目を集めました。

 そして、その口の悪い生徒に向かって次々と声をあげる生徒が出てきました。


「そんなにキツく言う必要なくない? 手伝うっていう発想はないの?」

「誰だって苦手なものはある。それを認められる人間になれよ」

「おまえの班が遅いんだから、おまえもノロマだろ」

「口がわりぃなぁ。育ちが出てんぞ」

「おまえがやれ!」

「こんな性格が悪い奴と一緒の班になった人かわいそう」


 猫背君が水を得た魚のように、何度もサムズアップしています。


 高身長で髪を逆立てた男子生徒が突然立ち上がり、教室を出てけていきました。

 しばらくすると、校内放送が始まりました。


「『どんくさいなぁ! さっさとしろよ、ノロマがぁ!』と彼は言いました。手をこまねいている人に対して罵声ばせいを浴びせるのではなく、手を差し伸べてやれる人になりたいものですね」


 その放送を聞いた生徒たちは親指を立てながら、次々とその放送内容を復唱していきます。

 その中にはもちろん、猫背君もいました。


 教室に戻ってきた高身長の生徒は、自分の放送を復唱する生徒たち一人ひとりに親指を立てていきました。


 先ほど暴言を吐いた生徒は無言で教室を出ていきました。

 さらには学校を出ていき、もう二度と登校することはありませんでした。

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