二限目

 二限目。

 本来は理科の時間ですが、入れ替わって国語の授業がおこなわれます。


「今日は《走れメロス》を学習します」


 国語の先生がそう言うと、生徒たちが親指を立てた拳を頭上にかかげます。

 復唱する生徒もちらほら散見されます。


「今日は、《走れメロス》を学習します」

「今日は、《走れメロス》を学習します」


 猫背の男子生徒が、先生にも復唱する生徒にも一人ひとりに対して親指を立てています。


 そんな中、制服を着くずして赤いシャツがはみ出した男子生徒が立ち上がりました。

 切れ長の目をさらに細め、声高らかにわめきはじめました。


ほとばしれエロス! ほとばしれエロス!」


 教室はシーンとしました。猫背の生徒が親指を立てた以外には誰も反応しません。

 いや、先生が拒絶きょぜつの意思を示すかのように手の平を赤シャツの生徒に向けました。

 ほかの生徒たちも次々に手の平を赤シャツに向けます。


 それ以降、彼がいくら叫んでも教室中がほぼ無反応でした。

 その都度つどサムズアップをする猫背のはしたない生徒一人を除いて、皆が無視を決め込んでいます。

 まるで叫ぶ生徒など存在しないかのように、彼がどんなに大声で叫んでも授業はとどこおりなく進むのでした。

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