一限目

 一限目は数学の授業です。


 数学の先生が教壇きょうだんに立ち、黒板に円と三角形を組み合わせた図形を描きました。

 その中に数値と記号が記されます。


 先生が生徒の方を向いて問いかけます。


「この角度エックスを求めなさい」


 数人の生徒が手を高く挙げています。

 その手はにぎられ、親指だけが立てられています。

 そして、その中の一人が自発的に立ち上がりました。


「45度です」


 教室はシーンとしました。

 ただ、一人だけ親指を立てる者がいました。分厚い円形の黒縁眼鏡くろぶちめがねをかけた猫背の男子生徒です。

 しかし、彼以外は無反応でした。


「違います」


 先生の返答に、先ほど答えた生徒は肩を落として座りました。


 猫背の生徒が今度は先生に向けてサムズアップしました。

 彼はクラス中の視線を集めましたが、かといって何が起こるわけでもありません。


 今度は別の生徒が立ち上がって回答します。


「30度です」


 猫背の生徒が答えた生徒にサムズアップします。


「違います」


 猫背の生徒が先生にサムズアップします。

 彼は節操せっそうがないですね。


 また別の生徒が立ち上がって回答します。


「35度です」


 また猫背の生徒が生徒にサムズアップします。

 しかし、今度は彼だけではありません。何人もの生徒がサムズアップしています。

 もちろん、まったくの無反応な生徒もいます。


「正解です」


 教室中で親指が立ちました。中には「35度です」から「正解です」までの流れを復唱する生徒も現れました。

 猫背の生徒は、その復唱にすら親指を立てました。

 彼は節操せっそうがないです。

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