なくもない世界

令和の凡夫

朝礼

 とある中学校、とある教室でのことです。


 朝礼にて、先生が教卓に置いた手帳に視線を落としながら連絡事項を伝えます。


「本日の二限目の理科と三限目の国語の授業が入れ替えになります」


 先生が一つ目の連絡事項を述べると、生徒たちが一斉いっせいさわぎだしました。

 さわぐというか、先生の連絡をそっくりそのまま復唱しています。


「本日の二限目の理科と三限目の国語の授業が入れ替えになります」

「本日の二限目の理科と三限目の国語の授業が入れ替えになります」

「本日の二限目の理科と三限目の国語の授業が入れ替えになります」


 生徒たちは皆、右手を高くかかげて親指を立てています。

 要するにサムズアップです。


 そんな中、高身長で髪を逆立てた男子生徒が、ひときわ大きな声で復唱しました。


「本日の二限目の理科と三限目の国語の授業が入れ替えになります」


 先生に注目していた生徒たちは、今度はその高身長の男子生徒に注目しだしました。

 再び生徒たちのサムズアップと復唱が巻き起こります。

 先ほど復唱を終えた生徒の中には改めて復唱する者も現れました。

 やはり親指を立てています。


「本日の二限目の理科と三限目の国語の授業が入れ替えになります」

「本日の二限目の理科と三限目の国語の授業が入れ替えになります」


 復唱はしばらく続きました。

 もちろん、中には復唱しない者もいました。


 少し間を置くと、シーンと静かになりました。

 それを見計らって、先生が二つ目の連絡事項を伝えます。


「来週、健康診断が実施されます」


 すると生徒たちは先ほどと同様に親指をかかげて復唱を開始します。


「来週、健康診断が実施されます」

「来週、健康診断が実施されます」

「来週、健康診断が実施されます」


 そんな中、先ほどと同じく高身長で髪を逆立てた男子が大声で復唱しました。


「来週、健康診断が実施されます」


 先生に注目していた生徒たちは、やはりその高身長の男子生徒に注目を切り替えました。

 再び生徒たちのサムズアップと復唱が巻き起こります。


「来週、健康診断が実施されます」

「来週、健康診断が実施されます」


 またしても復唱はしばらく続きました。

 もちろん、復唱しない者もいます。先ほどと同様に復唱しない者、先ほどは復唱したけど今度は復唱しない者、親指は立てるけど復唱しない者、様々な生徒がいました。


 これは今日に限ったことではありません。彼らはいつもそのような行動を取っているのです。

 騒々しいですね。

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