4話 トレジャーハンターA&A
#1 花のオアシスにて
【トレジャーハンターA&A】
【#1 花のオアシスにて】
朝。
アクセルリスはカーテンの隙間から入る光で目覚める。
「……んあ」
今日はオフ。だがアクセルリスは邪悪魔女になって以降、休みでも早寝早起きする習慣を心掛けていた。
むくり、起き上がり伸びをする。
「うー……」
パジャマかつ寝癖頭のまま部屋を出た。
階段を降りながら、もごもごと口を動かす。
「おはよほんざいますおおししょうさま」
放たれたのは支離滅裂な言葉。まだ半ば夢の中なのだろうか。
「アクセルリス! おっはよ!」
そんなアクセルリスの耳に入ってきたのはアイヤツバスのものでは無い声。しかし聞き慣れている声でもある。
「んぇ…………アディスハハ……!?」
「んひひ、正解!」
銀、一瞬にして完全覚醒。
「おはよう。アディスハハが来てるわよ」
「おじゃましてまっす!」
「あ、あわ、あわわ。わーっ!」
猛スピードで今下ってきた階段を駆け上り、部屋に駆け込む。
それからわずか数分、アクセルリスはいつもの魔装束にいつもの髪型で二人の前に現れた。
「あ、帰ってきた」
「お、おはようございますお師匠サマ、そんでアディスハハ」
息を切らしながらアクセルリスは言った。
「あはは。パジャマのアクセルリスもかわいかったよ!」
「やめてって恥ずかしい……」
「あらあら、朝から絶好調ね我が弟子は」
「すいません、焦ったもので……」
◆
朝食を食べながらアクセルリスは尋ねる。
「そんで、何しに?」
「ティータイムのお誘い。また面白そうな茶葉が新しく手に入ったから試してみたくって」
「『面白そうな』ってところが引っ掛かるけど」
「細かいこと気にしちゃ人生楽しくないよ!」
「はぁ。それ今あるの?」
「ううん、私の工房に置いてある。だからティータイム・イン・アディスハハ工房ってワケね!」
「はぁ」
アディスハハのこのセンスだけは分からない。
「どう? 招待されちゃう?」
「もちろん。私は行くよ。お師匠サマは?」
「私は遠慮しておくわ。二人の甘い時間を邪魔しちゃ悪いしね」
「甘い……」
「時間……」
分かってなさげな二人。
「もう、鈍感ね。野暮ったいから言いたくないんだけど……」
「?」
「?」
「デート、ってことでしょ?」
「!」
「!」
二人の顔が紅潮し、下を向いて言葉を詰まらせる。
「っそれは残念ですっ、またの機会に!」
「っそれじゃ、行ってきます! アディスハハ、行こう!」
「う、うん!」
二人は手を繋ぎ足早に出て行った。
「うふふ……若いって、いいわね」
小さくなる二つの後ろ姿を見送りながらアイヤツバスは微笑んだ。
「……あら?」
彼女が息を吐き、ふと見下ろすと──テーブルの影に赤い光が灯っていた。
〈どうよ。案外俺、気が利くだろ?〉
トガネである。
彼は主に気を遣って留守番することを選んだのだ。
「ええ。我ながら誇らしいわ」
〈へへん! 創造主に褒められちまった〉
「じゃあ私も出かけるわね」
〈……へ?〉
「一人でお留守番がんばってね、いとしい我が子」
〈ま、待って!?〉
必死に呼び止めるトガネ。だが彼の創造主は笑ってそのまま出て行った。
トガネにはその姿を見送ることしかできなかった。
〈一人にしないでー! さみしいよー!〉
哀れな使い魔の声が寂しくこだました。
◆
魔列車に揺られ10分、降車してから更に歩いて10分。
《ブワーフワ地方》は《フルフワ草原地帯》──越えた先にそれはある。
「……」
洞窟を歩いている二人。
アクセルリスがアディスハハの工房に訪れたことは実は一度もない。
だからこそ、こんなところを歩いているのがアクセルリスにとって不思議であった。
魔女の工房は、基本的にその魔女が得意とする魔法に関連した地に構えるというのがセオリーだ。
アクセルリスのような金属/鉱石系の魔女ならばともかく、アディスハハのような植物系の魔女が洞窟に工房を建てるなど常識では考えられない。
「アディスハハ、ホントにここで合ってるの?」
「だいじょーぶだいじょーぶ! もうちょっとだよ!」
「大丈夫かなぁ」
訝しみながらもアディスハハに従い歩き続けるアクセルリス。
すると、光が差し込むのが見えた。
「あそこが……?」
「そう! さあ、あとちょっとだよ!」
一歩、また一歩と光に近づく。
そして。光に。
「────!」
《華の空洞》。
天井が崩落し、光が差し込むに広い空間。
そこには様々な草花が爛爛と生い茂る。味気なかった洞窟の壁とは対照的だった。
「す……すごい」
突如目に飛び込んできた美しい光と緑にアクセルリスは息を飲む。
「でしょでしょすごいでしょ! 洞窟・イン・ガーデンだよ!」
圧巻の光景にアクセルリスは暫く立ち止まり感慨に浸っていた。
そんな空洞の奥に小屋が一つ。これがアディスハハの工房だ。
「おじゃましますー」
「どうぞどうぞ上がってねー」
小屋の中にも草花の香りは届き、来客の心を安らげる。
「んじゃじゃ早速お茶入れてくるから、座って待っててね!」
「うん、わかった」
腰を下ろしたアクセルリスは周りを見てみる。
まず目につくのは花瓶。とにかく数が多く、あらゆるところに花が生けられている。
ツタが巻き付いている壁も目立つ。長いこと建っているのだろうか。
総じて、蕾の魔女の工房らしい豊かな内装であった。
「おまたせ~」
程なくしてアディスハは戻ってきた。
「それが新しいやつ?」
「うんっ! 《ドクヤダミ》を使った茶葉」
「明らかにヤバそうな名前なんだけどそれは」
「花言葉は『知識』だよ」
「聞いてない聞いてない」
「死亡事例は無いから大丈夫」
「……」
釈然としなかったが、あのアディスハハが言うんなら大丈夫なんだろう。アクセルリスは自分にそう言い聞かせた。こいつ薬学部門長だぞ。
「飲まないの?」
「ちょっと……冷ましてから」
「ふぅん。猫舌なんだね」
「アディスハハこそ、飲まないの?」
「私はその、あー、お茶菓子を持ってこなきゃ!」
「待ちなさい」
「……」
「……」
「せーの、で飲もうか……」
「そうだね……」
「「せーの」」
声を揃え、ぐいっとドクヤダミ茶を流し込む。
「あー……」
「んー……」
頷き合う。
二人とも絶妙な表情だ。
「おいしい、おいしいんだけど……」
「なんていうか……」
「「闇」」
静寂の後、二人は笑い出した。
「あっははははは! 闇って!」
「だ、だって闇だもん」
「はっはははははは、はぁ」
「砂糖とってくるね」
「私にもお願い」
砂糖を入れたら普通に美味しくなったとさ。
◆
それから。
茶菓子を食べながら仕事とは関係のない雑談をだらだら続けていた。
惰性ではあるが安らかな、二人の甘い時間はゆっくりと流れていった。
「……それで?」
そんな中、アクセルリスが唐突に切り込んだ。
「えっ? な、なにが?」
「アディスハハの事くらいわかってるよ。何か秘密の話があったからここに呼んだんでしょ?」
「……お見通しか、たはは」
観念したように笑うアディスハハ。
「この近くにね、《まどろみの森》っていうのがある」
「ほうほう」
「その森には……隠された『お宝』が存在するとか」
「……続けて」
アクセルリスの銀の眼がギラリと光った。興味津々だ。
「このことを魔女機関に正式に申請したらどうなると思う?」
「信憑性にもよるけど、探すのであれば
「そうだね。でも大事なのはそこじゃない」
「……というと」
「魔女機関に申請した時点でこの案件は機関の任務として扱われる。するとどうなるかな?」
「……見つかった宝のほとんどが上納されるね」
「その通り」
「……ということは」
「もう分かったでしょ? 私たちだけで探しに行くんだよ、お宝を」
「……のった」
「そう言うと信じてたよ」
二人はニヤリと笑った。
【続く】
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