#? 夜に踊るものたち
【#4 夜に踊るものたち】
クリファトレシカ99階、邪悪魔女専用会議室──通称《夜会室》。
最低限の灯りだけが灯されているそこには今、三人の魔女がいた──全員、邪悪魔女であった。
6iカイトラ、7iシャーカッハ、8iケムダフ。
三者とも口を閉ざし、薄暗い中の静寂が怪しい空気を感じさせる。
「……今日は、私が」
沈黙を破ったのはケムダフ。二人の眼が彼女の方を向く。
「これ、例の」
取り出したのは白い箱。そこまで大きくはない。
「……アレね」
「Shhhhhhhhh……」
「開けるよ」
ゆっくりと、貼られたテープを剥がす。いよいよ、中身が露わになる。
「じゃーん!今噂の《クサビベリーのタルト》でーっす!!」
「おお……!連日大行列で売り切れ必至の奴じゃない!」
「Tarrrrrrrrrrt!」
シャーカッハは眼を輝かせながらそれを見つめ、カイトラは触手をバシンバシンと打ち付けて喜びを表現する。
「へっへーん!すごいでしょ!苦労したんだよー?」
そう言いながらも、帽子側の口から涎が垂れていることに本人は気づいていない。
これはいったいなんなのか?
この3人は通称 《パーティーメイカーズ》。
邪悪魔女の夜会の際に提供される料理を決定するという役目を持つ。
カイトラが主菜を、シャーカッハが副菜を、そしてケムダフがデザートを担当している。
財政部門担当のカイトラの経済的な観点、医療部門担当であるシャーカッハが計算した栄養バランス、防衛部門担当であり魔都に詳しいケムダフの店舗リサーチという完璧な三位一体が成立している、魔女機関きっての名チームである。
今日はケムダフが候補を持ち寄ったようだ。
「嗚呼、なんと美味なこと」
「うん……我ながらいい選択だと思うよ!」
「Delllllll!」
「ええ、確かにクサビベリーの新触感が癖になるわね」
「クサビベリーってちょっと前まで加工が難しくて食材として使われてなかったんだよね」
「そうそう、それをあいつが簡単な加工方法を発見して、一気に需要が増えたのよね」
「AIYYYYYYyat」
「アイヤツバス様様だねー」
「suuuuuuuubus」
「……それで、どうだった?」
「いいと思うわ。是非ともこれを夜会で出しましょう」
「Cyuyuyuyu」
「うん、そうだね!何とかして調達するよ!」
「よろしく頼むわね。また食べたいから」
「Lyyyyyyyyyyy!」
と、始終和気藹々とした雰囲気のまま試食を終え、ひとまず一段落だ。
しかし。
「……さて」
パーティーメイカーズの本当の会合はここから始まる。
「どう?」
「こっちはどうにも。尻尾見せてくれないね」
「……Ahhg」
「ん?カイトラ?」
「──」
耐えず蠢いていたカイトラの触手が動きを止める。
それと同時に、触手で形作られたカイトラの体に隙間が生まれる。
その中から見えるのは、『カイトラ』本人の眼だ。黄色いそれは、鋭く光る。
「──掴んだ、少しだけだが」
「!」
「ほんと?」
カイトラは頷き、触手を打ち合わせる。
その音に呼応して、彼女の背後に突如姿を現した者。白い高機動スーツに身を包み、顔に装備した面には逆さにした魔女機関のエンブレムが描かれている。
魔女機関暗部、《
「これを」
彼女は手に入れた情報を三者に提供する。
渡された情報を見たシャーカッハとケムダフは、目を細めた。
「……なるほど、やっぱりこうなんだ」
「この情報、信用に値するものなの?」
「それはわたしが保証する」
「カイトラがそこまで言うってことは、間違いはなさそうねぇ」
カイトラはシャーカッハの目を見つめたまま強く頷く。
「きみ、下がって」
「は」
カイトラの命令に忠実に、生命樹は一瞬の内に姿を消す。
「やっとここまで来たね」
「ええ。この情報があれば総督も動くかもしれないわ」
「一応、調査は続けさせる。確固たる証拠を用意したい」
「さすがカイトラ、用心深いね」
「貴女のそういうトコ、好きよ?」
「……恥ずかしい」
そう言うとカイトラは隙間を閉じ、触手の集合体へと戻る。赤面を隠すためだ。
「あら、照れ屋さんねぇ」
「Shyyy」
「ま。何はともあれ、あと一歩ってところだね」
「ええ、そうね。私たちの活動も実が結ばれるのも時間の問題かしら」
「……犠牲になった人たちの為にも」
「あの子……アクセルリスの為にも」
「
最も凶悪で。
最も利己的で。
最も多くの命を奪った。
史上最悪の外道魔女。
《戦火の魔女》を。
【邪悪なる会合 おわり】
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