#4 残酷の証明

【#4 残酷の証明】



 後日。アクセルリスはバシカルから呼び出しを受けた。


「ただいま参りました、なんでしょうか?」

「よく来てくれた」


 バシカルはその黒い瞳でアクセルリスを強く見据える。何か怒られるのだろうかとアクセルリスはヒヤヒヤしている。


「一つ提案がある」

「はい」


 お叱りではないようだ。安堵。


「単刀直入に。アクセルリスよ、《残酷魔女マジア・ヴィエンド》にならないか」

「え……? 残酷魔女?」

 《残酷魔女マジア・ヴィエンド》。聞きなれない言葉だ。

「えっと、何ですかそれ?」

「順序が逆だったか。説明しよう」


 バシカルは静かに、しかしどこか熱を帯びて言葉を紡いでいく。


「《残酷魔女》。それは我々魔女機関に存在する役職の一つ。人員はそれほど多くは無いため、特別顧問である私が人材を探しているのだが、いかんせん素質がある者は少ない」

「それで、どんなことをするんですか」

「魔女の処分だ」

「え?」

「処分だ」


 淡々と、バシカルは語る。


「処分って……あの、やっぱり、そういう」

「おおよそ想像通りだ」

「なる、ほど……」


 アクセルリスの気が滅入る。やはりそういう専門職もあるのか。しかし、それは良いとして。


「私がその……素質があったんですか?」

「そうだ」

「それってどういう」

「簡単に言ってしまえば『無慈悲さ』だ。処分対象に情けは不要だからな」

「無慈悲さって……私が?」

「先日のソイルシールとの戦闘。私とアディスハハはしっかりと見ていた」


 証明は其処に在る。


「ソイルシールの命乞いを、全く聞き入れずにトドメを刺しただろう」

「あ」



 記憶がフラッシュバックする。

 確かにあの時、アクセルリスは容赦なく息の根を止めた。

 しかしそれはそうしなければまた窮地に追い込まれてしまうからであって、無慈悲さがアクセルリスの中にあったわけでは──


 いや。


 いや待て。

 もしかして。

 ──私は今も……なのか? 


 幼い頃、きょうだいらとの思い出の中。

《あの日》からの数日間。

 師、アイヤツバスとの生活の中。

 魔女となってからの日々。


 その中で隠し、圧し、殺してきた感覚。

 今もなお、独善が息巻いているのか。

 生き、育ち、花咲き──万民の憧れたる邪悪魔女になっても、消えずに燃えているのか。


 畢竟、そうだったのか。私は──《残酷アグゼリュス》だったのか。


 なら、どこまでもやる。



「アクセルリス?」

「……分かりました」


 銀色の決意を胸に、アクセルリスは顔を上げる。


「やります。残酷魔女、やらせて下さい」

「いい返事だ。残酷魔女の隊長に紹介しておく」

「ありがとうございます!」





 残酷────それが己の裡に

 それに気づいたアクセルリスの心は淀んではいなかった。むしろ逆であった。

 光明だ。アクセルリスには光明が見えていた。進むべき道を。


 これからアクセルリスは残酷魔女の一員に加わり、仕事をこなしていくだろう。

 邪悪魔女、そして残酷魔女として、アクセルリスは様々な出来事を経験し、様々な者と出会うだろう。

 それは今は記さない。まだその時では無いからだ。

 ただ、これだけは残しておこう。


 彼女の物語は、まだ終わらない。



【残酷のアクセルリス おわり】

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