§4

「……もっと近くに来い。距離があると、どうしても声が大きくなる」

「いいのかい? このままアンタを押し倒す事だって……出来ないね、うん。わかってるよ」

 薄ら笑いを浮かべたまま、セリアは銃をチラつかせた。無論、彼女は発砲しようだなどとは考えていない。相手の心理を巧みに利用して、護身しているだけなのだ。

「物盗り?」

「あぁ、そうだ」

「ま……ここら一帯じゃ、忍び込んでお宝が出てきそうなのは、この屋敷ぐらいなもんだろうからな。いい狙いだよ」

 冷静を装いながら、彼が忍び込んだのが自分の部屋で本当に良かったと、セリアは内心で思っていた。なにしろ、この屋敷の住人の8割は女性、しかもみんな無防備。仮に自分以外の部屋が狙われたら、その部屋の者が人質に取られ、金品の強奪と彼の逃亡は容易に成功していたであろう。

「朝になったら、突き出すのか?」

「……と、当然だろ」

 取り敢えずと云った感じでそう答えたものの、セリアは本当にそうするべきか、迷っていた。時刻は午前2時を過ぎたあたり。日が昇るまでにはまだ少し間があるし、何より眠い。臨戦態勢で降りて来た男を同じ部屋に放置するのは流石に躊躇われたが、睡魔には勝てない。そこで彼女は、打開策として一つ提案した。

「この屋敷、薄着でいても寒くは無い筈だよね……逃げられちゃ困るから、パンツ一枚になってくれない?」

「いぃ!?」

「で、脱いだものを、アタシが抱えて眠るって訳。コレなら逃げられないでしょ?」

「……本気?」

「勿論。パンツ一枚が嫌なら、アタシのネグリジェを貸してもいいけど」

「……パンツ一丁でいい」

 完全に脱力した男が、着衣を取ってセリアに渡した。と言っても、夜間迷彩の黒い繋ぎ一枚だけしか着けていなかったので、それを取ったらパンツ一枚の情けない姿を晒すだけだった。

「……アタシも見られたんだから、お互い様だよね」

「あんな貧相な胸、見たうちに……わ、悪かった、失言だった!!」

 ともあれ、彼はパンツ一枚に剥かれ、脱出する手段を全て奪われて、ソファの裏に身を隠す格好で横になり、朝を待つことになった。一方、セリアは……緊張はして居たが、やはり15の子供。睡魔には勝てず、そのまま寝息を立てていた。

「ハァ……初めて泥棒に入った屋敷で、このザマとはな。やっぱ俺、盗っ人には向いてなかったのかも知れないなぁ」

 彼は、眠っているセリアの腕から着衣を奪い、それを着て脱出する事も勿論考えた。しかし、それは不可能だった。何故なら、セリアがネグリジェの内側に彼の着衣を仕舞い込んだ格好で眠っていたからだ。これでは手も足も出ない。

「商売道具は取り上げられてるし、こんな娘を裸に剥く趣味も……仕方ねぇ、このまま大人しくお縄に付くとするか」

 盗みまで働こうとした男にしては妙に潔い決断であったが、それには訳があった。ともあれ、気が付けばドタバタとした夜は更けて、朝日が昇る時間になっていた。

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