第7話「ネトラレンジャーズ」

花音の顔を見ないように息をひそめて気配を消しながら送った学校の放課後。コンコンとドアをノックし部室に如月と一緒にお邪魔する。


「失礼します。」




「先輩、沢村くんを連れてきました。」




手慣れている様子でドアを開けて、目の前の席に座っている先輩らしき人物に如月が声を掛けてくれる。




「初めまして、君が例の人だね?」






そう言い、薄ら笑みを浮かべながらそこにいたのは、美少年と形容、ではなく本当にそのまま美少年で理想のショタ?いや、顔立ちは幼いが物腰が柔らかそうな印象を受けるが、そこに落ち着きが感じられて、なんだが幼い少年に精神だけ大人みたいな、そんな印象を受けそうな人物が前の席に座っていた。まぁなんにせよ、あの人が部長であるのは確信に近い感じで解る。




「初めまして、高校二年の沢村啓介と言います。如月くんと早乙女先輩の紹介でここに入部したくて来ました」




「話は聞いているよ、沢村啓介君。僕は三年の二条明だ、取り合えずそこに立っているのもなんだから、どうぞ座ってくれ」




ジェスチャーを交えて椅子へ座るように促され、言われるままに座った。




「まず聞きたいことがあるんですけどいいですか?」




「どうぞ」




「ここって何の部活なんですか?筋トレ部って書いてあるんですけど、実態は違うみたいだし。」




「いや?ちゃんと名前に即した活動はしているよ。そにいる如月君も、着やせするタイプなだけで結構ガッチリしていると思うよ?」




確かに、先日俺が海に入っていた時にタックルしてきた如月は、見た目からは分かりずらいが、確かにがっしりしていた。




当の本人は力ありますよ!というポーズでむん!とドヤ顔で立っていた。




「じゃあ、普通に筋トレする部活なんですね。」




「正確には筋トレも、だけどね。」




「?」




「そもそも何故君はこのタイミングでこの部活に誘われたか解るかい?」




「多分ですけど、この眼が関係してますよね?」




「……そうだが、もっと重要な事が関係しているあるんだ。まずはこの目の変化について説明するよ」




そう言って、先輩は自分のコンタクトを外す。そこにはトパーズを連想させる黄金色に輝く綺麗な瞳があった。




「端的に話すと、目の色に変化が起きる原因は、失恋だったり、あるいは女性を誰か他の男性に取られた時の強い感情の揺らぎによって起きる脳の変化のせいだね。君らで言う所の脳・が・破・壊・さ・れ・る・というヤツかな?」




「え、それってどういう……え?」




「といってもそんな事もごく稀なんだけどね。そして、目の色に変化が起きたものは例外なく異能が開花する。」


「異能?」




「ああ、異能が開花、あるいは完全に開花する前、君はなにか違和感を感じなかったのかい?」




「……確かに、自分の頭の中で妙な電流が流れているような感じがして、その後に何故か急に閃きが起きた時みたいな感覚がありました。」




そうだ、俺はあの時急に何故か確信に近い形で花音たちの居場所が分かっていた。


あれは確かに何故分かったのかは自分でも不思議だった。




「そう、まぁ異能にも人によってそれぞれ違うみたいだけど。私たちはその異能者の集まりって事だよ。そして、お互い恋愛において失敗した者同士という事になる。だからここの裏の名前が失恋部なんていう名前なんだ。」




そこまで説明で何となく話が見えてきた。




「同じ仲間を集めて保護しているんですか?」




俺がそう答えると可愛い見た目をしている部長は驚いた顔をして、瞬きを何度か大きく繰り返した。




「……よく分かったね、そうだ。我々はこの異能を同じ仲間以外に知られてはいけない。知られてしまったら、悪い大人に利用されかねないからね。」




そこまで大げさなものなんだろうか?




「別にそこまでしなくたっても。そんな物騒な世の中じゃないんだし」




「それが意外に。悪ーい大人がたくさんいて、物騒な世の中なんだよね。だから僕らは互いに協力が必要で、守っていかないといけない」




そこで部長は明るい口調ながらも、決して冗談で言ってはいないんだという凄みを見せて語り掛ける。


何もかも見透かされるような目をして俺の事をじっと見つめてきていた。




ちょっと緊張で手に汗が湿ってきた。




「といっても、ほかの人に目立たないように過ごそうって話だからそこまで重く受け止めなくていいよ」




いや、重く受け止めますよ………




「そして、僕たちの活動の目的はもう一つある。」






まだあるんかい




「なんですか?」




「メンタルケアだよ。君、平気そうに見えて心の傷癒えてないだろ」




内心ぎくっとなってしまい。一瞬体が硬直してしまう。




「……そうみえますか?」




「いや、一見はぱっと見ると普通だよ?だけど君みたいに平気そうに振舞ってる人物に少々心当たりがあってね。君、それに少し似てたんだよ?」




それだけで分かるもんなのか?


まあそれはひとまず置いておいて。




「じゃあ、話し戻しますけど、メンタルケアって具体的に何するんですか?」




「筋トレ」




………マジで言ってる?確かにここは筋トレ部だが。でも、失恋部とも言うし………


まさかそんな脳筋みたいな返答がくるとは思わなんだ。


だが、会長の顔は終始真面目だ。




「実際は先輩の家に行ってから施設を借りてトレーニングするんだよ?それに筋トレってね、意外と達成感あって気持ちが良くなるよ?」


如月が横から補足を入れる。




お前も筋肉愛好会の一員だったのか……




「いやいやいやまてまてまてまて確かにさっき部活に即した活動してるって言ってましたけども、メンタルケアって言ったらほらあれじゃないですか、なんかカウンセリング?みたいな失恋した内容とか親身に聞いたりして心の傷を分かち合ったりするもんじゃないんですか?なんで肉体の方に走っちゃうんですか!」




「最初の方はそうしてたんだけどね、でも精神より肉体からの方が立ち直りが早いって気づいてしまったんだ。」




「どうして気づいてしまったんですか…………」




愕然としていると横から如月が口を開いてニコニコと照れながら話をする。




「えへへ、実は僕、恋人に振られてしまったあとに部長に拾われたんだけど、最初は話を聞いてもらったりして相談に乗ってくれたんだけど、だんだん筋トレにも夢中になっちゃって、気付けば精神が元気になっていったんだよね」




お前がそのサンプル数1だったのか如月。




「だが、ちゃんと聞いてほしいことがあればちゃんと聞くよ。さすがの筋トレだけでは解決しない傷もあるだろうからね」




当たり前だよ。


どんだけ筋肉に信頼置いているんですか。




ああ、もう




「筋トレはいいものだよ、身に着けた筋肉は嘘をつかない、なにより自信になる」




こうなったらもうヤケだ




「……わかりました、じゃあその筋トレによるメンタルケア、俺にもお願いします。」




自分でもなに言ってるんだコイツと思うが、半ばやけくそ気味にその方針に乗った。




「ああ、共に筋肉をつけていこう。沢村君」


部長が満足気味に頷いてこちらの返事を快く受けた。




入った部活はどうやら少しヤバい奴らの集まりみたいだ。




だけどこのまま、終わった恋をずるずると引きずるよりはずっといい。




なかなか変な部活だけど、退屈はしなさそうだ。

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