第6話「変化」

さっきまでの記憶がない。




今は、自分の家にいる。




ただあの時は、ただ家に帰ろうと。それだけを思ってあの場を去って歩いていた気がする。


というかなんかさっきから瞳が異様に熱い。なんなんだコレ。


余裕なくて周り見えてなかったけど歩いている途中もなんか人にやたら見られていた気がする……


気になって洗面所に行き鏡で確認してみると。




「……………なんだコレ……」




眼の色が宝石のルビーを連想させるような赤い瞳に変化していた。


充血……ではない、気のせいか目が少し光っているような気がする。




「やっべぇコレ……」




ではない、これでは学校に目立って行けないと冷静に考える。


いつもなら「なにコレ!?かっけぇ!!」と中二病全開でいられたが、今回の事でいまはそれが出来るメンタリティではなかった。




「……コレ明日も学校休むしかないな」




取り合えずそれぐらいしか今は考えられなかった。


空いた時間ができる。




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虚無だ。




何も考えられない。




考えたくない。でもそんな時でさえ時間は無常にも過ぎていく。




風呂も飯も、今はなにもかも面倒くさい。




………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………着替えもせずにベットに倒れるように入って寝る。




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しばらく深い眠りについた後、目を覚ました時は早朝四時だった。そして、身支度を整える。




「海、行くか」




どこか遠いまだ行っていない所へ、現実逃避に近い形でいまだ寝静まっているこの時間帯に外出することを決めた。




いや、自分でもなに考えているんだろうって思う。


でも、なんかここじゃないどっか遠いところ行きたい。たんなる自己満足だ。はっず。


自分の起こそうとしている行動に一瞬冷静になり恥ずかしくなったが、やっぱり行動する。




たとえ恥ずかしくても、意味がなかったとしても、今なにもしなかったら、そのままずるずる行きそうになりそうだと思ったから。だから、




軽食を取った後上着を着てスマホと財布だけをポッケにしまい玄関のドアを開ける。辺りはまだ暗かった。




そして考えを整理してみる。




寝とけば意外とスッキリされて暗い気持ちも緩和されるもんだ、だから今駅に着く途中まで自分の気持ちを整理してみる。




まず、俺は憎いという気持ちより、ショックの方が気持ちがでかい。それに復讐なんて出来るような人間でもないし。でも、しばらく女性不信にはなりそうだが。




今回の原因は簡単にいえば花音とのコミュニケーション不足だ。自分のしたい事と彼女のしたい事が不一致であったというのであれば、もっと話し合って、解決できる部分もあったのではないか。もっと相手をよく見るべきだったのではないか。




まぁそれでも花音の倫理観どうなってんのと言いたいが、それももう関係を断った今関係のない事だ。


気持ちが心なしか少し機械的になっている気がする。防衛機制なのだろう。




「一年かぁ……」


口から漏れ出たのはそんな言葉だ。




学校の休み時間、放課後、休日の遊び。いろんな会話やイベントを交えて、自分たちは心が通じ合って好き通しでいるんだと思っていた。だが、その証拠となり得るはずだった花音の笑顔でさえ嘘だった。


一方的に空回りで、相手の興奮材料として自分は使われていただけなのだと知って。只々、悲しくなる。




駅について電車に乗り、海についた。




あたりは誰もいない。




ここならいいか。








「うおおおおおおおおお!!!!!ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」




感情を前面に押し出して海の方へ走って叫んでみる。


「マジでアレ会話合わせてくれてただけなのか?!愛想笑いだったのか!?それなら面白くないってハッキリいってくれよぉ!!!!お前の興味ある話題探して調べてくるからさぁ!!!?!?!?!?!?」


こんなのただの自己満足だ。相手を察してやれなかった自分にも非があるのはしっている。


それでも




「嘘で笑顔なんかで接して欲しくなかった……………」






頬が熱い。


気づいたら涙が頬から伝っていたのだ。


腰まで浸かるほど進んだ。光っている海面に映し出された自分の情けない顔がある。


しばらくそんな顔をしている自分をぼーっと見てしまう。




いきなりピリッと脳にひびく。昨日からこの感覚何なんだと考えていたら…




「沢村くんちょっとまったあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」




「うおぉ!?」




いきなり横から抱き着かれた不意打ちに思わず倒れてしまう。そのまま全身が海の中に入りびしょ濡れになってしまった。


抱き着いてきた人が誰なのか確認すべく体勢を立て直した。




「ぷはぁ!!っ誰だお前は!?いきなりなにする…ん…だって……え?如月?なんでここに?」




「入水自〇するにはまだ早いと思うなぁ!?ほら、僕がご飯おごって話聞くし!!!だから一旦考えなおそう!!そうしよう!!ね!?」




あまりの切羽詰まった様子に思わず後ずさんでしまう。




「待て待ていったん落ち着け!俺は別にこの世とお別れしようとしてここに来たんじゃない!!ただ何?気持ちの整理って言うか…まぁそんな感じで…とにかく別にそんなんじゃない。安心しろ…」




自分が気持ちが落ち込んだときにアニメでよくやるベタなやつをやっていると思われたくなくて、恥ずかしくなってきて思わず口まごついてしまったが、なんとか説明する。




「え!?じゃあ僕の勘違いってこと?はぁぁぁぁぁよかったぁぁぁぁ……」




胸元に手をあてて如月は心底安堵したようにしている




それから俺たちは一旦海から離れて砂浜の方に移動する。




「てか、お前学校は?」




「それはこっちのセリフ……って言いたいけど、君が心配で途中で休んだんだよ、まぁ別の理由もあるけど」




「別の理由?あぁそれと何で俺がここにいるってどうしてわかったんだ?」




「その理由はもうすぐわかるよ……あ、来た来た」


そう言って如月は自分から別の方向へ顔を向ける。その先にいたのは……




「よぉ」




片手を上へ軽く上げて挨拶をする早乙女先輩がそこにいた。




「って早乙女先輩までなんでこんなとこに、てか、え?二人って知り合いだったの?」




「そうだコイツが俺に連絡よこしてきてな、てか、まぁまぁ落ち着け。取り合えずお前の居場所が分かった理由はコレだ。お前、この間俺と遊んだ後このアプリ消していないだろ」




そういってスマホをかざして見せた画面には、お互いの位置情報がわかるアプリが載っていた。




「あぁ成程、それで先輩が運転してここまで来たんですね……。でも、どうしてそこまで自分なんかの為にしたんですか?結構ここまで時間かかったでしょうに」




たとえ車で運転してきたとしてもここの海までくるのはかなり時間かかったはずだ。だからこそ疑問に思う。




「まぁ可愛い後輩が心配っていうのも嘘じゃないけどな。一番の理由はコレだよ」




そういって早乙女先輩はゆっくりと自分の腕を顔まで上げて、コンタクトレンズをはずす。


そこにはアメジストを連想させるとても綺麗な紫の瞳があった。




「えぇ!?先輩どうしちゃったんですかその目!大丈夫ですか!?」




「それはお前にも言える事だろ?」




「え?ああ確かに、てか先輩もそうだったんですね…なんなんですか一体これ」




「まぁその細かい話はおいおい説明するとして、取り合えずお前もコレつけろ目立つから。ネットにお前の写真が撮られていないのも幸いだな」




そういって差し出されたレンズを箱ごと手に取る。




「確かに自分の顔が勝手にネットに載せられたらいやですけど………?というか先輩、俺別に目悪くないですよ?」




「特注品だから取り合えずそれつけると瞳の色を偽装できるんだよ、凄いでしょ?大丈夫だよ視力が悪くなくてもつけられるから、」




そういって、さぁ付けてみてと如月に言われ、箱をあけて恐る恐る自分の手に取ってみる。


如月がスマホの写真機能を起動させて自分に見せるように差出して写し鏡の代わりに画面が自分の顔を映し出す。目に一発でつけてみる。すげぇ俺才能あるかも。そして




「え?目が赤く光ってない!?すげぇナニコレ!最先端!!」




目の色が元に戻ったように見えていた。




「まぁ取り合えずそれで学校には行けるな。あとそれ一か月使えるけど、一応ストックも用意してるから後で渡すわ」




先輩が神様に見えてきた……。さっきまで彼女を寝取られて、追い打ちをかけるように目の色が異常なくらい変わって俺学校目立っていけないじゃんどうしようと頭を抱えてのコレである。


真っ暗闇の絶望から一粒の希望が照らされた瞬間の様だ。さっき気持ちを整理させたと思っていたが、無意識に作っていた緊張が緩んで自然と涙腺が崩壊してしまう。




「先輩っ……ぐすッ…うぅ……」




「まぁ事情はソレ見れば大体察するが……取り合えず、お疲れさん」




そう言ってその場でうずくまってしまった自分の背中をさすってくれる。




「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ………」




優しくされて余計に泣いてしまう。




一通り泣き止んだ後、早乙女先輩から妙な提案をしてきた。




「で、だ。沢村、お前、今度から学校に行って失恋部に入れ。」




「……なんすかその失恋部って…うちの学校にそんなのないですよ」




「なに?」




「早乙女先輩、表向きの部活動名は筋トレ部です。」




横から如月が早乙女先輩に補足を入れる。




「?あぁそうか、正式名称は別のだった。」




「……さっきからなんなんですか?その…失恋がどうのこうのとか筋トレ部?とか…」




「まぁ一言でいうなら、お前と同じ様な仲間の奴がいる場所のことだよ」




「それってこの眼のことですか?」




「…まぁ大体そうだ。大方当たっているよ。」




「因みに僕もその部員の一人だよ?」




そういいながら自分の事を指さしながら如月は言う。




「……そうなのか?」




「うん、だから…喜んでいい事なのかわからないけど、僕は君がうちの部活に来てくれると嬉しいかな?」


少し悲しそうな微笑みを浮かべながら如月が俺を部活に誘う。




「部員が増えるなら喜んでいいんじゃないか?」




「………うん、それはそうなんだけどね。僕たちの部活はちょっと訳アリだから。」




「ええ、何それ怖い…」




「!?だだだ大丈夫大丈夫怖くない怖くない!みんないい人だよ!ほら!、向こうの早乙女先輩も去年まで同じ部活だったんだよ?」




慌てたように如月が説明しようとしてくれる。




「ははは!ッ冗談だよ。…ていうか早乙女先輩もその部活にいたのか。わかったよその部活に入る。」




今の自分には新しいコミュニティに入るのもありかもしれない。そう思ってその提案を受けることにした。






「決まったみたいだな。……てか、もう暗くなりそうだしどっか泊まるか?」




頃合いを見計らって早乙女先輩がそんな提案をする。




「先輩それじゃ明日の学校に間に合いません。こっからじゃ遠いし」




「いいじゃねぇか一日くらい、ここまで来たんだ。どうせ一週間ぐらい自分探しの旅でもするつもりだったんだろ?」




随分と気分屋な先輩だ。でも、励ましてくれているのはわかる。




「いえ、そのまま日帰りで帰るつもりでしたが…」




「お前意外とタフだな!?」




「でも、そうですね。……そうしましょう!」




「おう!そうしろそうしろ!!」




くっくっくと先輩は楽しそうに笑いながら、楽しそうにして一足先に車の方へと向かった。




「でも、如月はいいのか?ここまで来てもらってくれて悪いけど。無理しないで最後まで付き合う必要ないんだぞ?」




「大丈夫だよ、…それに、なんだか楽しそうだから。」




普段は教室で読書とか音楽聞いて他人と関わる気配がなさそうな感じだが、どうやらノリがいいヤツらしい。




「そうか、それじゃ早乙女先輩が待ちくたびれそうだから早くいくか」




「そうだね」




そう言って俺たちは近くの泊宿に一泊した。

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