第3話「心の準備、現実逃避」

バイト先に無事ついた。



だけどバイト中は傍からみたら少し変だったと思う。



「いらっしゃ、しゃいーーーー」



ほら、ろれつが回ってないよぉ~



でも確かにレジ周りは最悪でも品出しとかレジ打ちを一個も間違えない俺をとてもほめようと思う。




えらいぞ俺!!とても偉い!!あははははははははははは!


そうさ!!俺のことを一番大事に出来るのは俺なんだから俺が一番自分のことをほめてあげないといけないな!!偉いぞ俺!!偉い!!




そんなことを内心思いながらレジの前でお客さんがいなくなったので手持ち無沙汰になってしまう。




少しでも暇な時間が出来てしまうと今日の出来事が頭によぎって、、、


い、いけないわ!!忘れなさい寝取られの民よ!きょ…今日の出来事は悪夢だったのです。


うん、そうしよう。俺は今日何も見てなかった、何もしなかった、見ないふりをしようじゃないか。


それから、うん、それから……えっと、そうだな。。。


無理ぜよそんなこと、今更見ないふりよしようなんて。


絶対に気づかれる。


はわわ、、、




「おい、啓介」




ハッとして隣から声を掛けられていたことに気付く。声を掛けてくれたのは今年学校を卒業した男の先輩で、いまはフリーターをしながら気ままに生活をしているらしい。




「あい、どうぢまずた?」




「いや滅茶苦茶噛んでるじゃねぇか。やっぱり今日のお前なんかおかしいわ。なんかあったか?」




目線は前を向いていて、素っ気ない感じを出しているが、気にかけてくれるのが分かる。




せ、先輩!!やさしい先輩!!俺の事を心配してくれてんですね。!!


でも、先輩に今日起こった出来事をどう説明しようとすればいいんだ?


だって、俺の彼女と親友とも呼べる奴がディープなキスをしていたんだぞ?


これはあれダヨ、事情が何であれ寝取られというヤツなのでは?




「おーい、またどっかの世界に飛んでるぞー」




頭の中でぐるぐる考えが回ってどうやらまた現実が置き去りになってしまったらしい。




「す、すいません先輩、今日ちょっと調子悪いみたいで…へへ…」




「………」




そう言って誤魔化そうとしている俺に対して、先輩は心配げな顔をして俺を見つめる。正確に言うなら、、目を見てきている。




「お前もしかして………いや、やっぱいいや。言いたくない事もあるだろうし、自分でなんとか解決できるならそれが一番だしな。まぁ俺の所には何時でも相談していいからよ」




「さ、早乙女さおとめ先輩…」




「あっ…いらっしゃいませー…」




店内に客が入り、話は一時中断となっていたが、自分には自分の事を見てくれている人がいるんだと感じ、少し救われた気分になる。




気分になったは良いものの、心は癒えてはいないのだが。




バイトを何とかこなした後、そのまま寄り道せずに家に帰った。


と言っても、親は単身赴任中で家には俺一人なのだが。


家に帰った時に寂しい気持ちがないわけではないが、「なんか俺主人公っぽくね!?幼馴染もいるし!」という気持ちもあったので、正直ワクワクのほうが勝っている。




そう、幼馴染もいるし。




―‐‐-思い出したのがいけなかった―‐‐‐‐―


限界だった。




「……っうぷ…」




途端今日の出来事を思い出して唐突に吐き気に襲われる。




急いでトイレに!!




そう思い、なんとか間に合ってくれと思う一心にトイレに向かう。


今までで一番トイレに続いている廊下が遠く感じたと思う。足が重いがここで足を止めてしまえば床にぶちまけてしまう事になる。




必死の思いでドアノブを回し、便器の中に胃の中の物を吐き出す。




「うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ…」




吐き出すと同時に気持ち悪さから解放される。


スッキリしたおかげか、思考にも少し余裕が出来てきた。




よく耐えた俺!!よく床にぶちまけずに持ちこたえた!!偉いぞ!!


レバーを回して水を流しながらそんな事を思う。




「……………………」




とりあえず風呂に入った後、何も食べる気が起きなかったので飲料ゼリーだけで今日の夕飯は済ます。


とりあえず歯を磨いて、寝るには少し早いが、早々にベットに潜り込んでタブレット端末でアニメの最新話をチェックする。




画面の向こうには主人公を甲斐甲斐しく世話をしてる美少女がいた。




……あぁ、そういえばこの間俺の家でご飯を花音が作ってくれてたな。


あれは美味しかった。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




『悪い花音、料理まで作ってくれて』




『…別に大した苦労じゃないわよ、それよりあなたはその乱れた生活を何とかしなさい。床に服とかを脱ぎ散らかしっぱなしはダメよ?頑張ってきちんと整理整頓しなさい。』




『ははっお母さんみたいだ…』




『誰がお母さんよ…あなたの彼女でしょ?』




『うん、最高の彼女だよ…本当にありがとう。……』




『………もうっ、いいから冷めない内に早く食べなさい?せっかく作ったんだから』




『はい!……頂きます。………はむっ……うまいっ…久しぶりの手料理だ……ひっくッ…』




『ちょっ!?なにも泣かなくたっていいじゃない!?』




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~






思えば、途中からは何時も通りだったけど、ご飯作りに来てもらった時、ちょっと様子が変だったな。なんで気づかなかったんだろう…




……なんで自分はこんなに鈍感なんだろう……




「……うっ、うくっ……ちくしょう……」




不甲斐ない自分に思わず泣いてしまう。






……………………




―‐‐‐‐‐‐‐もうッ!…続きは私の部屋でお願い―‐―‐―‐




頭の中でこの言葉がよぎる




今だけは何も考えるなと自分に言い聞かせ、ヘッドホンをつけながら必死に音楽に集中する。




………………




分かっている。もう、見て見ぬ振りが出来ないことぐらい。




----だから---‐




明日、ちゃんと向き合わないとな。


それで、きちんと話し合おう。




ベッドの中で震える手を抱えて、これだけは心に決めて、密かに決意をする。

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