第6話 第二の裏切り者
「弟子にしろったって、別に俺より強いプレイヤーなんて他にもたくさんいるだろ」
俺は突如現れた女プレイヤーをそう諭す。
俺が予想しているのはこと。
それはこいつが、他人に受け渡せるアイテムの中でも少々手に入れるのが手間な、虫系の素材を乞食しようとしているのではないかということだ。
「いえ、あなたでなければだめなんです! えっと、今更ですけどあなたが噂の『
「はい?」
初耳だ。っていうかなんだよその中二病くさい二つ名は。
「あれ、もしかして人違い……? えっと、あなたは有名なプレイヤーキラーさんで間違いないですよね?」
「……そうだが? で、そんなプレイヤーキラーに弟子入りって、一体どういうことだ」
俺は女プレイヤーのステータスを確認する。
「【リン】:バスターランク11」
「現在装備武器【デビルライフル】」
「防具【デビルマスク】【デビルベスト】【アクマノツメ】【鉄鋼ベルト】【アクマノアシ】」
「攻撃力150、防御力265」
「発動スキル【爆弾威力強化】【爆弾設置高速化】【ジャンプ強化「超」】」
ははあ、なるほどね。こいつもプレイヤーキル常連者か。だがまだ練りこみが足りないな。これじゃあアイテム共有化持ちどころか防御が高い相手は軒並みきつい。
「って、お前なんでプレイヤーキルなんかしてんだよ。そんなんやるにしてももっとランクあげてからでいいだろ」
「あれ? あなたも持ってるんじゃないかと思ってたんですけど、違いましたかね? ……いえ、まあいろいろ事情がありまして」
ん?
この言い方、何か引っかかるな。
「もしかしてお前、【裏切者】持ちか?」
「あ、やっぱりあなたもそうでしたか。そうなんですよ、このスキルがついてるとプレイヤーキルしなきゃクエストをクリアできないじゃないですかぁ」
なんだ、俺以外にこのスキルを持ってるやつがいたとは。なんか興醒めだな。
「あっそ。んじゃまあ頑張りな。言っておくけどそのスキル構成、PKなめ過ぎ。もっとしっかり考えないとこの先戦えないぜ」
「だからぁ、弟子入りさせてほしいんですって!」
うぜえな。寄生プレイヤーの類と本質的には何も変わらないぞコイツ。
「巷で噂の凄腕のPK、気付いた時には三人同時に葬り去られてる――その話を聞いて私はピンときましたよ! その人絶対私と同じだって!」
「悪いけどお前を弟子にとるメリットがない。むしろ同行すると一人を二回殺す必要が出てきて面倒になる」
「ええ……そこをなんとかお願いしますよぉ」
ふと考える。俺がこいつと同行して、こいつが三回自殺したらどうなるのだろうか。やはり失敗の失敗扱いになってしまうのだろうか。
「あ、もしかしてネカマ野郎だから相手にしないでおこうと思ってます? あいにく私は本当に女ですよ、っていうかゲームとかで性別変えて楽しむタイプの人間とか私的にありえない、チョーキモイって感じです」
「そこは別にどうでもいいよ。あと、別にゲームなんだから楽しみ方なんて人それぞれだろ。性別を変えて楽しむなんて、PKと比べたら大したことない」
世の中の男性ゲーマーには、なにが悲しくって終始男のケツを眺めながらゲームをプレイしなきゃならんのだと思っている層が結構いる。VRMMOにおいてはケツを眺めることはないが、装備の着せ替えを楽しむというのも一つの遊び方だろう。自らのPK行為を棚に上げてそういうのを否定するのはあまり好ましく思わない。
「まあいいや。とりあえず試したいことがあるから付いてこい」
「え! 弟子入りさせてくれるんですか? やったー!」
「試したいことがあるだけだ。お前を弟子だと認めた覚えはない」
「ふむ、なるほどな。同パーティ内の【裏切者】が死んでも二死までならクリア扱いになるのか。三死だと裏切者が一方的に負けた扱いになるのか? よく分からんがとりあえず自殺で二回分の数を稼ぐってのは使えそうだな」
「ししょー、私は自分が死んでるからクリア扱いにならないんですけど……」
「いや、それはしょーがないだろ。お前は俺の技を見て盗んで、あとで自分で実行しろ。よし、これからお前は俺とクエストに行くときに二死係をやってくれ」
「ええええ……なんか利用されてるだけな気が……」
「お前が弟子入りしたいって言ったんだろうが。まあその代わりスキル構成とかPK手順は細かく教えてやるよ」
とは言っても、裏切者が二死してしまうと、三人普通のプレイヤーをキルするのより随分と報酬が減ってしまう。
本当に
こんな感じで、なんだか都合のいい道具が手に入った。
「それでは、お前の弟子入りを認めてやる。しっかりと学ぶんだぞ」
「ぶー……なんか思ってたのと違う……」
「つべこべ言わずに来いホイ。さっそくクエ行くぞ」
そうして俺は、弟子を利用してさっさとランクを上げることを目指すのだった。
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