第3話 こうた(クソガキ)

 というわけで、俺はこれをいい機会だと捉えスキルをもっと工夫することにした。そうしてできた装備がこれだ。


「【BUSTER】:バスターランク3」


「現在装備武器【ケルベロスガン】」


「防具【ケルベロスヘッド】【ケルベロスアーム】【フレイムゴブリンボディ】【爆弾師の腰当】【戦士の靴】」


「攻撃力130、防御力30」


「発動スキル【裏切者(非表示)】【爆弾威力強化】【爆弾設置高速化】【怒り】【ジャンプ強化「超」】」



 巷で序盤サクサククリア用上級者向き装備であるところのケルベロスシリーズをベースに、爆弾系のスキルを盛り込んだ。


 ジャンプ強化は、敵の攻撃や爆弾の爆風をかわすのに使う。



「【怒り】、HPが2割以下の時、攻撃力が2倍になる」



 そう、このスキルを使って他プレイヤー回復スキルの使用を躊躇わせるのだ。


 問題があるとすれば、2割のHPだと一撃貰ったら即死なのでシビアなプレイングを要求されることだが。まあ前作熟練プレイヤーの俺なら余裕も余裕だ。



 よし、それじゃあパパっと認定クエスト失敗してくるか。




「ぬおおおおおおおおおおおおお」


「【モリー】が戦闘不能になりました」


 一匹。


「馬鹿野郎! 何しやがる!」


「【熊五郎】が戦闘不能になりました」


 二匹。



「や、やめて、来ないで……きゃあああああああああああ」


「【ユキ】が戦闘不能になりました。三人目のプレイヤーのダウンを確認しました。クエストに失敗しました。集会場へと帰還します」



 なんだか呆気なく終わってしまったな。この前の運が悪かっただけか。






「さてと、中級者部屋ともなるとこれからは厳しい戦いになってくるのかな。とりあえず部屋に突入っと」



 俺は一つの部屋を選んだ。おお、ランク6が二人に7が一人か。俺圧倒的に浮いてるな。



「なんか雑魚きた」


「どうする? 蹴ってもいいけど」


「いや、一応【怒り】ついてるし武器もそれなりだし問題ないと思うよ」



 ふむ、雑魚だと? 俺はカチンときた。よし、思いっきり爆殺してやる。



「すいません、装備はそこそこですが前作やり込んでたのでそれなりには戦えます」



 懐疑的な目で見られるが、まあいい。どうせクエストが終わったころには皆怒りの目に変わるだけだ。



「よし、じゃあアスモデウス周回して装備作ろうか」



 お、もうアスモデウスと戦えるのか。前作では上級者部屋からしか行けなかったのだが。



「よろしくお願いします」






 アスモデウスとの専用戦闘エリアである、悪魔の城に移動した。俺は先ほど俺のことを雑魚と罵ったやつのステータスを確認する。



「【こうた】:バスターランク6」


「現在装備武器【ギガトロルスピア】」


「防具【ギガトロルヘッド】【ギガトロルアーム】【色欲の胸当て】【色欲の腰当て】【ギガトロルシューズ】」


「攻撃力160、防御力165」


「発動スキル【攻撃アップ「小」】【防御アップ「小」】【牛歩】」



 てめえが雑魚じゃねえか! 


 なんだこのゴミスキルは! 初心者でしかねえよこんなの!


 つかマイナススキルくらい消しとけや! 【牛歩】とか、動きが遅くなる致命的スキルだぞ!


 まあPK的には【牛歩】はカモだけどな。


 しかし防御アップの存在が割かし邪魔だ。


 まあいい。とりあえず最初のターゲットはこいつだ。俺達はアスモデウスとの戦闘に入った。



「HP調整しまーす」



 俺はそう言ってこうたの傍へ寄って爆弾設置、即起爆する。【牛歩】が無ければ避けれたのにね!


 こうたのHPが2割くらい削れたのに対し、俺のHPは2割以下になった。



「しね」



 こうたはそう言って回復アイテムを使おうとする。そうはさせるか、食らえ超連続散弾!



「アスモデウスは散弾が効くんすよねえ」



 バシバシとこうたをハチの巣にする。



「おいやめろ。ころすぞ雑魚」



 その言葉も空しく、こうたはアスモデウスのブレスを食らって死んでしまった。



「【こうた】が戦闘不能になりました」



「何が雑魚だバアアアアアアアアアカ! こんな奴相手に死ぬとかお前が雑魚だろおおおが!」



 俺はとりあえず煽っておく。さあ、あと二人。


 しかし。



「あ、こいつ地雷だ。リタるぞ」


「りょーかい」



「【KEI】が撤退しました。【リンタロウ】が撤退しました」




 あ。抜けられてしまった。つまらねえな。俺もリタイアボタンを押して集会場に帰還した。





「おまえまじありえない。強い人いなくなったぞ。しね」



 他の二人はさっさと部屋を出て行ったが、こうたは残ったまま俺を罵倒し続けていた。


 こいつ、絶対小学生くらいのガキだな。



「お前が死ぬからじゃね? もっと強くなってから出直して来いよ」


「おまえのせいだろ、まじきえろ」


「ランク俺より2も上なのに、クエ中死んでる雑魚のお前が消えろや」


「まじふざけんな」



 ふと妙案を思いついた。ガキはこういう話に弱い。



「あ、悪かったよ。お詫びに一気にランクを10上げる方法を教えてあげる」


「なにそれ」


「画面の右下から、プレイヤーネームを【BUSTER】にして、それから元に戻す。そして回復アイテムを一つなんでもいいから捨てる」



 意味深な操作を示して興味を誘う。この操作自体に何か意味があるわけではない。



「……それするとどうなるの」


「ここからが重要だ。これはバグ技だから」


「おしえろ」


「そのあとは、まずアイテム状態を手動セーブだ。これでこのあとの技を使って安心できる状態になる」



 一旦安心ですよ、という行動をさせておく。これにより次の行動のリスクが消えたと勘違いさせるのだ。



「そのあとの技は」


「アイテム状態を手動セーブしたら、そのあとアイテムを全て捨てる。そして自動セーブモードに切り替えて、装備と防具を全て売る。売った瞬間に回線切断だ。このあとログインすると、ランクが10上がる。もちろん捨てたり売ったりしたものも全部もとに戻る」


「やってみる」



 こうたはアイテムを捨て始め、装備と防具を売った。その瞬間こうたの姿が部屋から消えた。回線切断した証拠だ。



「はい、ざまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁ!」



 大勝利。バグ技なんて当然存在しない。


 全てデタラメ。こうたをハメるための罠だ。



 俺は勝ち誇ったように空に向かって叫ぶ。



「君は自動セーブをオンにして回線切断したので、その時点で自動セーブ入りまーす! つまり君のアイテムと装備は全部消えました! ランクも当然上がりませーん! 俺を雑魚と罵ったバツだ、クソガキが!」



 あースッキリした。クエスト成功しっぱいの憂さ晴らしができた。



 さて、こうたが戻ってくると面倒だ。通報される前に一旦部屋を抜けよう。



 俺は「覚悟の準備」はしない主義なんだ! いいですね!


 これは「詐欺罪」でも「器物損壊罪」でもないし、「セーブデータを破壊した」わけでもない。理由はもちろんお分かりですね?


「慰謝料の準備」もしないし「刑務所にぶち込まれる楽しみにして」おく気もない。


「ちかいうちに訴え」られることもない。「裁判も起こ」らない。


「裁判所に」も「問答無用で来てもらう」こともないだろうし、俺は「犯罪者」ではない。



 というくだらない冗談はさておき。



 しかしなるほど、この戦法だとどうしても途中離脱に弱いな。



 もっと作戦とスキルを練らねば。

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