第4話 ドM悪魔とトレーネ


 おお、トレーネ待っておったぞ。今日はお前に聞いて欲しい話があったのじゃ。下劣な騎士団の話? なんじゃ? あやつらまだ、わらわの噂をしておるのか? しておる? なんと言っておるのじゃ?


 口にするのもはばかられらること? そこまで言ったら気になるじゃろう。よい、許すから申してみい。「欲しがりわがままボディ」!? じゃと? わらわが何を欲しがっているというのじゃ?

 まあ、わがままなのは認めるがの。だって仕方なかろう、父上が「リリスよ、もっとわがままを言ってよいのだぞ。父はそれをかなえるのが生き甲斐なのだ、フハハハハ」などとおっしゃるのじゃから。


 どんなわがままを言ったかじゃと? 大したことではないのじゃ。国王親衛隊VS悪魔騎士軍団の格闘技大会を開催して欲しいと言っただけじゃ。優勝者には、わらわが直接褒美をつかわす機会をつくって欲しいとな。


 また、びーえるですか? じゃと? お前と同じことを言うやつがおっての、そいつにも言ったのじゃが、わらわが見たいのは、たくましい男たちの高みを目指す闘いなのじゃ。


 決して、上半身裸の男が組み合い、筋肉と筋肉がぶつかり、からまりあい、汗が飛び散り、荒い息を吐きながらやがて相手を組伏せ、はあ、お互いを称えあい、はあはあ、潤んだ瞳で見つめあい、フーハーフーハー。そんな様を見たいわけじゃないのじゃ。ゼーゼーゼー、ごほっごほっ。


 マッサージ始めていいですか? じゃと? おおすまん。そうじゃったな。待たせてしもうた、よろしく頼むぞ。ふー気持ちよいのー。んん? 体が火照ほてっておるじゃと? 興奮しすぎ?


 ば、ばかを言うでない。わらわは興奮なぞしておらんぞ。え? 今なんと言ったのじゃ? よう聞こえんかったぞ。欲しがりびーえるボディ!? じゃと? トレーネ、とうとう言ってはならんことを言ってしまったようじゃな。


 わがままをびーえるに変えただけじゃが、とんでもなく下品に聞こえるのは気のせいじゃろうか? 聞いて欲しい話?

そうじゃ、そうじゃ。あやうくスルーするところじゃった。

わらわがお見合いと言うものをしているのを、トレーネも知っておるじゃろう?


 うぐっ、首が――うっ、いたたたた。何をするのじゃ? すごい力じゃったぞ。そのお見合いで出会った男の話なんじゃが。どうせ筋肉バカでしょ、じゃと? 全然ちがうのじゃ。普通のなよっとした男なのじゃ。


 その男にじゃな、うふふ。よいか驚くでないぞ! な・ん・と、恋愛相談をされてしまったのじゃー、きゃー!

――――ああ、そうですかって、なんで驚かんのじゃー。


 驚くなと言った? 言ったのじゃ。確かに言ったのじゃが、もうよい。わらわが悪かった……なーんて、ほんとはビックリです。とな! そうじゃろう、そうじゃろう! もうふて寝してやろうかと思ったところじゃったわ。


 ああ、仰向けにになるのじゃな。よっと。あー首筋が気持ちよいのじゃ。はっ! そう言えば、その男の顔をこんなふうに下から見ると面白くての。笑ってしまったのじゃ。――ん? どうした恐い顔をして? 下から見ても怖い顔をしておるぞ。


 どんな状況で男の顔を下から見たのかじゃと? うっ、あー、それはじゃなー、なんというかじゃなー、ああそうじゃった。そやつは背が高くてのー、3メートルくらいあるのじゃ。巨人族と言っておったのかのー。だから顔が下からしか見えんのじゃ。へ、へへっ。


 笑って誤魔化すんじゃねえよ。じゃと? はわわわわわっ、どうしたんじゃ? トレーネ? トレーネさん。何を手に持ってるんですか? それはベルゼブブに使ったむちじゃないですかー?


 だめですよー、それは家畜を打つもので悪魔を打つものじゃないですよー。えっ悪魔うそつきを打つむちですって。や、や、やめてくれ!


 謝るのじゃ、あ・や・ま・るのじゃー。わらわが悪かった。仕方なかったのじゃ。あの男の好きな娘がマッサージが好きじゃからと、練習をしたのじゃ。人助けなんじゃ。


 お前がして欲しかっただけだろって。そんなわけないじゃろー。わらわはトレーネのマッサージが良いのじゃ。あやつのマッサージなんぞ力が強いだけなのじゃ。――どこを力強く揉まれたのか言えじゃと?


 あいたたたたっ! 顔を押さんでくれ! そこではないのじゃ。うぐっ。いたたたたっ! ひざが痛いのじゃ。違うのじゃー。そこでもないのじゃー。


 あっ!あうううううっ! はひっ。いきなりそこはだめじゃ。つぶれてしまうのじゃ。そうじゃ、もっと強くじゃ。もっと強くされたのじゃ。はあはあ。


 う、ううっ。あんまりじゃ。グスン。そんな汚物を見るような目で見んでくれ。わらわが悪かった。初めて恋愛相談をされての嬉しかったのじゃ。なんとか役に立ちたかったのじゃ。


 わらわは確かに悪魔王女じゃがな、なんにも出来んのはわらわが一番よくわかっておる。ベルゼブブのような勇者や、メフィストのような天才の家臣が支えてくれてこその王国じゃ、王女なのじゃ。


 そして、トレーネ。一番大事なのはお前なのじゃ。お前が今まで一緒にいてくれたから、わらわは辛くても笑顔でおれたのじゃ。なんでお前が怒ったのかはようわからんが、お前を悲しませるようなことはせんと誓うのじゃ。


 ちょっと、タオルをとって来ますじゃと? ああ、待っておるぞ。――おお戻って来たか。目を閉じてください? うむ、わかった。こうか? うぐっ。――――ふっー。


 トレーネ? くちづけは、恋人どうしがするもんじゃと聞いておるぞ。よいのか? そうか――大事な人にするのじゃな? そんなに見つめるでない。照れるじゃろ。


 トレーネの目はキレイな色をしておるな。まるで宝石のようじゃ。キラキラしておる。わらわの目もキレイじゃと? ギラギラしておるとな? それは血走っとるだけじゃ。


 はははははっ。始めて会った時のことを思い出すの。もちろんじゃ。忘れるわけがなかろう。あれはひどい戦争じゃったの。お前もわらわもまだ小さかった。ああ、この背中の傷か? いやもう痛まんぞ。平気じゃ。


 お前のせいではないのじゃ。そんな顔をするでない。どうしたのじゃ。今日は甘えんぼじゃの。トレーネらしくないではないか。ぎゅっと抱いてほしい? わかったこうか?


 押し付けられて窒息する? しょーがないじゃろ、わがままボディなのじゃから。こうしておると落ち着くの。ふふっ、くすぐったいのじゃ。トレーネの髪、さらさらじゃの。なんかいい匂いがするしの。


 思いっきり吸い込んでみようかのー。すうーっ。なんじゃ? ヘンタイ王女? 人聞きの悪いことを言うでないわ。また変なアダ名がついてしまうではないか。ふふっ。それでも別によいがの。


 こら、すうーって、お前までわらわの髪の匂いをかぐでない。なんじゃ? 男の匂いがするじゃと?

そ、そんなはずはなかろう。まだあの男の匂いがついておるのか? ぎゃっ! 痛っ! なんで噛み付くのじゃ。そうじゃトレーネ。今度はわらわがお前にマッサージをするぞ。される専門のくせにとかバカにされたからの。


 まずは練習をせんといかんな。そうじゃ、そうじゃ、ちょうど良い練習台もおるでの。楽しみじゃ。おや、トレーネ? 眠ってしまったのか? 疲れておったのじゃな。こうしてみると可愛い寝顔じゃ。今日はこのまま寝かしておいてやろうかの。おやすみの口づけじゃ。チュッ。

 

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