第3話 ドM悪魔と恋愛相談

 またお前か? 冗談じゃ。わかっておる、わらわが呼んだのじゃからな。いつもわらわの話ばかりしておるんでな。今日はお前の話も聞こうと思っておるんじゃ。


 何を話せばよいかわからんじゃと? それぐらい考えてこんか、愚か者め。しょーがないのう、わらわが質問するから答えるがよい。まったく楽しおって。


 そもそもじゃな、お前がこのお見合いとやらをする目的はなんなんじゃ? わらわはそれがちっともわからん。理想の男を探しておるなら自分で探すがよいぞ。その方が早かろうて。


 そんなんじゃない? ばかを申すな、毎回わらわから、いい男の話を聞き出そうとしておるじゃろうが? お前は気に入らんようじゃがな。ん? それはリリス王女さまがかってに、じゃと? 嬉しそうに聞いておったであろうが。


 わからん、いったい何が目的なんじゃ? え? 好きな人がいるじゃと? ほうほうそうであったか、それならそうと早く言わんか。とんだ無駄足であったわ。わらわに恋愛相談をしたかったのじゃな。相手はどんな男なのじゃ? ん、男じゃない? 冗談はよさんか。え、本当? ちょっと待て、待て、待て! こういう時は深呼吸じゃ。スーハー。


 お前に会うのは何回目じゃったかの? 3回目か。そうか、ずっとわらわをだましておったのじゃな。王女様が勝手にそう思い込んでいただけでしょ、じゃと? あーあー悪いのはわらわでございました。全部わらわがわるーございました。余計なお節介で・し・た。逆ギレ? うきーーーっ!


 はあ、はあ、取り乱して悪かったの。もう大丈夫じゃ。それでお前の好きな娘はどんな子なのじゃ? 一言で言ってみよ。ふむ、天然勘違い娘じゃと。まあそれぐらいがかわいいではないか。冷血ヤンデレ娘だったらどうするのじゃ? うー考えたでけで悪寒がはしるわ。それでもう気持ちは伝えたのじゃろうな? まだ? はー情けないのお、ぐずぐずしておったら他の男にとられてしまうのではないか?


 それは困るじゃと? まあ、なよなよしいお前のことじゃ、勇気がないのじゃろう。なんなら、わらわが代わりに伝えてやってもよいぞ。それは無理? 物理的に? どういう意味じゃ? そうじゃな自分で思いを伝えられんようなやつは好きにならんじゃろうからな。


 相手の娘は、お前のことどう思っとるんじゃ? そこじゃろ、重要なのは。わからない、たぶんなんとも思ってないだろう、じゃと。そんな弱気でどうするのじゃ。確かめたわけではないのじゃろう?


 それとなく確かめてみるしかないのお。つぎはいつ会う予定なのじゃ? まだ決まってない? ならよい、いまから作戦会議じゃ。とにかく少しでも好かれるよう努力じゃ。努力に勝る天才なし、と言うであろう。


 意味がわからないじゃと? 愚かじゃのー、お前は。お前には、ベルゼブブやメフィストのような特殊な才能はないのじゃから、努力でカバーせいと言っておるのじゃ。まったく、世話のやけるやつじゃ。


 その娘の好きなものはなんじゃ? それぐらい知っておるのじゃろう? ほう、びーえる小説とな? どこかで聞いたような名前の小説じゃな。どんな話なのじゃ? ふむふむ、男と……男の……なななな、なんと! うひー、わわわ。


 なんじゃ? その目は? わらわも小説を読むが、ちょっと違うようじゃ。テイストは似ておるがの。わらがが読んでおるのは、たくましい男どもが互いを高めあいたたえあう物語なんじゃ。そーなんだったら、そうなんじゃ! と、言うわけで、びーえる小説については、わらわは何のアドバイスもできん。悪しからずじゃ。他にも好きなものがあるじゃろ? 言ってみよ。


 マッサージが好きじゃと? あるではないか。ちょうど良いのが、マッサージについては、わらわもちょっとうるさいでの。してもらう専門のくせに? あーそうじゃ、してもらう専門じゃ。だって王女じゃから。王女さ・ま・じゃから。うう、ううう意地悪じゃ。今日のお前は意地悪なんじゃ。ぐすん。


 泣いてる? 泣いてないぞ、グス。これくらいでわらわが、グス、泣くわけなかろう、グスン。なんじゃ、気安く触るでない。わらわの髪に触って良いのは母上と、メイドのトレーネだけぞ。こ、こら、髪を撫でるのはやめろ! は、はわ〜〜〜っ。ふえ〜〜〜。銀色でとても綺麗ですね、じゃと?


 うそを言うでない。こわいとは言われても綺麗なんぞ言われたことないのじゃ。いやトレーネは言ってくれるがの。あやつは優しいからの、わらわを気遣ってくれておるのじゃ。だから無理はせんでよい。お前もわらわを怖れておるのじゃろう。だから、わらわの話を聞いてくれるのじゃろう?


 ただ、楽しいから聞いておるじゃと。口がうまいのお前は。口のうまい男は嫌いじゃ。お前の好きな娘は幸せじゃろうな。優しくしてもらえるのじゃから。よし、何とかその娘の心をつかむのじゃ。マッサージ好きなんじゃろ? してやるのが一番じゃが、下手くそではいかんな。おう、そうじゃ、ちょうど良い、わらわを実験台にしてみよ。


 ただ、してもらいたいだけ? バカを言うな。練習じゃ。練習あるのみじゃ。よしそこのソファーを使うのじゃ。何をしておる早うこっちへ来んか。よしよし、わらわがうつ伏せになるでの、首と肩を揉んでくれ。よっと、ちょっと狭いの。ふうー、良いぞ始めるのじゃ。


 おおっ、やはり男だけあって力が強いの。トレーネにはない力強さじゃ。ぐうーっ、そうじゃ、もう少し右じゃ。いや違う、行きすぎじゃ。もうちょっとだけ右。おおお、そこじゃぐーっと押すのじゃ! 痛たたっ、強すぎじゃ!


 ん、文句が多いじゃと? お前は力は強いがの、繊細さが足らんようじゃ。それでは好きな娘を満足させることがかなわぬぞ。そのためのアドバイスじゃから、黙って従うのじゃ。


 そろそろ、仰向けになれとな? よいぞ、よっこらしょっと。おわっ、なんじゃお前、うでまくりなんぞしおって。どれだけ本気なんじゃ。軽くひくレベルじゃぞ。


 ならやめる? まてまて、冗談じゃ。冗談なのじゃ。怒るでない。なんか下から見るとお前の顔面白いのおー。わははははは。変な顔じゃ。わーまてまてまて、もどってこい!悪かったのじゃ。謝るのじゃ。


 なんと言うか、優しい目をしておるな。お前は。わらわは嫌いじゃないぞ。んんん、そうじゃ目の回りじゃ、気持ちよいのー。最近、疲れ目がひどくてのー。びーえる小説の読みすぎ?


 だから、わらわが読んでいるのは、びーえる小説ではないといっておろう。だが、今度読んでみようかの、お前のオススメはなんじゃ? 知らない? 好きな娘のお気に入りを聞いてみるがよいぞ。聞いたら、わらわにも教えるのじゃ。


 ぶはっ、いきなりタオルを顔にかけるのはよさんか。窒息してしまうじゃろう。おー、首筋のマッサージも気持ちよいのー。え? おいこら、どこを触っておる? ひゃ! おふっ。


 ここはこってませんね? じゃと。あたりまえじゃ、そこのせいで肩がこることはあっても、そこがこることはないのじゃ。うぐっ。先っぽをつまむの、は、やめ、やめ……はふうー。


 かわいい声ですね、じゃと? お前のせいじゃ。お前のマッサージが……その……上手……じゃ、か、いやいや、普通じゃのー、いたって普通じゃ。やせ我慢? 我慢なんぞしておらんわ。心外じゃの。うぐっ、はひっ、両方同時は卑怯ひきょうじゃぞ。わらわは負けんぞ。負け、んんんっぞあうっ。


 もうよい、十分じゃ。本当にやめていいのですか、じゃと? もちろんじゃ……あああっ。ひっ。やめ……んでく……れ。お願いし……まゃしゅうう。はあはあ。なんなんじゃ。いったいなんなんじゃ。悪魔じゃ。お前はわらわをたぶらかす悪魔じゃ。


 うう、もう時間じゃ。帰って好きな娘にマッサージでもなんでもしてやるがよい。わらわはいいのかじゃと? わらわはお前の練習台になってやっただけじゃ、余計な気遣いは無用じゃ。じゃが、お前がどうしても言うならもう一回練習に付き合ってやってもよいぞ。よいか一回だけじゃぞ。仕方ないのー。

 


 

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