本当の終幕


廊下に出てから何十分経っただろう、僕らは無言であった。

それぞれ今回のことで思うことがあったのだろう。僕がこの静けさに耐えきれなくなり話そうとしたその瞬間ドア越しに僕らを呼ぶ声が聞こえた。


教室の中に入ると、そこには並んで座る二人がいた。

文子さんは僕らが入ったことを確認すると


「皆様ありがとうございました。最後にとっても素敵な時間を過ごせました。」


最後という言葉を口にする文子さんと恭一郎さんの足は、もうほとんど透けてなくなっていた。


「思い残すことはなくなった?」


そう口にしたのは結城さんであった。

その瞳は少し潤んでいるように見えた。意外と感情的なタイプなのかもしれないなと僕は場違いにも思った。


「はい。ありがとうございます。最後に会えたのがあなたたちで良かった。ほんとにほんとにありがとう。」


「そして、そして恭一郎さん、愛しております。とてもとても愛しております。来世でもまた。」


「僕もだよ。文子さん。来世でまた。」


そう言い残すと二人の存在は消えていった。

なんともあっけない最後だった。

最後に二人はどんな話をしたのだろう。最後まで愛し合っていた二人はとても美しくはかなげであった。

そんなことを考えていると少し視界がぼやけ始めた。


(あれ、どうしたんだろう。ここは夢のはずなのに)


そしてそのまま視界が暗くなって行くのを感じた。

視界が完全に暗転する間際に


「起きたら、この部屋に来なさい。」

と声が聞こえた気がした。

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