再臨
それを見ていた僕らの顔はひどく滑稽であっただろう。
なぜならお悩み相談とはかけ離れた光景が目の前にあったからだ。自身が思っていることと180°違う光景をみてすんなり受け入れられる人間がいるだろうか。だからこそ僕らは口をあんぐりと開け目をまん丸く見開きその現場から目が離せなくなった。
そしてしばらくその光景を見ていたが
「あなたがそれ以上話さないと言うのであれば、こちらにも考えがあるわ。この教室に火を付けてしまいましょう。そうしたらあなたの居場所がなくなってしまうものね。ここら一帯が更地になってしまったらあなたの存在価値がなくなってしまうわね。」
そう言って脅しながら微笑む彼女を見て、以前までの彼女への恐怖とは別の意味で恐怖を感じた。
そして彼女は自分のポケットをまさぐりライターを取り出した。本当にやるぞという意思表示を幽霊に見せているようだ。そこまでしてようやく幽霊のすすり泣く声が止まった。
だがなにも喋ったりはしないし体制もそのままだった。
結城さんはそんな相手を見て焦れったくなったのか。
「いいのね?このまま付けるわよ。」
といい。ライターに指をかけカチッと音が鳴った瞬間今まで俯いていた幽霊から手が伸び結城さんの腕を掴みそして
「わ、わかりました。後悔でもなんでもお話するので火だけはやめてください。」
と細々とした声を発した。
それを聞いた結城さんは手からライターを離し幽霊も結城さんから手を離した。
結城さんははぁと少し息を吐き、彼女へ
「そう。ならいいわ。話して貰えるかしら。あなたがここの部屋にいる理由を。」
彼女は昔、この学校の生徒であった。ひときわ目立った生徒であったわけではないしでもいじめられるような生徒でもなかったそう。本を読むのが好きなただの女学生であった。だがそんな彼女にも一つだけ誇れることがあった。彼女はここの教師と恋仲にあったのだ。相手は国語の教師でとても言葉が丁寧で生徒に対して熱意を持って接してくれる先生。
きっかけは文化祭。一人でいる自分に対し
「一人は楽しいよね。僕も一人が大好きだ。でも孤独はつらいよ。だから一人の君と一人の僕でいれば二人だね。」
と一緒にいてくれた。あのときほど学校が楽しかったことはない。好きな作家の話をし、二人で盛り上がっていくうちに彼女は恋に落ちていた。そして彼も私に好意があると言ってくれた。そうして二人は深い関係へとなっていった。
だけどその幸せは長くは続かなかった。先生には奥さんがいた。知らないわけがなかった。だけど彼女の気持ちは抑えきれなかった。先生は段々彼女と家族への罪悪感で押しつぶされていった。そして先生はあるとき家で首を吊って死んだ。
自身の感情をだれにも相談できず、罪悪感をもって死んだ先生は苦しかっただろう。
彼女は自分をおいて死んでいった先生を恨んだ。だけど一番憎かったのはなにもしてあげられず、先生を苦しめていた自分の存在だった。
この教室は文化祭以降、先生と会うときに使っていた部室だったそうだ。
そこで彼女も先生と同じように。
「ここまでが私の話です。私はこの教室で先生に対する懺悔を行ってきました。今までもこれからもほかの人に危害を加えないと約束します。だから私からこの場所を奪わないで。」
そう彼女は懇願した。
その願いに対し結城さんはあまりにも非情であった。
「いいえ。だめよ。あなたの存在は害をもたらすものなの。もしその力が弱まらないのなら無理にでも成仏してもらうしかないわね。」
と冷たく言い放った。
その発言に彼女はまたうなだれた。僕はそんな彼女をみてさすがに言い過ぎだろうと口を開こうとした。だがそれをさえぎるように結城さんは続けた。
「だけれどもあなたの後悔を解消する必要があるの。あなたのその後悔をどうけりを付けたいの?」
と彼女に尋ねた。彼女は少し考えるような素振りをし、そして決心をしたように結城さんの方を向き
「私はちゃんと先生に謝りたい。私の気持ちのせいで後に引けなくなっちゃってあんなことになっちゃったから。ただ一言好きだって言いたい。」
その表情は心残りある霊とは思えないほど、清々しいものであった。
「ねぇ結城さん。謝るって一体どうやって謝るの?」
そう口を開いたのは未桜だった。
確かにどうやって死人に謝るのだろう。僕たちは未桜に続いて結城さんを見た。
だが帰ってきた返事は簡単なものだった。
「ここに召喚すればいいのよ。その先生とやらを。」
「「「「え?」」」」
僕ら三人だけでなく幽霊の彼女とまで息がぴったり合った。
「な、何言ってるんだい結城さん。召喚だなんてそんな夢みたいな・・・。あ!!夢!」
「気付くのが遅いわよ。三本木君。そう、ここは夢の世界よ。召喚だなんて簡単にできるわ。」
そう。ここは僕の夢の世界なのだ。夢の中であればなんでもできる。
「なるほどね。でもどうやってその先生を召喚するの?その先生の顔とか知らないよ僕らは。」
「三本木君は本当に聞いてばっかりね。たまには自分で考えると言うことはしないのかしら。ねぇ亡霊さん、あなたならあの当時の彼を思い描けるでしょう?想像しだしてごらん。」
どんな時でもいやみは忘れないのね。と感心しつつ、結城さんが指示を出した先に目をやった。
見ると彼女はぐぬぬと効果音が出そうなほど踏ん張っていた。
本当にそれで出るのだろうかと不安になったが、踏ん張っていた彼女がえいっと手を目に出すとその先が輝き始めた。その眩しさに思わず目を覆ってしまった。次第に光は優しくなり、目が開けられるようになった。その先にいたのは驚くべき相手だったのだ。
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