幼なじみ
いつも通りの時間に学校へ着いた僕だが周囲の様子が少しおかしいことに気付いた。いつも通りの学校。いつも通りの教室、クラスメイトのはずなのに。なんだかおかしい気がする。なんだか視界がもやっとしているような感じがする。まるで霧がかかっているかのようだ。
クラスメイトたちはいつも通り談笑をしているのだがその声も靄がかかっているかのように耳に届かない。
こんな現象。原因は一つしか思いつかなかった。その原因を確かめるべく僕は彼女の席に向かわなかった。なんでかはわからない。だけどそっちにはいないと思った。それに彼女の席の方はなんだか嫌な気配がしていた。
駆けだしたままの足で、僕はあの教室へ向かっていた。本当に自分でも分からない。昨日今日あった彼女。恐怖の対象であった彼女。なのに直感的に彼女の居場所が分かる。彼女ならそこにいると信じられる。足は止まらなかった。
人は危機的状況に陥ると視野が狭くなり、普段だったら躓かないような場所でも転ぶのである。
目の前には足場がなかった。僕は空に放り投げられる形で階段を飛び降りていた。
二階の教室棟から一階の教室棟、階段があるのは常識だ。だがそのときの僕は階段というものを見落としていた。周りの景色がゆっくりになりこれはまずいとなった瞬間なにかに引っ張られまるで逆再生するかのように階段の踊り場に転がった。
「おい。大丈夫か?」
その声には聞き覚えがあった。いや聞き覚えだなんてとんでもない。昔から馴染みのある声だ。
「ああ、ありがとう葵。助かったよ。」
僕を引っ張り上げてくれたのはシスコン兄貴の葵であった。その後ろの方には不格好なフォームで走っている妹の未桜の姿もあった。葵は僕のお礼にはなにも返事もせず、言葉を続けた。
「なぁ、どうなっているんだ。なんだか今日の学校は変じゃないか?」
それは僕自身も思っていたことだ。だがこの現象に悩まされているのは僕だけだと思っていた。
「ど、どうして。君はなんともないの?」
そう恐る恐る彼に尋ねた。すると彼の背から大きな声が聞こえてきた。
「あんた!なんか知ってんの!?何が起きてるのよ。朝教室にいったらみんな普通に喋っているだけだと思っていたのに。でも違いをよく聞いてみてもなにを言っているのか分からないのよ。ガヤガヤと聞こえてくるのに、何も聞こえないの。なにか知っているなら教えて。」
と彼女は涙目でそう訴えかけた。この表情をみるのは久しぶりだと少し感慨深くなってしまったが、今の状況的にそういうわけにもいかない。
「ごめん。今の状況は僕にも分からないんだ。僕も朝学校へ来たと思ったらクラスのみんなが変になっていた。だから僕にもわからない。だけど一つだけ言えるのはこの事件に関わっているのは僕と結城日奈美の二人だ。」
僕は今もっているすべての情報を彼らに話した。
「結城?って昨日転校してきた子か。お前となんの関係があるんだ?お前は未桜一筋だと思っていたが別の女との交流もあるのか。ほお?」
「結城さんって昨日転校してきた子よね?あんたとなんの関係があるのよ。まさか、あんた彼女がこの辺のこと知らないからって変な子としたんじゃないでしょうねぇ。」
と急にじりじり歩み寄ってきた。その目は狩りをする目をしていた。僕は詰め寄ってくる二人から距離を少しずつ離しながら話を続けた。
「いや違うんだって。二人が想像しているのとは違うんだ。未桜には前話しただろう?あの坂道での出来事。それに関係しているんだ。」
といつもの倍のスピードで喋った。
「坂道??あぁ!あの恐怖体験のまがいものみたいなやつね。それとこれとなんの関係があるのよ。」
少し進撃を止めてくれたかに思えたがまたこちらへと前進してきた。ちなみに兄の方は妹が止まるたびに自身もともに止まっている。双子の細胞がそうさせているのだろうか。それともシスコンすぎて条件反射で止まってしまうのか。どちらにせよ恐ろしいが、妹に話しかければ兄も止まるのだから今この状況においては便利な機能である。
「まずは話を聞いてくれって。その真実を知っているんだ彼女は。そして彼女に会ってから不思議な現象に見舞われているんだ。」
と必死になって訴えると彼女たちの目は正気に戻り、「はぁ。」とため息をついて
「そういうことなら早く言いなさいよ。お陰で勘違いしちゃったじゃない。」
あっけらかんとした口調で彼女はそう言った。その発言に少し言いたくなったがいうとまためんどくさいことになるのは分かりきっていたので、なにも言わなかった。決して言えなかったわけではない。
「それで?」
「それでとは?」
「それで彼女はどこにいるのよ!!」
(やばいまた怒りはじめた。ていうか葵のやつはなんであんな嬉しそうな顔で見ているんだ。お前の妹バーサーカーなってるんだから止めろよ。狂乱状態でも天使に見えているのかよ。)
僕はまた怒り始めた未桜を止めようと、口を開いた。
「きっと彼女は、七不思議の一つになっている。部室棟の奥の部屋にいる。」
「なんだってそんなところに・・・。」
「彼女は、昨日そこですべてを話すと言っていた。だからきっとそこにいるはず。」
僕は先ほどまでの直感と違い、確信をもって発言をしていた。
「だから僕は行く。きっとこうなってしまったのは僕のせいかもしれないから。二人はどこか安全なところで隠れてて。」
そう言い、踵を返し部室棟に向かおうとした。だが、その体は動かなかった。
それは決して不快なものではない。暖かくて優しい手で肩を掴まれていた。
掴んだのはもちろん正体不明のものではなく、知らない人間でもない。
だれに掴まれたのは分かっていた。でもわからない。なんでそんなことするのかが分からない。あんなに遠ざけていたのに。なんでそこまで。
「水くさいやつだな。俺らも行くぜ。光。」
「そうよ。あんた一人なんて不安だわ。」
「な、なんで。僕なんかといちゃだめだ。なんでそこまでして僕に近づくんだ。」
戸惑いや不安を持ちながら、声を絞り出してそう問いかけた。だが僕の気持ちに反して二人は
「「幼なじみだから。」」
当然であるかのように答えた。
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