微睡み

「君は・・・。君は一体何者なんだ?合格とは一体何のことなんだ?」


ここに来てたまっていた疑問が、口から溢れてきた。ここで正体を知るのはとても恐ろしい。だがここまで来て何も知らないのもそれはそれで気持ちが悪い。

僕は腹をくくり、彼女の返答を待った。

彼女は固く結んでいた口をゆっくりと解き、そして


「私は結城 日奈美よ。それ以下でもそれ以上でもないわ。」


ここで初めて自分の耳で彼女の声を聞いた。まだ彼女の声を聞くと少し体がこわばるがまだ引き下がれない。それに彼女にはしっかりと答えてもらわなくてはならない。


(たかだか少し喋っただけだ。怖がるな。)


と自分を奮い立たせさらに質問した。


「あのとき田んぼにいたのは君なんだよね?」


「そう。」


「君はあのとき消えたよね。どうやって?」


「いるべきところにいるだけ。いるべきところが違えばそこからいなくなるの。」


「え、それってどういう・・・。」


「今日は遅い。詳しいことは明日説明させて。君は合格だから詳しく知る必要がある。明日の放課後またここへ来れる?」


「あ、え、わかった。」


「そう、ならまた明日。」


そう、彼女はいい。そのまま僕の横を通り彼女は一人帰って行った。その背はなにか恐ろしげなものはなく一人の人間のように見えた。


彼女が去った後、ここで起きたあっという間の出来事に呆然としていた僕であったが少しずつ冷静さを取り戻しこの場所がどういう場所であるか思いだした。こんなとこに一人でいることに対して徐々に恐怖が湧き、すぐさまこの場を逃げるかのように後にした。


その後家に着き、ここ最近起きたこと今日起きたことを少しノートにまとめてみたのだがそのまとめたノートを見れば見るほど分からなくなっていく。僕の隣の席の結城 日奈美はあのときの田畑に現れた美女子で、だけど美女子には不思議な点がたくさんあり、最も不思議な点はその場から一瞬にして消えてしまったところだ。なぜ消えてしまったのかは僕には到底分からない。だがそれも明日になれば分かるだろう。


(ほとんど分からないことだらけでまとめたって意味ないだろうな。今は焦らないで明日を待とう。)


そして僕は布団をかぶり、ゆっくりと目を閉じた。

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