開く扉
次に目が覚めたときは星々が輝き、とても風も先ほどとは違い少し寂しげな風だった。
状況を理解するまで少しかかったが状況を理解した瞬間這うようにその場を逃げ、すぐさま自転車に乗り帰路へついた。
帰ってからも恐怖心が抜けなかったが、この年になって親と一緒に寝るなど自身の歴史に傷をつけたくなかったので布団をかぶり流行のポップソングを気が紛れるように目を瞑った。
次に目を覚ましたときには空に明るみが増しいつものようにリビングからニュース番組の音と台所でかちゃかちゃと音が聞こえ安堵しまた眠りについた。
二度寝をしてどのくらい時間がたったのだろうか。外は先ほどより明るくなっており、その光を遮るように目を擦った。
(もうお昼か。昨日は色々あって疲れたな。今日が休みの日でよかった。)
1度目が冷めたときとは違い、家の中はしんと静まりかえり自身が動いたときの衣擦れなどしか感じないが、これがいつもの自分の休日なのでなんとも思わずいつも通りに顔を洗い、いつも通り母さんが用意してくれた朝食をいただくことにした。
一つだけ違うことは、耳からイヤホンを外せないことだった。
恐怖は昨日と比べ和らいできたのだがやはり何かを聞いてないとまた昨日の声が聞こえるのではないかと不安に思った。
なるべくいつも通り過ごすようにいつも通りを演じる自身がすでにいつも通りでないことに気づくのは暫く経ってからだった。
人というものは案外、柔軟性のある生き物のようで夜になる頃にはいつも通りの生活ができていた。
次の日も休みだったため今日は夜更かしするぞと意気込み大好きな「サザナミアルト」という作家の新刊を読みふけっていた。
サザナミアルトとは僕らの年代では知らないものはいないと言われているほどの売れっ子作家で、読めばその物語から暫く帰ってこれないと言われるほどの没入感溢れる物語を書く。
現実に潜む深い闇というのがコンセプトだそうで、コンセプト通り少しダークな小説を書いているのだ。
僕もサザナミアルトの本にそんな力があるのか?と気になっていたが読んでみると数日は帰ってこれなかった。
さらに人気なのはその物語の評価だけでなくサザナミアルト自身にもあり、その姿は町を歩けばだれでも振り返るような可憐さを持ちながらも人を寄せ付けない高潔さも兼ね備えたようなそんな人物らしい。
綺麗すぎる作家と噂で雑誌のグラビアなどの仕事も出たらしいが興味ないとバッサリ切り捨てたらしい。
(そういえば昨日見た人も綺麗だったな)
と思い出しそうになったが、またあのときの恐怖をぶり返したくなかったため手元の本を読んで物語に身を委ねようとした。
だがそれは叶わなかった。
物語を読み始めてどのくらい経っただろうか。その異変にはすぐ気付いた。
(この物語知っている・・・。)
舞台は田舎道、最近噂になっている怪奇現象そして、主人公が見てしまったもの。
すべてが昨日僕に起こったことなのだ。
「どうして・・・。」
すべてがおかしい。その後の展開も今に至るまでの僕と一緒なのだ。
ページをめくる手が止まらなかった。自分と重ねたくなかった。またあのときのような恐ろしい感情が込み上げてくる。それでもこの手は止まってくれなかった。
自分とは違うと確信できるものが欲しかった。もう終わった話だと思ったのにこんな形でぶり返すとは思わなかった。心臓がキュッと締まる思いだったが、やはりページをめくる手は止まってくれない。こんな状況に陥っても恐怖心より好奇心が勝ってしまうのだ。
その後も着々と読み進め、ある場所で手がようやく止まった。
そこには僕と同じく大好きな作家の本を読んでいると、その小説の内容が自分の身に起きた内容とそっくりであることに、恐怖を覚えている主人公がいた。そしてその主人公は次のページに手をかけるところでページを締めくくっている。
このページをめくろうか心底悩んだ。それでもめくるしかないのだ。この先を確認しなければこの恐怖がずっと纏わりついて回るだろうから。
そう自身に言い聞かせ、次の頁に手をかけた。
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