第四章

大賢者と地下道

 アルフォードは、ミスリル鉱山と城の間を行ったり来たりするのが段々面倒になってきた。鉱山と城を直結してまえば良いのだが、手法はいくつか考えられる。まず地上に高速ゴーレムを設置する方法。しかし、魔獣がいつ現れるか分からないファーランドでは不確実性が高い。そうすると地下をつなぐか、転移門でつないでしまうかの選択になる。初期コストがかかるが維持が楽なのが地下をつないでしまう方法、初期コストは安いが維持に魔力をごっそり持って行かれるのが転移門を使う方法だ。熟考したうえでアルフォードは結論を出す。


「地下道でつなげてしまえば良くない?そこに鉄道みたいなのを通して運搬させればする事が無くなる」


 思いついたらすぐ実行するのがアルフォードだ。早速測量を始めることにした。まず掘る前に経路上の地盤を確認しないといけない。もし地下水にぶつかってしまうと工事が困難になるし、地下水を分断しないように迂回する必要が出てくる。また固い岩盤に当たった場合、迂回するか無理矢理掘り進める必要がある。逆に砂の様な地形なら掘り進めること自体不可能だ。この場合、周囲を固めてから内部を掘り進めないといけない。また、掘り出した土を何処に埋めるかなど様々な要素を考慮して設計を進める必要がある。


 アルフォードは、地下トンネルは巨大な円形の筒を回転させる事で掘り進めることにした。この筒は魔力を供給しつづける限りビーコンに向かって直進し続ける魔法陣を刻んである。また掘った後に強化魔法をかけ地下道が崩れ落ちない様に固めていく。ビーコンは城と鉱山の間に8箇所埋め込むことにした。これは工区を分割することで完成までの日数を大幅に短縮するためだ。鉱山から城までの距離はおおよそ20kmなので工区を10箇所に分割し、左右から同時掘り進めば1つの工区が掘り進める距離は500mほどになる。仮に一日30mずつ掘り進めれば20日も経たずに貫通する計算だ。


「カチュア、大変なのだ」


 屋敷の天井からエリザが飛び込んで来た。


「なんですかはしたない。貴方も淑女の嗜みと言うものを学んだ方が良いですよ」


 カチュアは自分を棚に上げてエリザを諭した。


「それより、御主人がまた変な工作に嵌まっているのだ」


「それがどうしたのでしょうか?」


「また食事が硬いパンと塩水だけになるのだ」


「それは一大事です。早速、邪魔し……忠告しに行きましょう」


 その時、アルフォードは木材を組み合わせて巨大な車輪の様なものを作っていた。地下を掘り進める魔道具の一部だ。この部分が内骨格となり、外側にドリルを取り付けるのだ。まだ鉄が潤沢に使えないので大半の部分は木材を利用して作る必要があった。ドリルの部分は強化魔法を使うのだ。掘り進む距離がそれほど長くなく使い捨てる代物なので、耐久性は二の次で完成を優先した結果でもある。その大きさは半径10mほど。もちろん重力魔法をつかって組み立てている。重力魔法や飛行魔法がなければクレーンや土台が必要になる。魔法を利用する事で工程をすっとばしたのだ。


 完成した魔道具は、半径10mの円柱状をしている。回転の魔法がかかっており回転しながら前に進んで行く。真っ直ぐ進むように等間隔に螺旋を引き、大量の人工魔石を取り付ける。人工魔石は地中から魔力を吸い出しながら前に進んで行く。人工魔石は透明なコランダム、つまり色の無いルビーなのでモース硬度9ある。これは土を削り出すための役目も果たしている。このような用途には人工ダイアモンドを付けるべきである。今回は魔力供給の役目も果たす人工魔石を変わりに使用することにした。


この魔道具は指定したポイントに埋める必要がある。これが意外と面倒くさいのだ。最低でも数十メートル下の地下に埋める必要があるからだ。魔道具を埋める為に深い穴を掘る必要がある。この部分に関してはアルフォードは強引にやることにした。基礎工事に使う土木魔法を範囲を拡大して一気に掘り進めたのだ。そこにビーコンを設置し、重力魔法でゆっくりと魔道具を運ぶ。しかし、掘った穴は埋める必要があるが、空気孔を確保する必要もある。したがって特殊な穴の埋め方をする必要があった。落下物が下に落ちない様に穴の上に鉄板を配置し魔法で硬化する。そして空気孔の上に土を被せて隠蔽魔法を施した。


 魔道具は勝手に掘り進んで行く。問題は残土だ。残土は空間魔法で一回圧縮し、後から魔法倉庫ストレージで回収することにした。魔道具を10日も動かすと地下道は開通する。邪魔になった魔道具と残土を魔法倉庫ストレージで回収し、地下道の中を検査魔法で確認すれば良い。ポイントごとに監視用の水晶球を配置し、屋敷とリンクするのも忘れてはいけない。


「で、何のようだ?」


 アルフォードは二人が工房にやってきたとき既に作業を終えており。先程の手順を確認しいていたところだったのだ?


「御主人が、また変な工作を始めたと知ったのだ」


「御主人様、食事がパンと塩水だけになるのは駄目だと思います」


 カチュアの方は完全に私情が交じっている。元はと言えば料理が出来ないのが根本的な問題になる。料理の仕方を教えねばならないとアルフォードは思った。ただしそのうちだ、先に魔法の勉強させないと駄目だ。簡単な火魔法が使えるだけでも料理は簡単にできるようになる。

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