大賢者と勉強
「――という訳で、お前等はこれから勉強をしてもらう」
「勉強嫌いです」
「嫌いなのだ」
「勉強は将来のための投資だ。将来出来ることが増えるぞ」
「投資と言うのが分かりません」
「投資ってなんなのだ?」
経済がまだ、そのレベルなのを思い出すアルフォードだったが、そこでめげては行けない。
「まぁ、それは良いから料理ぐらいは出来る様になれ。将来の選択肢を広げるために勉強するのだ」
どこかのオカンみたいなことを言うアルフォードだった。前世の記憶が影響しているのか、アルフォードが二人を見るその目は、子を見る親の目だった。ヘタすると孫を見る目かも知れない。
「御主人様が作るのを待っていれば良いのでは無いでしょうか?」
「カチュアは今後、硬いパンと塩水だけな。自分で飯ぐらい作れないとここでは餓え死にするぞ」
「それはむごいです」
「取りあえず、この本を読め。着火の魔法ぐらい使えないと料理も出来ないからな。あ、ナイフで調理器具を切らない練習もしないといけないけどな」
――と言いながらアルフォードが取り出したのは魔法入門書だった。
「御主人様、そこは料理の入門書を出す流れですよね?なぜ魔法の本なんでしょうか?」
「それは、適正が無くても魔法が使えること証明する人柱……証人が欲しいからだな。それに、魔法が使えた方が便利だぞ」
「確かに影に潜って、後ろからグサッとやるには魔法をつかうと便利だと思います」
「カチュア、そう言うヤバイ考えをする癖は直そうな」
カチュアは暗殺者ギルドで育てられているので、発想が人殺しとつながり安いのだ。アルフォードは、
「こいつは従来の適正盤だ。カチュア、エリザ、試して見るか?」
アルフォードが二つの円盤をテーブルの上に置き、手をかざすと両方の適正盤の全面がこうごうと輝き出す。
「意識的に魔力をコントロールしないと全光してしまうな」
アルフォードは、手を振ると、適正盤は光を消した。
「魔力をコントロールできるとこんなことも出来るぞ」
アルフォードが六芒星の上で、指を動かすと光の部分だけが点滅し、しばらくすると火の部分が点滅する。上から順に点滅を繰り返し、一周するとまた光の部分だけが点滅している。
「御主人様、面白い道具ですね?」
「道具じゃなくて魔法の適正を調べる魔道具な」
「それが光らないから私はメイドをやっているわけですよ」
カチュアが拗ねる。
「まぁその適正盤は1500年前の技術で作られたものだからな。まともな検査出来ないぞ。こんなものを使い続けてきたのは、これが正しいと言う思い込みと貴族が利権を守るためだろううな。10歳までに魔法の訓練をしていれば光らせる事ぐらいは出来るからな。この適正盤と呼んでいるものは、魔法の適正ではなく現時点での魔力放出力を調べるだけのゴミみたいな魔道具だ」
アルフォードは一呼吸置いて言う。
「そこで、新しい魔力調査魔道具を作ってみた」アルフォードはデジタル式の時計の様なものを机に置く。「これは、個人の固有魔力値を計算して数値として出力するものだ。血を一滴垂らすだけで魔力保有値が分かるすぐれものだ。ただ、これでも魔法の一面しか分からない。魔法の才能と魔力保有値は戦闘狂以外は余り関係ないからな」
「御主人様、――と言いますと?」
「魔法を使う上で重要なのは魔力のコントロールと大気中の魔力――つまりマナを上手く上手い使いことの方が重要だ。体内の魔力――つまりオドで使える魔法など、トップクラスの魔力保有者ですら中級が良いところだ。これは人が体内に保有できる魔力量はさほど多く無いからだ」
「御主人様、どういう意味でしょうか?」
「御主人、説明が全くわからないのだ」
そう言えば、エリザにも分かる様に説明しないと行けないとアルフォードは考え直した。
「そうだな、今日沢山食べたからといって来月まで食事を食べなくても良いことにはならないだろ?」
「御主人様、硬いパンと塩水は勘弁です」
「そろそろ肉が食べたいのだ」
「そこの二人、話をそらさない。それから肉が食べたいなら食べられるものを狩ってきてから言うこと」
「つまり、食いだめが出来ないのと同じで、魔力も必要以上に溜めておくことが出来ないと言う事ですか?」
「まぁ、そんなところだ。そして放出出来る魔力もその魔力に依存するわけだ。蓄えられる魔力に限界があるから、足りない分を外部から補わないといけないわけだ。だから魔法の才能に魔力保有量は戦闘狂以外意味が無い。それより魔力をコントロール出来る能力の方が重要だ」
「あの御主人、戦闘狂は魔力保有量が関係するのか?」
「あいつらは、マナが無いところに突っ込んでくるから魔力保有量が無いとすぐ死ぬからな。そう言う特殊な環境に行く戦闘狂と違って一般の魔法使いは、マナが溢れているところでしか魔法を使わないからマナを上手く利用するコントロール能力の方が重要な訳だ。これの俺の様にな」
カチュアは、そこは一般ではなく逸般の間違いでは無いかと思った。
「――とは行っても適正に関係するから魔法値を調べる事は無意味な訳ではないな」
二人が計測魔道具に血を垂らすとすぐに数字が表示される。しかし、カチュアにもエリザにも意味不明な数字だった。6667と7742と言う数字が表示されただけだからだ。
「カチュアは闇属性に適正、エリザは風と土属性に適正があるな」
「その数字をみただけで分かるのですか?」
「あ、その数字はダミーだぞ。計測結果は紙に映し出される」
――と言いながらアルフォードは念信魔道機の用紙を見せる。
「検査結果はこっちに送られてくる様にしてある」
「――ではその数字は?」
「雰囲気だ。数字がぐるぐる回って表示されるとなんか検査している雰囲気になるだろ。時間が無かったから作りかけの魔道具を適当にくっ付けただけよ」
「御主人様、そんな機能は要らない気がします」
「御主人、それなら色で表示すればいいのだ」
「色案を採用だな。エリザには夕飯には燻製肉をご褒美だ」
「カチュアは?」
「塩水の塩を増やしてやろう」
「そんな御無体な」
「それよりこの結果から、指導案を検討するから魔法の指導はここまでだな」
「それより魔法の練習はしなくて良いのでしょうか?」
「まだしなくて良いぞ。座学が先だ。それより俺が、訓練した事みたことあるか?」
「無いです」
「その間、このドリルを解いて貰おう」
アルフォードが手渡したのは分厚い計算ドリルだ。計算ドリルといっても二人は既に四則演算は教えているから、少なくとも初等数学のレベルがある内容だ。その計算ドリルにカチュアは目が眩み、エリザは頭を唸らせる事になるのだった。
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