大賢者とゴーレム
アルフォードは考え事をしていた。鉄が足りない。これから工作するには鉄が足りない。木材では強度が得られない。勿論、物質高価や強化の魔法を施せば様は足るのだが、鉄の汎用性にはかなわない。そうわけで鉄を作る事にしたのだが、材料とする鉄鉱石が無い。時々、探知魔法で資源を探しているのだが、見つかるのは当分先になりそうだ。そこで解決法を思いついた。
「そうだ、無ければ作れば良いのだ」
思い立ったらすぐ行動するのがアルフォードだ、カチュアとエリザを連れて川に向かった。
「御主人様、何をするのでしょうか?」
「君たちは、この箱いっぱいになるまで川の石をいれること」
アルフォードは
「これ一杯ですか?」
思わずエリザが聞き返す。
「そう一杯になるまでだ。ご飯の時間には間に合わせよう」
「御主人様、無茶ですよ」
カチュアが言い返す。
「いや、こういう風にやればすぐ終わると思うけど」
アルフォードは、重力魔法で、川の石を浮遊させるとそのまま木箱の中まで移動させる。
「それが出来るのは御主人様だけですから」
「そうかな、重力属性中級魔法なのだけどなぁ」
「なんですか、その重力属性と言うのは、普通の魔法は、水、火、土、風、光、闇のどれかの属性に分類されるはずですよ。謎の属性を作らないでください」
「そうだな、カチュアは博識だな。その六属性に雷と氷と無を加えた九属性が普通に知られて居る元素魔法だ」
「そうでも、てへへ」
やけに照れるカチュアであった。
「しかし、元素魔法の本質はこれら九属性ではなく重力、空間、時間、情報の時空四属性だぞ。覚えておくと良いぞ」
「その話、初めて聞きました。今から詳しく教えてください」
突然お座りして講義を受けるポーズをするカチュア。
「御主人、この女、そうやって仕事サボる気なのだ」
大きな石を抱えながらエリザが言う。エリザは熊人モードになっており、大きな石を軽々抱えていた。
「そういうわけで、後は任せた。こちらは準備があるから」
そう言うと二人を残してアルフォードは飛び去った。
ただの石から鉄鉱石が出来る訳がない。それには加工が必要だ。そのための準備が必要なのだ。
「これから砂鉄を作る」
目の前には地面に四角がくっついた十字の形の大きなな穴が空いており、それぞれの区画が魔法陣で区切られている。底にも魔法陣が引かれていた。これだけの準備をするのにどれだけかかったのは知らないが、カチュアとエリザが木箱に石を詰め終える前には準備を終えていたのだ。傍らにアースゴーレムが控えている。アルフォードはゴーレムに作業させてこの穴を作ったのだ。
「御主人様、石拾いもゴーレムにやらせれば良かったのでは?」
散々、石を運んだ所為か手も足も重いカチュアが言う。
「一度に動かせるゴーレムは無限ではないからな。任せられるものは任せるべきだろ。時短だ時短」
「どうせ、暇なのだからゆっくりやっても変わらないと思いますけど」
「実験の結果は早く見たいだろ。準備が一番時間がかかるのに面倒なんだぞ、その部分を時短するのはあたり前だろ」
アルファードは言い返した。
「全く、御主人の不規則発言にも困った者です」「そうです、御主人様は時々、いやしょっちゅう意味不明なことをおっしゃります」
お前らにはかなわないけどなとアルフォードは心の中で突っ込みをいれていた。無駄な会話に興じている時間は今は無いのだ。ボケの応酬をひたすら続けていたら○物語一冊分になってしまう。それは一番避けたいストーリーなのでアルフォードは急いで作業に取りかかることにした。
箱一杯になった石を穴の中に流し込んでいく。重力魔法により10tはあろうかと言う木箱が空中に浮かび、そのまま回転して、穴の中に石礫が吸い込まれていく。全ての木箱の中身が空になったのを確認して、アルフォードは穴の中に魔力を放つ。
「この穴のそこには風化の魔法陣が引いてある。それからこいつは分離の魔法陣だ。海から塩を取るときに使った魔法陣の親戚だ」
魔力を流し込んでくと石は自ら砕けて、小さくなり最後は砂より細かい状態になっていく。アルフォードは十分細かくなったのを確認すると、そこに別の魔力を流し込んでいく。
「この魔法は、砂を流体化するものだ。流体化させて圧力をかけると、それぞれの魔法陣にえらんだ物体が通過する仕組みだな」
「言っていることが理解出来ません」
エリザが正直に言う。
魔力を込められた砂は、4つに隔てられた魔法陣を通過する。一つの魔法陣からは白い砂がこぼれ落ちたが予想より少なかった。2つめに多いと予想したは白い
「この白い砂はガラスの材料でしょうか?」
「そうだよ、カチュアは賢いな」
「まぁこの屋敷の頭脳担当ですから」
「カチュアは、掃除担当なのだ」
「エリザは、筋肉たんとうですよね」
互いの間に火花が飛び散る。アルフォードはそれを無視して赤い砂を確認する。この赤い砂は赤錆だ。三二酸化鉄とも言う。箱一杯になった石のおおよそ1/10ぐらい。ざっと500kgぐらい。ここから鉄を作ると半分の250kgが限界だろう。アルフォードは考えた。少なくとも倍の500kgは欲しい。そもそも500kgあっても車一台分より軽いくらいだ。500kgからゴーレムを作ろうとすると人間大のものが5体ほどしか作れないと資産している。ちなみに白い
「思ったより少ないな……。もう一回やるしかないか。二人とももう一回河川に向かうぞ」
「「えー」」
肩を落としながら河川に向かう二人を見ながら、この方法は非常に効率が悪い。やはり鉄鉱石を探した方が良いかも知れないとアルフォードは思った。
その前に白い
鉄は温度を変える事で性質が変わる金属だ。焼き入れ、焼なましと言う言葉は聞いたことがあるだろう。刀鍛冶が、鉄を火にくべて赤くなったらトンカチで叩いて、それを水に付けて急冷している動画も見たことがあるかも知れない。温度をコントールすることにより鉄は硬くも脆くもなるのだ。そして炭素の含有量を調整することで強い鉄——つまり鋼を作る事が可能だ。古代に於いて、鉄と鋼は別の金属と考えられていたこともあるようで、鋼が金より高い値段で取引されていた時代もある。実際のところ第二次産業革命に入るまで鋼の量産など出来なかったのである。鋼の良質な生産地は限られており、日本は比較的鋼が手には入りやすい環境にあった。それは砂鉄を使った特殊な製鉄法による。手間がかかり高温が使えないと言う特殊環境により鉄加工を鍛造に依存していたので他国に比べると鋼をより沢山作る事ができたようだ。その代わり安価な鋳鉄用の鉄が不足しており鉄釘などは輸入に依存していたのではないかと推測されている。鋳鉄などは南部鉄器などに限定され量産できる様になるのは明治に入ってからだ。
日本以上に鋼を供給していたのはインドのウーツ地方とされている。ここではるつぼを使うことで鋼を量産することが出来たと言う。ウーツ鋼はアラビア商人により西に運ばれ、ヨーロッパではダマスカス鋼と呼ばれていた。しかし、後にヨーロッパ人がインドでウーツ鋼の製造方法を探したときには既に作られておらず、既に失伝していた。そのためダマスカス鋼の製造方法は謎とされている。現在作られているダマスカス鋼擬きは独特の紋様を模しただけのものばかりだ。
それはともかく、アルフォードは鍛冶のまねごとをしていた。それは土や砂を使わないゴーレムを作成するためだ。アイアンゴーレムならぬスティールゴーレムを作る為だ。しかし既存の鉄では脆いので自作することにした。アルフォードは大賢者であり、錬金術と元素魔法に長けている。錬金術を使い、鉄に含まれる炭素量や他の成分を調節し、元素魔法で加熱と急冷をおこなうことで効率的に鋼が作れるはずだ。
「——と考えたのは良いが、ここまで失敗が続くとさすがにへこむ」
多少知識があるとはいえ、そこは素人の付け焼き刃。大量の失敗品を作り出していた。あるものは硬いが、力を加えると真っ二つに折れてしまい、あるものは柔らかすぎて加重に耐えられず潰れてしまう。一応素材が鉄なので溶かしてしまえば再利用可能ので、ゴミの山を作らずに済んでいるのが唯一の救いだろう。
時間はあるのでその分、試行錯誤できるので問題ない。情報属性上級魔法
後ろから「御主人様、ご飯まだかな。お腹がすいたのだ」などと聞こえ来るがアルフォード無視することにした。お前は、硬くなったパンと塩水でも食ってろ。エリザは、アヒルをむしろうとするんじゃない。後、卵を生で食べるな。お腹壊すから。
「しかし、鉄パイプを組み合わせただけだと見た目が先○者にしかならないから見た目には拘わろう。上から甲冑を着せる事にしようか」
インターネット老人会にしか分からない独り言を呟きながらアルフォードは思案する。
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