伯爵と森

 

 そのころノギス伯爵は、家の中をうろうろしていた。伯爵にとっては久しぶりの休暇だった。休暇が少ないのは部下がサボらないのを見張っているのと無駄な説教で毎日が潰れている所為だが、自分の能力を棚に上げてノギスは部下が無能だから休みが取れないのだとぼやいた。しかも、その休暇もアルファードの捜索の状況を集めるので全て潰れていた。


「まだあの野郎は、見つからないのか?」


 部下を呼びつけまくしてる。もちろんあの野郎とはアルフォードの事だ。ノギスは、アルフォードの足取りが追えない事が不気味思えた。裏でどんな工作をされているかと思うと不安で眠れないのだ。自分がやっていることを相手に重ねあせてみてしまう部分は、ノギスが小悪党の証明だ。そのため、アルフォードに自分を重ねてみてしまい、何をやっているのか不気味に感じてしまう。その不安を解消するためにはまずアルフォードの居所を突き止めて何を企んでいるか白日の下にさらす必要があるとノギスは考えていた。


「迷いの森近くの村で見かけたと言う報告の後が不明です。引き返したと言う情報もあれば、そのまま公爵家の別荘へ行ったと言う噂もありまして、現在手分けして捜索している段階です」


 迷いの森に入ったなどとは微塵にも思わない部下達だった。迷いの森は奥まで入り込むと絶対に出てこられないと言われており、そのためわざわざ死にに行くような事はしないだろうと言う認知バイアスが働いたからだ。そのような所に行きたくないと言う保身も入って居る。ノギス伯爵に振り回されて死にたい部下など誰もいないのだ。


「ええい、どうでも良いから早く探し出せ」


 働かない部下達(そう思って居る)にイライラを募らせる伯爵だった。先日の屋敷接収時に監査官に、アルフォードは不正がバレるのを恐れて逃げたと報告し冤罪をかけようとしたのだが、報告官は、元使用人や出入り商人からアルフォードがノギスの部下に暴行を受けたと言う報告をいた様で、お前が拐かしたのでは無いかと言われる始末だ。疑いは、どうにでももみ消せるが噂だけは収束するのを待つしか無い。それか別の噂をでっち上げて上書きするかだ。自分の置かれた状況を考えると居場所はつかんでおかないと危ないようだ。どこから撃たれるか分かったものではない。ノギスは疑心暗鬼に陥っていた。そして、アルフォードが国内のどこかに潜伏し策動していると思い込みをしていた。タダでさえ、魔法省に辞表が大量に届いており、その対策に追われているのだ。辞表など受け付けないと突き返しているが、その時既に海外に出国していたりする。しかも神聖魔法使いが法王国保護されていたり、元素魔法使いが協商のギルドに囲われているとこちらも、うかつに手が出せない。恐らくアルフォードが先導して居るに違い無い。そう思うとノギス伯爵は余計に腹立たしく感じて歯ぎしりをさせた。一刻も早く、ヤツの居所を探し出して尻尾をつかむ必要がある。そう思うと部下に対する語気も荒くなるのだった。


そこに別の部下が飛び込んできた。


「法王国で休暇中の大賢者の部下が全員辞表を出してきました。全員、他国への亡命を希望しているとのことです」


「あの野郎」


 自分が原因なのにアルフォードの所為にするノギス伯爵だった。自業自得である。


「お前らは追跡を続けろ、俺は人が抜けた穴をどうするか相談してくる」


 ノギス伯爵は、そういうと魔法省に小走りに去っていた。


「俺達もこの屋敷を辞めようか?」


「給与も安いし、休みも無いし、そもそも魔法使いじゃないから伯爵の言うことを聞く理由も無いよな」


「そういえば、セバス商会と言う新興の商会が高給で従業員を雇っているらしいぞ」


「駄目元で行ってみるのも良いかも知れないな」


 そう言い合う部下達だった。


 ノギス伯爵が王都を駆け回り、アルフォードの居所を探していたころアルフォードは木材の到着をのんびり眺めていた。


「こんな感じだな」


アルフォードはうなずくと、網に木材がひかっかると反応して稼働する魔道具を取り付けた。この魔道具が反応したときだけゴーレムを稼働して木材を回収させる仕組みを構築した。こうして自然の力と魔法を融合させた自動木材回収魔道システムが完成した。


問題は回収した木材の加工だが、それはまた別の話になる。

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