大賢者と木材
温室作成が一段落したある日。
「そうだ木を切りに行こう」
アルフォードは朝ご飯を食べ終わると突然起ち上がって叫んだ。
「御主人、ついにおかしくなったかにゃ。例えおかしくなってカチュアが見捨ててもエリザがお世話するから大丈夫にゃ。」
エリザが心配そうに見つめる。その証拠に猫人弁丸出しで早口まくして、尻尾がクルクル回転している。
「カチュアも絶対に御主人様のことは見捨てません。こういうのを若若介護と言うのでしょうか?」
カチュアも対抗して言う。こちらは下心が丸見えだ。むしろお前らには自立して欲しいのだがとアルフォードは心の中で叫んだ。この流れは前にも見たかも知れないが気にしてはいけない。
「予想以上に材木の消費が多くて不足しはじめたのだ。散歩がてら木材を入手してくるからお前らは留守番な。餌……昼飯としてチーズとパンが置いてあるから余計なことをせずそのまま食べろ。台所は立ち入り禁止な」
そういうとアルフォードは飛行魔法で屋根裏の窓から飛び出していった。
「飛行魔法が使えたら御主人様について行けるのかな」
飛び去るアルフォードをみつめながらカチュアがつぶやく。
「そのためには魔法を覚えないといけないのにゃ。エリザは普通の本を読むのが精一杯でとても魔法書までは回らないにゃ。仕方無いからアヒルと戯れていることにするにゃ」
野生に帰りつつあるエリザは猫弁丸出しになっていた。
「じゃあ、カチュアは庭掃除でもしている」
アルフォードは北の方に飛行し、川の上流にある森に辿り着いていた。西の迷いの森でも良いのだが、あそこは王国領なので出来れば近づきたくないのだ。まず、確認することは木の品質だ。建材として向いている木と向いてない木がある。正確には建材として使い所が難しいと言う意味だ。建材に向いている木はある程度の太さと長さがあり直線に伸びているタイプの木だ。それでいて燃えにくく強度が十分あれば良い。この辺りに生えている木は、その点を十分クリアしていた。無論、建材向いていない木でも用途はある。それは薪や錬金術の素材としての用途だ。もう一つ調べる事があった。それは森の木の本数だ。無闇に切りすぎると森が消滅してしまう。森が少ないファーランドでは自殺とも言える行為だ。そのため森の資源を管理し、切り倒した分だけ新たに植林する必要があった。そして切る木も木が密集しすぎて自然発火しそうな木を優先的に切り倒さないといけない。しかし、一番重要なのは魔獣と鉢合わせしないことだった。戦闘力が皆無のアルフォードが魔獣と鉢合わせれば100%負ける。負けない為には戦闘そのものを回避するが最善手だ。そのため、森の北側に《誘因》の魔法をかけ、周辺に魔物がうろついていないか探知魔法で監視することにした。ついでに周囲に自立型のゴーレムを徘徊させる事にした。仮に魔獣が現れても自立型ゴーレムに攻撃を仕掛ける。ゴーレムが対処できれば良いし、仮に無理でも稼いだ時間の間に逃げると言う寸法だ。
「ふふ、この魔道具の実験をする機会が訪れた」
アルフォードが呟くと、
チェインソーを取り出すと動作を確認しながら木を切り倒す。ウイーンと言う音を立てるとみるみる内に木が切り倒されていく。錬金術と併用すると数秒で一本の木が切り倒せる。アルフォードは倒れる瞬間の木を素早く加工し、成形した木材を川に落とした。木材は川に一回沈んで浮かびあがり、そのまま下流に流れていく。
「これは、うまくいけそうな感じだな。このまま百本ばかり木材を切り倒すか」
アルフォードは、一時間ほどで百本の木を切り倒し、全て
(さて、次は下流で網を張らないと行けないな)
空を飛んで屋敷の方に戻る。屋敷の東側を流れる川に荒い網をはっていく。水流に流されない様に両岸をしっかり固定していく。
「さて、到着まで何日かかるかな」
アルフォードがやっているのは川を使って木を運べるかと言う実験だ。上手くいけば、上流に木こりゴーレムを常駐させ、必要分だけ木を切る様にすれば下流の網にひっかかる。それを感知して自動的に回収すれば、木を切りに行く必要がなくなる。
ストレージ任せに無駄な在庫を抱えるなど二流のスローライフだ。必要な時に必要な分だけ調達できる仕組みを構築する。ジャスト・イン・タイム、いわゆるカンバン方式だ。それを導入した方が時間が無駄にならない。その様な時間は自堕落な生活に回すべき、それがアルフォードの持論だ。今、アルフォードが考えているのは専用の魔法陣を入れ込んだ専用ゴーレムを素材採取場に配置し自動収集する方法である。
アルフォードは木材が不足する度、木を切りにいくのが面倒なので全部自動化してしまおうと画策していたのである。
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